Love you
ダンス中は集中しているので、客の顔をいちいち見ていられない。もちろん私はプロだ。客席を見回してニッコリと笑顔を振りまく。客は自分に微笑みかけられたと勘違いして、惚れる。そうしたらしめたもの、すかさず股を広げて自分のアソコを見せつける。興奮した客は私の股間から目が離せない、家に帰っても目蓋の裏に私のアソコの映像が目に浮かぶのだ。またのご来店お待ちしております。
今日は新振り付けのお披露目の日。いつもの様に客席を見回していると、一人の男性客の前で視線が止まる。そのお客さんは360度回る回転テーブルの270度くらいの位置に座っていた。ダンサーの裸を見るためには決してオススメではないその場所で、熱い眼差しを向けてくる。正直タイプの顔だった。私はプロ意識を取り戻すとポーズをとり続けた。
この劇場では、一時間半のステージを一日五回行う。一人の出番は15分だとしても体力勝負のお仕事だ。
私はこの仕事にプライドを持っている。例え世間から鼻つまみ者の様に思われていても。
私は元々AVに出ていた。お金にはなったが肉体的にも精神的にも自分をすり減らしていた。一万円稼ぐのに一万の細胞が死んでいく、十万円稼ぐのに十万のプライドを捨てていく。別に後悔はしていない。凡人のチキン野郎には稼げない富を得たのだ。だけど疲れちゃった。一年前に今の社長からストリッパーにならないかと誘われた。私のダンス腕前が目に止まったらしい。
私の特技はバレエ。幼少期は本格的にバレリーナを目指していた。そのためバレリーナ設定のAVに沢山出た。股間にローターを仕込んでステージに立つ私、ついに快感で絶頂に達しステージ上で倒れ込んでしまう。そこへ股間に白鳥の首をつけた男たちがやってきて、無理やり私を犯していく・・・何これ?男の人って本当にこんなので興奮できるの?
ストリップは違う。最高のステージにしようと言う意気込みがある。照明さんも衣装さんも舞台監督さんも、私の裸がどうやったら最も美しく見えるかを考えてくれている。
色鮮やかな光に照らされた一糸纏わぬ姿の私は、まさに美の女神ヴィーナス。だってそうでしょ?人前で裸になるのは神さまとストリッパーだけ。
おかげ様でファンが沢山できた。ブラマイドを買ってくれたりプレゼントを貰ったり、本当にありがたい。
ファンとの交流を深めるため毎日のSNSへの投稿は欠かせない。
「本日もご来場頂きましてありがとうございます❤️今日からの新しい振り付け、みんな気に入ってくれたかな?⭐️
注目はウサちゃんダンスです。ぴょんぴょん跳ねる私を可愛いと思ったらいいねしてね🙇」
「くるみちゃんのウサちゃんダンス可愛かったです❤️初日お疲れ様です。」
「ありがとう❤️」
「初日お疲れ様でした。とっても可愛かったです。ブロマイドも楽しみにしてます。」
「ありがとう❤️」
「初めまして、とても素敵でした。一目見た瞬間からくるみさんのファンになりました。しなやかな体、確かなダンス力、美しい御尊顔、くるくる変わる表情、天使かと思いました。一瞬目が合った気がしたけど、きっと勘違いなんでしょうね。また来週見に行きます。」
あの人だ。私は直感した。また来てくれるの?
「初見さん、大歓迎だよぉ🙇来週待ってます❤️」
付き合った男は掃いて捨てても、捨てきれない程いるけれど、なんだか初恋の様にウキウキしてる。
若いのにストリップに来るなんてどんな人なんだろう?まさか童貞じゃないよね?AV時代からのファンかな?だとしたら困るなぁキモオタが多いのよね。
そして約束の水曜日、いつもより入念に化粧をしてステージに立つ。270度の位置にはあの人がいた。
気になる男性の前で全てを曝け出す女の気持ちが分かる?
今すぐ布で体を隠したい?ストリッパーであることを恥ずかしいと思う?
私はね、もっと見てと思う。穴の隅々まで凝視して、私を目で犯して欲しい。私が人生で最も輝く瞬間、それを目に焼き付けて、そして愛して欲しい。
出番が終わってSNSに投稿すると、コメントを付くのが待ち遠しく思う。
「今日も拝見させて頂きました。実はくるみさんは、今書いている小説の主人公のイメージにピッタリでして、私は小説を生業としているのですが、おかげで完成に漕ぎ着けそうです。」
小説家なんだ。だから若いのに平日の昼間からストリップを見に来たのね。小説家とストリッパーの恋。なかなないいわね。だけどあなたに私を愛する覚悟があるかしら、AVに出てた私に、ストリッパーをしている私に。
翌週、休みを貰ってタトゥーを掘りに行った。
体が資本の私たちはタトゥーを掘るのはタブーだが、隠しようは幾らでもある。
律儀にも270度のいつもの席に彼はいた。
私は広げた股を少しだけ閉じて彼にだけ股間が見えるようにすると、付け陰毛をむしり取って、ヴァギナの少し上に掘ったLove youのタトゥーを見せつけた。
どう?これが私流の告白方法。こんな私を愛してくれる?
ステージを後にする時、チラリと客席を見た。こくんと頷く彼を流し目で見送った。
太陽のような
それはまだ人が生まれる以前、天界の学校に通う若き二人の天才がいました。
一人はサントレット。その優しさで人の心に温もりを与える。もう一人はムーナリオ。その知性で人を暗闇より救う。
陽気で人懐っこいサントレットに対して、プライドが高く冷たい印象を与えるムーナリオ。二人の性格はまるで違うが天界でも有名な仲良しコンビだった。
「おい、誰にも彼にも施しを与えるな。サニーの悪い癖だぞ。困っている者を全て助けることはできないんだ。」
「僕は困っている者は全て助けたいんだ。欲張りかな?」
「自分の幸せを優先しない奴は欲張りとは言わないよ。人を救うならもっと効率よくやれってこと。」
「僕は不器用だからね、ムーなら違うやり方をするだろうけど。」
「俺ならな、自分の助けられる範囲を設定する。その上で助ける意味のある者、この天界に役立つ人間を選定する。そうすれば最小の力で最大の効果を得られる。」
「ムーらしいな。」
どちらの天才が天界のリーダーになっても素晴らしい治世を行ったでしょう。しかし、天界学校からの卒業試験に合格できるのは一人だけ、今回のテーマは天界を照らせ。
「ダメだ、また失敗だ。」
「どうしたムー。」
「俺は天界を照らすため、電気の力で光を放つライトという物を作ることにしたんだが、見ての通り失敗だ。電流を通すために電気麒麟の尻尾を使っているだが、麒麟から切り離された尻尾は時間が経つと生命力がなくなり電気を通さなくなってしまう。」
「役にたつか分からないけど、この薬を使ってみてはどうかな?」
「それは、お前の家に代々伝わる復活の秘薬じゃないか?そんな大事な物を軽々しく人に渡そうとするな。」
「でも前々から思っていたんだ。ムーならこの薬を最も必要な人に、最も適したタイミングで使ってくれるんじゃないかと思って。だからさ、麒麟の尻尾の生命維持に役立つかは分からないけど、貰ってくれよ。」
「俺とお前は卒業試験を争うライバルだ。優しさだけでは人の上には立てないぞ、分かっているのか?」
「分かっているよ。だからリーダーはムーがやったらいい。」
「確かにお前はリーダーに向いてないようだ。」
ムーナリオはライトを完成させました。天界は光に彩られ、天界人はその偉業を称えました。
しかしそれも束の間、サントレットが核融合に成功しました。その光は大地を照らすだけでなく、草木を育て、動物達を躍動させ、光を享受できる全ての者に温もりを与えました。サントレットの全ての者を救うと言う夢が実現したのです。
ムーナリオのプライドは砕け散りました。サントレットに抱いていた友情や尊敬の念は、嫉妬や恨みに変わり、日に日に憎悪を募らせて行きました。
「世間では、次期リーダーにお前を望む声があるようだが、俺は認めない。」
「もちろんだよ。リーダーはムーがやればいい。」
「分かっていないな。お前が生きている以上、俺はリーダーにはなれないんだよ。だから死んでくれ。」
そう言うと懐から小瓶を取り出しました。
「その薬は俺の家に伝わる毒だ。楽に死ねる。体内に毒が残ることもない。さぁ、飲んでくれ。」
「僕は世界中の人々を幸せにすることに成功したと思っていた。だけど、違ったんだね?親友の君のことを不幸にしていたなんて。」
そう言うと毒薬を一気に飲み干してしまいました。
「バカやろう!本当に飲み込むやつがあるか!」
ムーナリオはいいリーダーになろうと必死に頑張りました。しかしムーナリオが頑張れば頑張る程、民衆の心は離れていってしまいます。どうしても思ってしまうのですサントレットが生きていればどんなに素晴らしかっただろう。
「サニー、お前を失って、世界から光が消えたようだよ。どんなにライトで照らしても心を照らすことはできない。お前を失ってからと言うもの俺の才能は枯れてしまった。サニー帰ってきてくれ、俺にはお前が必要なんだ。もう一度会いたいよ。」
その時、ムーナリオの脳裏に復活の秘薬ことが思い出されました。
「俺はなんてバカなんだ。復活の秘薬があるじゃないか。待ってろよサニー、いま行くぞ。」
安置されていたサントレットの遺体に復活の秘薬をかける。
みるみる内に顔色が戻り、心臓が鼓動した。
「うーん、ここは?」
「サニーよかった。俺だよ、ムーナリオだよ。すまなかった、俺が間違っていた。俺の小っぽけなプライドのせいだったんだ。お前に嫉妬し、殺そうとするなんて。だから俺は小っぽけなプライドなんか捨てるよ。お前のように下々の者の気持ちになって、下々の者に全てを与えて、本当に偉大な天界人になれるよう頑張るよ。」
「遅いよ、ムー。復活の秘薬を使い切ってしまったのかと思ったじゃないか。」
「お前、図ったのか?」
「ごめんよ、ムー、だけど事情があって仕方なかったんだ。」
「いいよ。俺の虚栄心を見抜いていたのだな。さぁ、サニー、民が待っている世界を治めてくれ。」
「僕にはもう一日中世界を照らすことはできない。そこで一日を昼と夜と言う物に分け、朝を僕が、そして夜は君が照らしてくれないか?」
こうしてサントレットは太陽となり昼の世界を照らし、ムーナリオは月となって夜を照らすことになるのでした。
「サントレット、君が治める昼は本当に明るいな。俺には太陽のように夜を照らすことはできない。だけど君がいれば永遠に夜を照らし続けると誓おう。」
0からの
①やり直し
「願いを言え。」
「人生をやり直したいんです。0からスタートさせて下さい。」
「容易いことだ。」
視界がなくなり、自分の魂がどこか遠くへ旅立っているのを感じた。やがて長い旅が終わり魂が着床するのを感じる。
あれ?手足が動かない。赤ちゃんに戻ったからか?いや、そう言う感じでもない。
「さぁ、スタート地点に戻してやったぞ、お前は地球最初の生物となって0からやり直すのだ。」
いやー、人間に戻るまでに35億年かかるんですけどー。
②012345
スキーを楽しんでいた一太郎、二葉、三蔵、四子は吹雪に見舞われ誰のものとも知らない山荘に逃げ込んだ。
スマホの電波は届かず助けを呼ぶこともできない。
そんな中、一太郎が殺される。続いて二葉も、
三蔵と四子は互いを疑うが結果二人とも殺されてしまう。
そして誰もいなくなった。
一太郎が息を吹き返した。
「誰だ?俺の心臓をナイフで刺したのは?たまたま心臓が左右逆にあるせいで生きながらえてはいるが。」
二葉も息を吹き返す。
「誰よ?私を毒殺しようとしたのは?たまたま毒に耐性があるから良かったものの。」
「誰だ?俺の首をロープで釣ったのは?たまたま窓が開いていたせいで、部屋が冷やされ仮死状態になって生き延びることができたが。」
「誰よ?私のこと殺した奴?ゾンビになっちゃったじゃないの。」
「誰だ?僕を生き埋めにしたのは?息どめ世界一の僕だからなんとか死なずに済んだけど。」
結果一人増えた。
③なまり
私は地球を侵略しに来た宇宙人だ。まずは日本語学校に通い、言語をマスターする所から始めよう。
「われわれは、ニホンゴをベンキョウしたいのだ。」
「まずは、そのなまりを取るところから始めましょうね。」
④剃髪
私は田舎者だ。都会に馴染みたくて髪を金髪に染め、遊び歩いた。結果男に騙され、借金を背負い、お寺に逃げ込んだ。
金髪の髪を剃り上げる。元の自分に戻るために。
同情
魔導兵器ウィンガイナー。古代超科学王国が作り出した人型殺戮兵器だ。しかし小国ナーザレが周辺の大国から身を守るためには、この死神に頼るしかなかった。
ウィンガイナーを動かすには、二人の搭乗者を必要としていた。そして私たちは小さい頃より乗り手としての教育を施されて来た。
「アンナとウリス、よく聞きなさい。ウィンガイナーは意思のある兵器、お前たち二人が心を通い合わせ協力しなければ、精神を侵され暴走を始める。かつてウィンガイナーの暴走を止められず国が三つ滅んだと言うぞ。」
私と同乗者のウリナは血こそ繋がっていないが、身長、体重、年齢、全部同じ、見た目もそっくりだ。だけど一番肝心なのは、私たち二人の魔力量が同じであると言うこと。ウィンガイナーの動力には搭乗者の魔力が使われるため、私達が選ばれた理由はその魔力量の高さによるのでした。
私たちは精神を最高に同調させることに成功した時、感情を共有することができる。それを私たちは〝同情〟と呼んだ。
「わー、美味しそうなケーキ!」
「わー、美味しそうなケーキ!」
「チョコレートが口の中でとろけちゃう。」
「チョコレートが口の中でとろけちゃう。」
「また来ようね。」
「また来ようね。」
私たちに秘密はなかった。秘密を持てようはずもなかった。
だから、秘密を持とうとした私が悪かったのだ。
私とウリスはできるだけ一緒に行動するよう言われているがプライベートな時間もある。私は時間が空くと大好きな木彫り人形を見に、木工屋さんに行く。特に、木彫り人形の中にひと回り小さな木彫り人形が入っていて、その木彫り人形の中にもひと回り小さな木彫り人形が入っていて、最終的に人差し指を立てた右手だけが入っているマボローシカというオモチャが好きだ。
「マボローシカお好きなんですか?」
初めてクロノから声をかけられた時、背が高くて堀が深くて大人っぽい人だなと思った。なので、私と同じ十八歳だと聞いた時は二重に驚いた。
「はい、大きさが違うだけの木彫りの人形なんですけど、色んな想像を掻き立ててくれると言うか。」
「分かるよ。これとこれは親子なのかな?とか、魂が分裂したもう一人の自分なのかなとか。」
「そ、そうなんです。」
「僕はよく旅をするので、お土産にその土地の変わったマボローシカを買ったりするんだけど、興味ある?」
「はい、私、この国から一歩も出たことがないので、よその国のマボローシカを見てみたいです。」
「じゃあ、明日この場所にこの時間で再会しよう。ぼくの名前はクロノ。君は?」
「私はアンナ。よろしくね。」
クロノにあった瞬間から私の心は騒ぎだした。寝ても覚めてもクロノのことばかり、そしてなんとかウリスにバレないように出来ないかと思い悩んだ。
私とウリスは好きな食べ物も一緒、好きな音楽も一緒、好きな洋服の趣味も一緒。もしクロノの存在を知ったらきっと恋のライバルになる。
絶対に気取られてはならない。心にさざなみを立てることも許されない。そうした中でウリスとの同調感は下がってしまう。
「アンナどうしたの?心ここに在らずじゃない。」
「ちょっと風邪を引いて体調が悪いだけ。」
明日はクロノに会う日だ。溢れ出る思いを抑え付けなくてはならない。気分が悪いからと言って家路につくと、眠れない夜を過ごした。待ち合わせの時間よりかなり早く家を出たので、木工屋さんに向かう。偶然にも木工屋の前にウリスがいたので声をかけようと思って、「ウリス。」と口から漏れる瞬間、私は身を翻し建物の陰に隠れた。
クロノ。ああ、やっぱり辿り着いてしまったか。
クロノが顔を赤らめて東洋風のマボローシカを渡している。
酷いよ。私にくれるって言ってたのに。私の初恋はこうして終わった。
次の日、ウリスを問いただす。
「昨日、男の人にマボローシカを貰ってたでしょ?」
「ああ、クロノ?いい男でしょ?私、あの人に首っ丈。」
「なんであの人なの?」
「んー、アンナちゃんが好きな人がどんな人か気になって後を付けたのよね。」
やっぱり気づいていたのだ。
「そしたら、凄い良い男じゃない?声をかけたら意気投合しちゃって。」
どんなふうに意気投合したか目に浮かぶ。マボローシカ人形の話でもしたのだろう。
「あの人、私の事が好きだって。アンナちゃんごめんね。だけどアンナちゃんが悪いんだよ。私に内緒で男を作ろうとするなんて、私とねアンナちゃんは一心同体なの。離れちゃいけないの。だからね、私あの人の事を誘惑したの。」
「え?クロノのこと好きじゃないの?」
「もちろん好きよ。だけどアンナちゃんとは比べものにならない。だってソウルメイトだよ。お互いのことを極限まで分かり合えるなんてそんな人間他にない。」
ウリスはクロノの事を振ったらしい。クロノはもう一度やり直そうと懇願して来たけど、私の気持ちは冷めてしまっていた。
それから暫くして、
クロノが逮捕された。
ウィンガイナーの秘密を探るために敵国から送り込まれたスパイだったのだ。この国ではウィンガイナーの秘密はトップシークレットだ。秘密を暴こうとしたものには厳罰が下る。
クロノが処刑されてしまう。その話を聞いた時、私の心は崩れ落ちそうになった。私はまだクロノの事を愛しているのだ
涙が溢れてくる。悲しみに押しつぶされて立つ事ができない。その時だ、ウリスの心が流れ込んできた。
笑っていた。私が悲しみに暮れていると言うのに、あの女は笑っていた。
何が〝同情〟だ。気持ちが通じたって思いは全然別のところにあるのに。
私はウィンガイナーに乗り込むことにした。そう、一人で。
暴走なんかクソ喰らえだ。私はクロノを助ける。例え結ばれことはなくても。
ウィンガイナーを動かすと人々は逃げ回った。
そして流入してくるウィンガイナーの意識。
なんと言う人間への憎悪。私は身を固くし必死に意識の壁を作る。クロノが囚われている牢へと向かわねば。
私は城の壁を破壊すると鉄格子をこじ開けた。
「今のうちに逃げて。」
「その声はアンナか?すまなかった。人質を取られて仕方なくやったことなんだ。」
「同情はしないよ。そんな余裕はこっちにはないんだから。」
「ありがとう、君のこと忘れないよ。」
ウィンガイナー、何でそんなに人間を憎むの?そう言う風に作られたから?だったら私が解放してあげる。
枯葉
「私を弟子にして下さい。」
「私は弟子を取らない。」
「でしたら、せめて教えを乞うことはできないでしょうか?」
「これだ。」
そう言うとダリオ老師は1枚の枯葉を差し出した。
「それが我が剣の真髄じゃ、その枯葉を持って修行に励むがよかろう。」
私はプロジア国のシルバー騎士団の団長、カエデル・ドフヨウ。プロジア国で1番の剣の使い手だと自負しているが、38歳を迎え、肉体的な衰えから我が剣に限界を感じていた。
そこで伝説の剣聖ダリオ老師を訪ね、剣の修行をつけて貰おうとやってきたのだ。
先程手合わせして頂いたのだが、私の剣は軽くいなされ、老師の剣が首元にピタリと突きつけられた。私は感動し、すぐに弟子入りを志願したが老師は弟子を取らないと言う噂通り、断れてしまった。
あれから10年経つ。私は枯葉の意味を考える日々を送り、老師の動きを見よう見まねで練習した。
プロジア国は今年、建国200年を迎える。
新しい国王は建国を記念し武術大会を開く事を思いついた。
シルバー騎士団からは私が、ゴールド騎士団からはアーロン・クルテッツ。私よりも20も若く、クルテッツ家最高の逸材と称されていた。
「おい、カエデル爺さん。その歳で俺と戦うのは無謀ってもんだ。棄権したって誰も責めない。俺だって爺さん殺したとあっちや、夢見が悪いわ。枯葉の四つ葉のクローバーに幸運を手にする力はねぇんだからよ。」
我がドフヨウ家の家紋は四つ葉のクローバーだ。それを枯葉だと言って馬鹿にしているのだ。
私は剣を抜くと、体を半身に構えた。脱力して腕をダラリと下ろすと剣だけをクルテッツに向けた。
クルテッツは力任せに剣を振り下ろしてきた。大振りだがスピードは凄い。私は剣を合わせるのを避け、半転しながら前足を引いてかわす。
クルテッツは流れるように剣を切り上げてきた。私は今度は足を引きながら1回転し、振り向きざまに剣を水平に払った。クルテッツは避けることなく鎧で受け止めた。
「枯れ爺いの1撃なんか効きはしないぜ。」
剣を振り下ろし、切り上げる。その単純な攻撃に慣れ始めて先読みで避けようとした時、クルテッツは急に攻撃方向を変え突きを繰り出してきた。
しかし私はその瞬間を待っていたのだ。剣を返して突きの軌道を変えると鞭のように剣をしならせ、兜と鎧の隙間を狙い突いた。
「降参しろ。私が腕を2cm伸ばすだけでお前の命はない。」
クルテッツは手から剣を放し、項垂れた。
私は懐から1枚の枯葉を取り出し、クルテッツの頭上で放す。
「枯葉は青葉に比べて柔らかくしなる。脱力して体を柔らかく保つことで相手の力を利用できるのだ。枯葉だって落ち葉となり土地の養分となって新たな命を育む役目がある。これを機にお前が成長してくれると嬉しいのだがな。」