枯葉
「私を弟子にして下さい。」
「私は弟子を取らない。」
「でしたら、せめて教えを乞うことはできないでしょうか?」
「これだ。」
そう言うとダリオ老師は1枚の枯葉を差し出した。
「それが我が剣の真髄じゃ、その枯葉を持って修行に励むがよかろう。」
私はプロジア国のシルバー騎士団の団長、カエデル・ドフヨウ。プロジア国で1番の剣の使い手だと自負しているが、38歳を迎え、肉体的な衰えから我が剣に限界を感じていた。
そこで伝説の剣聖ダリオ老師を訪ね、剣の修行をつけて貰おうとやってきたのだ。
先程手合わせして頂いたのだが、私の剣は軽くいなされ、老師の剣が首元にピタリと突きつけられた。私は感動し、すぐに弟子入りを志願したが老師は弟子を取らないと言う噂通り、断れてしまった。
あれから10年経つ。私は枯葉の意味を考える日々を送り、老師の動きを見よう見まねで練習した。
プロジア国は今年、建国200年を迎える。
新しい国王は建国を記念し武術大会を開く事を思いついた。
シルバー騎士団からは私が、ゴールド騎士団からはアーロン・クルテッツ。私よりも20も若く、クルテッツ家最高の逸材と称されていた。
「おい、カエデル爺さん。その歳で俺と戦うのは無謀ってもんだ。棄権したって誰も責めない。俺だって爺さん殺したとあっちや、夢見が悪いわ。枯葉の四つ葉のクローバーに幸運を手にする力はねぇんだからよ。」
我がドフヨウ家の家紋は四つ葉のクローバーだ。それを枯葉だと言って馬鹿にしているのだ。
私は剣を抜くと、体を半身に構えた。脱力して腕をダラリと下ろすと剣だけをクルテッツに向けた。
クルテッツは力任せに剣を振り下ろしてきた。大振りだがスピードは凄い。私は剣を合わせるのを避け、半転しながら前足を引いてかわす。
クルテッツは流れるように剣を切り上げてきた。私は今度は足を引きながら1回転し、振り向きざまに剣を水平に払った。クルテッツは避けることなく鎧で受け止めた。
「枯れ爺いの1撃なんか効きはしないぜ。」
剣を振り下ろし、切り上げる。その単純な攻撃に慣れ始めて先読みで避けようとした時、クルテッツは急に攻撃方向を変え突きを繰り出してきた。
しかし私はその瞬間を待っていたのだ。剣を返して突きの軌道を変えると鞭のように剣をしならせ、兜と鎧の隙間を狙い突いた。
「降参しろ。私が腕を2cm伸ばすだけでお前の命はない。」
クルテッツは手から剣を放し、項垂れた。
私は懐から1枚の枯葉を取り出し、クルテッツの頭上で放す。
「枯葉は青葉に比べて柔らかくしなる。脱力して体を柔らかく保つことで相手の力を利用できるのだ。枯葉だって落ち葉となり土地の養分となって新たな命を育む役目がある。これを機にお前が成長してくれると嬉しいのだがな。」
2/20/2024, 9:58:40 AM