太陽のような
それはまだ人が生まれる以前、天界の学校に通う若き二人の天才がいました。
一人はサントレット。その優しさで人の心に温もりを与える。もう一人はムーナリオ。その知性で人を暗闇より救う。
陽気で人懐っこいサントレットに対して、プライドが高く冷たい印象を与えるムーナリオ。二人の性格はまるで違うが天界でも有名な仲良しコンビだった。
「おい、誰にも彼にも施しを与えるな。サニーの悪い癖だぞ。困っている者を全て助けることはできないんだ。」
「僕は困っている者は全て助けたいんだ。欲張りかな?」
「自分の幸せを優先しない奴は欲張りとは言わないよ。人を救うならもっと効率よくやれってこと。」
「僕は不器用だからね、ムーなら違うやり方をするだろうけど。」
「俺ならな、自分の助けられる範囲を設定する。その上で助ける意味のある者、この天界に役立つ人間を選定する。そうすれば最小の力で最大の効果を得られる。」
「ムーらしいな。」
どちらの天才が天界のリーダーになっても素晴らしい治世を行ったでしょう。しかし、天界学校からの卒業試験に合格できるのは一人だけ、今回のテーマは天界を照らせ。
「ダメだ、また失敗だ。」
「どうしたムー。」
「俺は天界を照らすため、電気の力で光を放つライトという物を作ることにしたんだが、見ての通り失敗だ。電流を通すために電気麒麟の尻尾を使っているだが、麒麟から切り離された尻尾は時間が経つと生命力がなくなり電気を通さなくなってしまう。」
「役にたつか分からないけど、この薬を使ってみてはどうかな?」
「それは、お前の家に代々伝わる復活の秘薬じゃないか?そんな大事な物を軽々しく人に渡そうとするな。」
「でも前々から思っていたんだ。ムーならこの薬を最も必要な人に、最も適したタイミングで使ってくれるんじゃないかと思って。だからさ、麒麟の尻尾の生命維持に役立つかは分からないけど、貰ってくれよ。」
「俺とお前は卒業試験を争うライバルだ。優しさだけでは人の上には立てないぞ、分かっているのか?」
「分かっているよ。だからリーダーはムーがやったらいい。」
「確かにお前はリーダーに向いてないようだ。」
ムーナリオはライトを完成させました。天界は光に彩られ、天界人はその偉業を称えました。
しかしそれも束の間、サントレットが核融合に成功しました。その光は大地を照らすだけでなく、草木を育て、動物達を躍動させ、光を享受できる全ての者に温もりを与えました。サントレットの全ての者を救うと言う夢が実現したのです。
ムーナリオのプライドは砕け散りました。サントレットに抱いていた友情や尊敬の念は、嫉妬や恨みに変わり、日に日に憎悪を募らせて行きました。
「世間では、次期リーダーにお前を望む声があるようだが、俺は認めない。」
「もちろんだよ。リーダーはムーがやればいい。」
「分かっていないな。お前が生きている以上、俺はリーダーにはなれないんだよ。だから死んでくれ。」
そう言うと懐から小瓶を取り出しました。
「その薬は俺の家に伝わる毒だ。楽に死ねる。体内に毒が残ることもない。さぁ、飲んでくれ。」
「僕は世界中の人々を幸せにすることに成功したと思っていた。だけど、違ったんだね?親友の君のことを不幸にしていたなんて。」
そう言うと毒薬を一気に飲み干してしまいました。
「バカやろう!本当に飲み込むやつがあるか!」
ムーナリオはいいリーダーになろうと必死に頑張りました。しかしムーナリオが頑張れば頑張る程、民衆の心は離れていってしまいます。どうしても思ってしまうのですサントレットが生きていればどんなに素晴らしかっただろう。
「サニー、お前を失って、世界から光が消えたようだよ。どんなにライトで照らしても心を照らすことはできない。お前を失ってからと言うもの俺の才能は枯れてしまった。サニー帰ってきてくれ、俺にはお前が必要なんだ。もう一度会いたいよ。」
その時、ムーナリオの脳裏に復活の秘薬ことが思い出されました。
「俺はなんてバカなんだ。復活の秘薬があるじゃないか。待ってろよサニー、いま行くぞ。」
安置されていたサントレットの遺体に復活の秘薬をかける。
みるみる内に顔色が戻り、心臓が鼓動した。
「うーん、ここは?」
「サニーよかった。俺だよ、ムーナリオだよ。すまなかった、俺が間違っていた。俺の小っぽけなプライドのせいだったんだ。お前に嫉妬し、殺そうとするなんて。だから俺は小っぽけなプライドなんか捨てるよ。お前のように下々の者の気持ちになって、下々の者に全てを与えて、本当に偉大な天界人になれるよう頑張るよ。」
「遅いよ、ムー。復活の秘薬を使い切ってしまったのかと思ったじゃないか。」
「お前、図ったのか?」
「ごめんよ、ムー、だけど事情があって仕方なかったんだ。」
「いいよ。俺の虚栄心を見抜いていたのだな。さぁ、サニー、民が待っている世界を治めてくれ。」
「僕にはもう一日中世界を照らすことはできない。そこで一日を昼と夜と言う物に分け、朝を僕が、そして夜は君が照らしてくれないか?」
こうしてサントレットは太陽となり昼の世界を照らし、ムーナリオは月となって夜を照らすことになるのでした。
「サントレット、君が治める昼は本当に明るいな。俺には太陽のように夜を照らすことはできない。だけど君がいれば永遠に夜を照らし続けると誓おう。」
2/23/2024, 5:06:51 AM