怪々夢

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2/10/2024, 2:06:01 PM

誰もがみんな

誰もがみんなうなじフェチだ。

満員電車で目の前に女がいる時、男は必ずうなじを見ている。そして女はうなじを見られて興奮している。

ショートカットのうなじもいいが、やはりポニーテールが最高だろう。後れ毛という武器を携えているからだ。

正直、満員電車で目の前にポニーテールがいると、顔に毛が当たり不快だ。だが、うなじを覗く喜びのためなら、そんなストレスは吹っ飛ぶだろう。

想像してみて欲しい。ロングの髪の女性の場合、髪を結っていなければうなじを見ることはできない。本来見れないものを見せているということは、スカートを捲し上げてパンティを見せている様なものだ。いや、パンティは所詮布切れだ。生の肌を露出させる行為はそれ以上のエロチシズムだ。

うなじの何が良いって?産毛だよ。産毛。永久脱毛してツルツルのうなじもいい。要するに男の目線を気にしてケアした訳だ。その子の恥じらいが伝わってくる。が、産毛がガッツリ残っているうなじが最高だ。この子はうなじの発毛状況を把握していない。俺だけがお前の恥毛を把握しているのだ。人の秘部を握ると言う行為は誰もがみんなそそる事だ。

私くらいのプロになると、産毛の生え方で性格も分かる。濃いめの産毛が密集して生えている女は男性ホルモン多めだ。気が強くプライドが高い。それに対して短めの産毛が薄ら生えている女はおっとりしていて争い事を好まない。

K駅で乗り込んで来る女子高生は100人に1人いるかどうかと言われる濃い毛と薄い毛が均等に生えるハイブリッド産毛の持ち主だ。私は目当ての子を見つけて背後に回り込む。何だか痴漢みたいだな。あの様の卑劣な連中と一緒にされては敵わないが。

「あれ?この子の毛並みが変化しているぞ。」

私はブラシ職人だ。豚の毛、馬の毛、山羊の毛を用途によって使い分ける。この子のうなじにハイブリッド産毛以外に動物の毛が混じっている様な気がする。

「そんなことある訳ないよな。」

さすがの私も今日は性的興奮を覚えなかった。
次の日も女の子の背後に立ったが、何と動物の毛が増えていた。

私はこの事を知り合いの動物医に相談する事にした。途方もない話で気が引けたが、話を聞いた動物医の目が怪しく光った。

「お前まだ、乗っ取られていないのか?」

そう言うと動物医はメスを片手に襲ってきた。
私は体をよじって攻撃をかわすと出足払いで地面に叩きつけた。うなじに目をやると動物の毛が生えている。

「何が起こってるんだ。」

私はうなじの調査をはじめた。驚いた事にK市の住人全てから動物の毛を発見することができた。

K市の住人は誰もがみんな人間以外の何かになっていた。

私は突然誰かにうなじを舐められ、肩をすくめた。次の瞬間腕を固められ地面に組み伏せられる。見上げると例の女子高生だった。

「誰もがみんな、秘密を抱えている。それを暴こうとする者は碌な死に方しないよ。」

2/9/2024, 6:30:42 PM

花束 ①

君は花が好きだったから、誕生日には花を渡した。
毎回渡す花を変えると、毎年違う笑顔を湛える君。

君はもうこの世にいないけど、

お墓にお供えする花は、命日じゃなくて誕生日に持って行くよ。


花束 ②

フィギュアスケートの選手が花束を抱えている。両手で抱えきれない程の花束だ。
だけどこのスケーターはジャンプの着地を失敗しているのに。失敗しているのにぃ。

私は自分の仕事にプライドを持っています。ミスなど決して犯さないし、日本で最高の技術を持っている。だけど誰も私を評価してくれない。死人が相手の仕事だからだ。わたくし、住職をしております。

私が念仏を唱える時はしっかりと気持ちを込めている。故人へのお悔やみを述べ、死後の幸福を祈り、そして俺の念仏の素晴らしさを褒めてくれないかなぁ。と。

そして日本最高の能力を持つ私は、遂に死者会話をする能力を身に付けた。

「お坊様、あなたの念仏は本当に素晴らしい。おかげで極楽浄土に行けそうです。」

「ならば、私を讃えるために花束を渡してくれないか?」

「花束と言われても困りますが、息子の枕元の立って葬式用の花を住職に渡すように伝えます。しかし、お坊様、あなた煩悩多過ぎです。」

2/8/2024, 11:23:31 PM

スマイル

僕の子供の頃のあだ名は金太郎飴でした。
どんなにいじめられてもヘラヘラ笑っていたから。
そんな僕が教師になるなんて、笑えない冗談だ。

案の定、僕はクラスで起こっているいじめをただ傍観している。

いじられているのはスマイル。軽い知的障害があって、いつもニコニコ笑っている。まるで子供の頃の僕じゃないか。

どんなことをしてでもスマイルを守らないと。

大丈夫。

僕は刑務所でも笑ってられるから。

2/8/2024, 11:41:47 AM

どこにも書けないこと

男が私の腰に手を回してくる。

「ちょっとやめてよ。」

「おい、ここまで来ておいて、そのまま帰れると思うのか?」

男が覆い被さって来ようとする。私は自らブラウスのボタンを外した。

「分かった、分かったから、シャワーを浴びせてよ。あなただって気持ちいい方がいいでしょ?」

私の一言が効いた。男が一瞬動きを止める。私はその隙に立ち上がるとブラを外して男に投げつけた。男は右手でブラをキャッチすると、ニヤリと笑った。

脱いだブラウスを回収し、化粧ポーチを持ってシャワー室に向かう。生まれたままの姿になると、化粧ポーチからナイフを取り出す。男はシャワー室から戻った私の姿を見て驚愕の声を上げた。

「お前、男だったのか?」

「だったら何だって言うんだよ。」

私は先程までの女声を捨て、ドスを効かせて言い放つと、
後ろ手に隠していたナイフを男の首筋に突き立てた。
小さなナイフの一撃。だけどそれだけで男は二度と動かなかった。ナイフを引き抜くと大量の返り血が私の体を染めた。
私はシャワーを浴びる前に鏡に映った自分の姿を見る。返り血のドレスを着た私の姿は我ながらとても美しいと思った。

シャワーを浴び、男物の装いに身を包むと自分がいた痕跡が残っていないかを確認してからマンションの一室を出た。

男の名前は三嶋慎二と言った。芸能プロダクションの社長をしていて、テレビに出してやると言っては若い女をマンションに呼び、性的暴行を繰り返していた。今回はレイプされた娘の父親からの依頼だった。そう、私は殺し屋をしている。

長い間裸でいたせいか、風邪を引いたみたいだ。風邪薬を貰いに病院に行く。問診票に性別の記入欄があった。男と女。私は両性具有だ。睾丸に当たる部分に女の穴がある。小学校まで男の子の格好をして登校していたが、中学生になり胸が大きくなり始めると周囲からの奇異の目がイヤになり、転校して女の子としてやり直した。

今は一般人として過ごす時は男装して藤原充と名乗り、殺し屋の時は女装して鵜飼光里と名乗っている。

問診票に目を落とす。性別欄に私の性別を記入する欄はない。私の性別はどこにも書くことができない。小さい頃から性別欄を見る度に自分がこの世にいてはいけないような気分を味わった。

処方箋を貰って病院を後にする。私は三嶋慎二のマンションに向かった。犯人は必ず現場に戻ってくるなどと言うが、私もその一人だ。三嶋の部屋を見ると男がキョロキョロと部屋の様子を伺っていた。私の警戒信号が点滅した。あの男何かある。

「どうかされたんですか?」

「ああ、いえ、こちら三嶋慎二さんの部屋で間違いないですか?」

「そうですけど、刑事さんですか?」

「違います。小説家をやっておりまして、三嶋さんの事件を調べているんです。」

「本物の小説家の方に会えるなんて光栄だな。失礼ですがお名前を聞いても構いませんか?」

「あっ、水谷健斗と言います。」

「小説もそのお名前で?」

「はい、売れない小説家なんで知らないと思いますけど、三つほど単行本化されています。」

「そうでしたか、早速購入してみようかな。ところで事件を調べてると仰っていましたが、犯人の目星はついているのですか?」

「いえ、犯人を探している訳ではないんです。今書いてる小説の参考にしようと思っていまして。被害者の三嶋さんなんですが、首筋をナイフで一刺しされて殺されているんです。実は同様の事件が日本各地で起きているんですが、被害者の共通点が見つかっていないんです。被害者の居住地はバラバラ、関係性も見つかっていない。容姿や職業にも関連性が見出せない。」

「それは不思議ですね。」

「ただし、僕が調べた所によると、被害者は皆、相当女性関係がだらしなかったようなんです。中には被害者のせいで自殺された方も。」

「それは酷い。」

「そこで、ここからが僕の推理なんですが、被害者に近付くには女性の方が有利だと思うんです。なんせ被害者は無類の女好きですからね。ただし、女性の力でナイフで一突きというのは考えにくい。防犯カメラも女性の姿を捉えた物はないようなんです。となると男か?いや、犯人は女装した男なんではないか?」

「ほう。」

「今僕が書いている小説が性同一性障害の殺し屋が主人公でして、反抗現場までは男装して行くんですが、女装して被害者の部屋に入り、反抗を済ませた後は元の男装に戻って何食わぬ顔で出て行く。と言う手口を繰り返すんですよ。殺人の依頼主は娘を辱められた父親とか、性的被害に遭った女性とかなんです。」

「なるほど、さすが小説家だ。素晴らしい想像力ですね。」

「流石にちょっと荒唐無稽でしたかね。」

「いえいえ、小説としては良くできていると思います。」

「失礼ですが、このマンションの住人の方ですか?」

「はい、上の階に住んでいるんですが、気になって声をかけたんです。良く言うでしょ?犯人は犯行現場に戻ってくるって。」

「僕、怪しかったですか?通報されない内に退散した方がいいかな?」

「その方がいいでしょう。」

水谷健斗、勘のいい男だ。このまま放置しておく訳にはいかない。水谷の小説を出版している出版社を調べ、張り込みをして、一人の男に目星をつけた。古典的だが、飲み物を服にこぼし、お詫びがしたいからと連絡先を交換した。

その男は案の定、編集者をしており、水谷健斗のファンだと言うと、合わせてやると約束してくれた。キスの一回くらい安い物だ。編集者はいつも作家先生を接待するためのレストランで私に水谷を紹介した。もちろんその日のうち連絡先を交換した。

私と水谷はデートを重ねた。初めのうち水谷はたいそう緊張していた。純朴な水谷にとって私みたいな美人と話す機会などなかったのだろう。ゆっくりとゆっくりと水谷の緊張をほぐしていった。私も水谷とのデートを悪くないと感じていた。

そしてついにホテルに誘われた。私はホテルに行くことを了承したが、その代わり自分が予約したホテルにしか行きたくないと条件をだした。水谷に断れるはずがない。藤原充の名前でホテルを予約し、先にホテルに着くと女装を済ませてからLINEで部屋番号を教えた。舞台は整ったのだ。

部屋に入ってもいきなり事は始めなかった。雑談で場を和ませ、頃合いを図ってシャワーを浴びてくると告げた。

私は裸になると、ナイフを隠しもしないで部屋に戻った。

「やはり君だったか?」

「気付いていたの?」

「僕のような男に君は美しすぎる。それに以前三嶋のマンションで会った男性に似ていると思っていたんだ。」

「そう。最初から気付いていたのね。」

「しかし、残念だな。君の美しさを文章に残せないなんて。」

「見せられないのが残念だけど、返り血を浴びた私は今よりもっと美しくなるのよ。」

「今よりもっと?どこの誰にも君の美しさを書き残せるものはいないだろう。」

私はナイフを持つ手に力を込めた。
男の部分の私が、早く殺せとせき立てる。
女の部分の私が、殺したくないと泣きじゃくる。

性別欄を思い出した。どこまでいっても中途半端な私。
私はナイフを逆手に持ち帰ると、自分のペニスを切り落とした。

2/6/2024, 8:40:16 PM

時計の針

今日は小学校の同窓会である。高校受験も終わり、就職活動が始まる前の今のうちに久しぶりに集まろうという事になった。同窓会に出席する人間なんて必ず目当ての人間が1人はいるものだが、俺の目当ては佐々木ウミさんだ。

佐々木さんとは小学校4年生の時に同じクラスになった。所謂ちょっと変わった子で、そのせいでバカにされたりイジワルされていたりした。

佐々木さんは、ワラジを履いて学校に来たり、給食に出たシシャモに名前を付けて持って帰るような子だったが、中でも印象に残っているのは針の動かない腕時計をしていた事だ。

「ウミちゃんはなんで壊れた時計をしているの?」

僕と佐々木さんは学童保育に通っていて、周りの友達が帰った後も、いつも最後まで親の迎えを待っていた。

「これは壊れたんじゃないよ。7時で固定してるの。」

「何でそんな事をしているの?」

「お母さんが迎えに来るのが7時だから忘れないようにしているの。」

「でも、それだと時計の意味がないんじゃない?」

「時計って、時間を教えてくれる物でしょ?私にはこれで十分だよ。」

そんな佐々木さんが、親の仕事の都合で引っ越す事になった。学童最後の日、僕はプレゼントを渡す事にした。

「ウミちゃん、これプレゼント。」

「腕時計だ。だけど、4時で止まってるよ。」

「僕らが学童で会うのが4時でしょ、だから今度会う時はまた4時に会いたいなと思って。忘れないように。」

「うん、私、コウスケ君のこと忘れないね。」

今、時刻は18:45。同窓会の開始は19時からだが、まだ佐々木さんは来てなかった。今回、佐々木さんの連絡先を調べて同窓会に誘ってくれた幹事の近藤の仕事ぶりには感謝している。

佐々木さんと会うのは7年ぶりだがすぐに分かった。Gパンにシシャモのイラストが入ったパーカーを着た女の子が会場の入り口にいる。あれは佐々木さんに違いない。僕は入り口に向かった。

「あれ?コウスケ君じゃない?すぐに分かったよー。」

「僕も佐々木さんのことすぐに分かったよ。」

「え?昔みたいにウミって呼んでよ。」

僕は佐々木さんの腕に目をやる。

「ウミちゃん、腕時計の針が動いてるね?」

「やだぁ、子供じゃないんだから、いつまでも動かない時計なんかしてないよ。でも、コウスケ君に貰った腕時計はまだ持ってるよ。どうせなら今日も4時に会いたかったね。」

「そうだね、もう大人だもんね、ウミちゃん大人っぽくなった。」

「嬉しい。化粧のせいかな?コウスケ君もすっかり大人になって格好いいよ。モテるんじゃないの?」

「モテないよ。ウミちゃんこそ、彼氏いるの?」

「いない、いない。私のこと女の子扱いしくれるのコウスケ君だけだよ。私さ、子供の頃嫌われてたじゃない?だから優しくしてくれるコウスケ君のことが好きだった。私の初恋の相手はコウスケ君かな。」

「僕の初恋の相手も、ウミちゃんだよ。」

「本当?嬉しい。」

「そして、僕の初恋は現在進行形。」

僕の止まっていた恋の時計の針が再び動き出した。

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