!マークじゃ足りない感情
!
うちの猫が何か狙ってる……
!!
お、飛び出した!
!!!
なんと、スズメを咥えてドヤ顔で戻ってきた!
🐱「主様、これあげる。主様の今日のごはんはこれにしな」
僕「猫が喋った!?」
!マークじゃ足りない!!!!
(@_@)
君がみた景色
話を盛る人、というのがいる。
僕の伯父がそうだった。母の兄である伯父は、見てきたことをいつも大袈裟に言う人だった。
仕事で日本中を飛び回っていた伯父は、子どもがいなかったせいか、妹の子である僕を可愛がってくれて、よく旅先の土産を抱えて遊びに来た。
けれど僕が心待ちにしていたのは土産よりも、伯父の話だった。
「すごいもの見たぞ」
伯父の語る景色は、まるで冒険譚の一場面のようだった。
北海道の岬では、巨大なトドの群れが空を横切るように崖を飛び越えていったという。
九州の港では、船を囲むように光る魚の大群がおしよせて、海面をきらめかせながらダンスしたという。
ある町の工場では、ロボットが火花を散らして戦いを繰り広げていたという。
子どもだった僕は息を呑んで伯父の話に聞き入った。世界はこんなにもワクワクすることでいっぱいなんだと胸が躍った。
父は伯父の話を面白がり、母は呆れていた。
大人になって実際に伯父の話していた場所にいけば、「こんなもんか」と思うことも多かった。
“真相“に気づくこともあった――火花を散らしたロボットのケンカ、あれは溶接作業のことだったのか、とか。
伯父は夢想家だったのだ。現実の景色を少しだけファンタジーに変換する才能があった。サービス精神旺盛な人だった伯父は、僕のために見てきた景色を特別な形に編集してくれたのだ。
そして夢想家というのは、往々にして孤独な人である。
きっといつまでも、想像の夢を呆れること無く聞いてくれる人を求めていたのかもしれない。伯父は晩年、孤独のうちに生涯を終えた。
おりしも、お盆である。
もし今この場に伯父がいたら、天国を盛大に盛って語ってくれることは想像に難くない。
虹色の湖があるだとか、天使はケチだけど神さまは意外といい奴だとか。
僕も今では立派な夢想家になった。なんたって、まだ見ぬ景色を物語にしようとしているのだから。お金にもならないのに。
もし僕に想像力の翼があるのだとしたら、それを広げてくれたのはきっと、伯父が盛りに盛って聞かせてくれた話に違いない。僕の内面に広がる景色を豊かにしてくれたんだ。
あの時も、こんな夕暮れ時だった。
言葉にならないものが、体の中で暴れ出した。
私の中にあった感情が全部混ざりあって、吐き出せないまま喉の奥で詰まった。
あなたは優しいのに、どうしてそうなるのか自分でも分からなくて、ただこの波に飲まれたら涙が出そうで俯いた。あなたの何気ない笑顔が、ひどく胸を締め付けていた。
ごめん。あの時顔を背けてしまったのは、私の心があまりにも醜かったからだよ。
彼女なら、こんな時も自然に笑うんだろう、そう勝手に比較して勝手に惨めになって冷静ではいられなかった。
私は言葉にするのがいつも苦手だけど、どうしていいかわからなくなるのは大抵、あなたの優しさに触れた時だった。
愛みたいな何かを求めてばかりいる自分が透けて見えた。あなたとの関係をそんな風にしか捉えられない自分がバカみたいで、消えてしまいたかった。
あなたは彼女と去っていったし、私は相変わらずうまく生きられない。あがいてばかりだよ。
でも優しくあろうって思ってる。あなたみたいに。
見上げれば、夕暮れの空は夜へと染まっていく。
私はこの色の名前を知らない。
胸にまた言葉にならない情動の波が押し寄せる。
私は全てを飲み込んで、ただ一人、夜へと向かう空を眺めていた。
真夏の記憶
私の頭はおかしくなった、ってみんな言うんです。
かわいそうに幻を見たんだろうって。
きっと暑さで頭がやられちゃったんだねって。
だけどあの日。あの夏の一番暑い日、私は確かに見たんです。
ーーじゃあね、またね。
あなたは笑っていました。
みんな、あなたが海に落ちたと言いました。
あなたは何もかも嫌になって、疲れてしまったのだろうと。
でも、私は違うって知っています。
あなたは海に落ちたんじゃない。帰ったんです。
青い水の中に吸い込まれていったあなたを、私は見ていたんです。
波飛沫の合間に、私が見たのは、美しく光る緑色の鱗と、しなやかに揺れる尾ビレでした。
あれが、あなたの本当の姿だったんですね。
私、しばらく声も出せずに見惚れていたんですよ。
本当のあなたがあんまり美しかったから。
今でも夢にみるほどです。息をするのも忘れるほど綺麗だった。
あなたはまだ、この海のどこかで泳いでいるのでしょう。果てしなく広がる青い海のどこかで。
潮風に吹かれながら目を閉じれば、青いきらめきの中で優雅に泳ぐあなたが、頭に浮かびます。
あなたは、じゃあね、またねと私に微笑んでくれた時と同じ優しい顔で、緑の鱗を輝かせます。
近頃、よく思い出すんです。
あなたが海に帰ったあの夏のこと。
息苦しいほどの暑さと、胸に迫る海の青。
お母さん。そろそろ私も、海に帰る日が近づいているようです。
こぼれたアイスクリーム
暑くて動きたくなかったのに、出かけようと君は言った。
しかも夏らしいことをしたいから、海へ行こうだなんて。
私たち、恋人同士でもないのに。
きっと家族連れでいっぱいだよ。海って潮風で髪が痛むんだよね。日焼けしたくない。私、海アレルギーなんで。
色々と行きたくないアピールをしたのに、君は結局、なんだかんだで私を連れ出した。
夏だし出かけたら、なんかいいことあるかも、なんてぼんやりした理由で。
海辺のアイスクリーム屋さんでアイスを買った。
並んで歩く私たち、端から見たら恋人同士みたいに見えるんだろうか。
かわいい色のアイスクリームは暑さですぐに溶けて、道端にぼとりと落ちた。
すぐに虫が寄ってくる。
君と目が合って、思わず笑い合った。
ほらね。
夏らしいことしようなんて思うからだよ。
私たちは並んで歩き出す。手は繋がなかった。多分それが正解。この距離がいい。
冷たい甘さなんて、一瞬で消える。
みっともなく落ちたアイスクリームみたいに、ぐちゃぐちゃになるまで溶けあって面倒くさい私たちになるなんて嫌だよ。
うだる暑さも、かすかな疼きも、拭いきれない迷いも全部風が遠ざけてくれたらいいのに。