NoName

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あの時も、こんな夕暮れ時だった。

言葉にならないものが、体の中で暴れ出した。
私の中にあった感情が全部混ざりあって、吐き出せないまま喉の奥で詰まった。
あなたは優しいのに、どうしてそうなるのか自分でも分からなくて、ただこの波に飲まれたら涙が出そうで俯いた。あなたの何気ない笑顔が、ひどく胸を締め付けていた。
ごめん。あの時顔を背けてしまったのは、私の心があまりにも醜かったからだよ。
彼女なら、こんな時も自然に笑うんだろう、そう勝手に比較して勝手に惨めになって冷静ではいられなかった。
私は言葉にするのがいつも苦手だけど、どうしていいかわからなくなるのは大抵、あなたの優しさに触れた時だった。
愛みたいな何かを求めてばかりいる自分が透けて見えた。あなたとの関係をそんな風にしか捉えられない自分がバカみたいで、消えてしまいたかった。

あなたは彼女と去っていったし、私は相変わらずうまく生きられない。あがいてばかりだよ。
でも優しくあろうって思ってる。あなたみたいに。
見上げれば、夕暮れの空は夜へと染まっていく。
私はこの色の名前を知らない。
胸にまた言葉にならない情動の波が押し寄せる。
私は全てを飲み込んで、ただ一人、夜へと向かう空を眺めていた。


8/13/2025, 10:31:17 PM