手ぶくろ
今日寒空の下で別れを告げられた。
外は晴れていたはずなのに雪がチラチラ舞い始め、余計に寒さが増すのを感じながら|仁奈《にな》は家路までの道のりを一人トボトボと歩く。
「あれ、仁奈だよね、久しぶりじゃん」
「う、うん、|冬馬《とうま》久しぶり! こっちに帰ってたんだね」
なんてことだろう、こんな最悪な日に幼なじみの冬馬と久しぶりに会うことになるだなんて。
仁奈は泪していた目を擦りながら笑顔で振り向いたけど、冬馬にはお見通しの様子。
「三年間は転勤の予定だったんだけど、もう戻れることになったんだよ。 だからまた宜しくね!」
「そうだったんだね、うん、また宜しくね」
笑顔で答えたつもりだけど、泪が止まらない。
「仁奈どうしたんだよ、もしかして別れたのか?」
「う、うん··········で、でも大丈夫」
冬馬が転勤でこの土地を離れる時、駅まで見送りに来てくれた仁奈には彼氏がいて、指輪をしいたことも知っていたのだから、指輪をしていない仁奈を見て彼氏と別れたことを知るのは簡単なことだった。
「そんな目をして大丈夫なわけないだろ、あんなに仲良かったのにどうしたんだよ」
「うん、それがさ、他に好きな子が出来たんだって……だから、もう一緒にいられないって言われちゃった」
「なんだよそれ、酷すぎるじゃん」
「ても、もういいの……」
仁奈の彼氏は、冬馬の友達の友達だったから、冬馬はこのことに対して苛立ちを覚え、今すぐにでも電話しようとしてくれていたのだけど、仁奈はそれを辞めさせた。
「そんなんで良いのかよ!」
「うん、もういいよ……ありがとう」
人の気持ちなんて変わらないのだから、何か言ったところでもうどうしようも無いことくらい分かっている。
「そうだった、ずっと返そうと思ってたからまだ持ってたんだよ、手を出してご覧……」
「えっ、これって」
「ずっと返そうと思って持ってたんだよ、今日は寒いから早く使いな!」
ガサゴソとバックから取り出し手に渡されたのは、見送りに行ったあの日、冬馬に貸した仁奈の手袋だった。
もう無くなってると思っていたのに、大切に取っておいてくれていたなんて。
「あ、あのさ、こんな時に言うのはどうかと思うけど、良かったら結婚前提で付き合わない」
「あっ、えっと……」
「ごめん。いきなりは狡いよな! 返事は幾らでも待つから、考えといて欲しい」
突然の告白だったけど、冬馬は仁奈のことがずっと好きだったのだとあとから知ることに……。
仁奈はいつも自分を気遣ってくれる冬馬のことを家族のような存在だと思っていたので、ずっと恋愛対象として見ていなかったのだけど、今回のことがあってから少しずつ意識するようになっていき、そして何時しか付き合うことになった。
――それから数年後――
「ほら、二人共手袋忘れてるよ」
「そうだった、ありがとう仁奈!」
「ママ、ありっとさん」
仁奈は冬馬と結婚して、今は三歳の娘と一緒に家族三人で仲良く暮らしています。
――風邪――
学校一イケメンと噂の|高崎順《たかざきじゅん》先輩に告白された。
今まで、知っているイケメンは、皆自分の外見が良いことを周知しているからなのか性格が良くない。
顔だけはトップクラスなのに、内面的なところで見ると中身が空っぽで……そんな人が多い感じがする。
一つ年上の高崎順先輩がそれに当てはまるかどうかは分からない、以前から一目惚れして好きだったので真剣に付き合いたいと思っていた。
それだけに、今回の出来事は付き合えるチャンスなのかもしれない、でも性格がわからないので決められずにいる。
高崎先輩は本当に、何の努力も無しにモテる!
だからこの告白で断っり先輩を振ったところで、どうせ直ぐ誰かしら可愛い子、美人な子が傍によってくるに違いないだろう。
それに、高崎先輩にはつい先月まで、美人で性格の可愛い彼女がいたことは、学校内で知れ渡っていることだった。
それなのに、そもそも何が原因で彼女と別れれることになったのか、詳しい事情まで出回らないので知らないけど、どうやら噂では別れたらしい。
だから、先輩がフリーになった途端、連日のように高崎先輩の元には可愛い子や、美人な子が押し掛け、学校内で繰り広げられる告白劇が開始されることに……。
ボーナスゲームの如く、イケメンな高崎先輩目当てにやってくる女の子達を、先輩は選び放題だったはずなのに、今回ばかりはどうやら選ばなかった様子。
そんな光景を目の当たりにしていた学校中の男子達は、どうして選ばないのか羨ましがりながら、不思議そうにしていた。
そんな高崎先輩は、状況が良すぎる世界にいながらその世界の中から女の子を選ぶことなく、すべての女子の告白を断り、普通すぎる外見の自分なんかに近づいてきて
「告白」という予想だにしていなかった行動に打って出てきのである。
日々の学校生活の中で、特別高崎先輩と接してきたことは一度もなく、遠くから眺めるだけの存在でしかなかったはずなのに、どうして自分なんかが告白対象として選ばれたのか、考えてみたところでわからない。
友達数人に聞いてみても、皆首を傾げるだけで、何故かなんてことは誰に聞いても結局分からずじまいだった。
「これってチャンスじゃん!」
「今回のは辞めといたほうが良いんじゃないの?」
以前から高崎先輩に一目惚れして「好き」だとしってる友達からはチャンスと言ってもらったり、心配してくれて辞めときなと言ってくれたりと、友達からの反応は半々……。
……何で高崎先輩のこと好きになったんだっけ?
……好きになったのって……理由は顔?
……もしかして彼女に優しくしてるとこ見て……中身!?
心の中で自分で自分に自問自答する。
「好きです。 付き合ってもらえませんか?」
突然そう告白されてから、返事を返さないまま丁度一週間が経過する。
イケメンだからなのか、そんなに焦りも無く余裕があるのだろうか、返事の催促はされない。
「返事まってます」
その宣言通り、高崎先輩からは何もアクションは無かった。
……そろそろ返事しないと悪いよな。
そう思いながら、自分の気持ちに素直になれない自分がいて……。
そんなある日、学校に登校したばかりなのに、昇降口で脱いだ靴をロッカーに入れ、上履きを手に取り床に置いて履き替えようとしたところで、突然目眩がして立っていられなくなり、その場で倒れ込んでしまった。
すると、まだ僅かに意識のある中で、誰かにヒョイッと抱えられた……それも、この感じはお姫様抱っこ……なんだか凄く恥ずかしくなり、心臓がバクバク高鳴りなる音が自分だけに伝わる感じがしていると……。
どうやら、その直後、本当に意識を失ってしまったらしい。
目を覚ました時は保健室のベットで、三時間目が終わるチャイムが鳴り響いているところだだのが、保健室の壁にかけられている時計で分かった。
徐々に意識が戻ってくると、ふと手を握り締められていることに気づく。
目を覚ました瞬間は、感触すら良く分かっていなかったのだろう。
握られている方の右手側に振り向くと、そこにはあろうことか高崎先輩がいて……先輩は握ったままベット隅に顔をうつ伏せてスヤスヤと気持ち良さげに眠っている様子。
声をかけて起こそうか迷ったけど、あまりにも高崎先輩の寝顔が可子猫のような寝顔で可愛かったので、思わず安堵しながら無意識に反対の手で高崎先輩の頭を撫でていた。
「みゅ……」
起こそうとしたわかじゃないのに、優しく触ったただけで可愛い声で先輩が目を覚ます。
「おはよう!」
寝起きで言われて、ドキドキしてしまう自分がいた。
「高崎先輩お、おはようございます」
「あ、そうだった、ごめん、看病してるはずだったのに、いつの間にかねちゃってた」
「お疲れなんですよ、先輩のほうこそ休んでください」
「何いってんだよ、病人のくせに……」
「びょ、病人……そういえば登校して上履き履こうとしたらフラフラっと目眩がして……」
「少しは覚えてんだな、それからはここまで僕が運んだんだ、体温測ったら熱が高くて心配したんだぞ! 保健の先生は風邪だろうで言ってたから、このままここで休ませてもらうことにしたんだ」
「あ、ありがとうございます。 でも、先輩はどうして一緒にここにいるんですか? もしかして、ここに運んでくれたのって……」
「僕だよ、だって、目の前でいきなり倒れるところを目撃したんだもの、そりゃびっくりしたし、心配だったからね、それに、一緒にいるのはその後もずっと心配だからに決まってるだろ……でも、サボってるわけじゃなくて、一応担任にはお腹痛くて今日は早退したってことになってるから……」
「そ、そんなことまでしてくれたんですね、すみません」
「おいおい、すむませんじゃないだろ、そこはありがとうって言えよ」
「はい、高崎先輩ありがとうございます」
「で、どれどれ……」
先輩はふたりのおでこ同士をくっつけて体温の確認をする。
「熱は大丈夫そうだけど、もう少し寝とくのがよいね、帰るまで時間有るから寝ておきな……僕も一緒にねるからさ」
そういうと、高崎先輩はシングルベットに一緒に入って添い寝した。
何故か安心するのと同時のドキドキが止まらない先輩にこの心臓の音が聞こえないかとハラハラしながら気づけば眠りについていた。
目を覚ますとそんなに寝てはいなかったらしい、歌声なしの音楽が流れていたので、時計を確認しなくても今がお昼休みだということが分かった。
ところが一緒に添い寝してくれていたはずの高崎先輩が隣にいない。
やっぱり、お腹空くし、食べにでも行ったのだろう……そう思いながらベッドの上で横になっていると、そこへ幼馴染の|千夏《ちなつ》が保健室にやって来た。
「あれ、もう帰ったんじゃなかったんだね、風邪なんでしょ、熱は大丈夫?」
千夏は心配してくれているのだろう、おでこ同士をくっつけてきた。
「や、辞めろって!」
「なんでよ、幼馴染なんだし、このくらい気にすることないじゃん、でも、今見たら、熱はない感じだね」
「うん、頭痛くないから、熱は下がったんだと思う。 ところで千夏はなにしにきたの?」
「えへへ、用紙を切ってノートに貼ろうとしてただけなのにうっかり、紙で指きっちゃって、それで絆創膏もらいにきたんだよ。 じゃあ戻るね!」
そう言うと、幼馴染の千夏は教室に戻っていった。
「何話してたの?」
丁度千夏と入れ替わるように高崎先輩が戻って来た。
「べ、別にたいした話はしてません、大丈夫って心配されて」
「どういう関係?」
「お、おさ……」
最後まで答える前に先輩にキスされ、口を抑えられてしまった。
その後先輩の舌が口の中にねじ込んできて、少し感じてしまい。
「あっつ!」
……感じてしまって声が漏れた。
「ご、ごめん」
咄嗟に口から舌を抜くと高崎先輩は謝る。
「い、いえ、いきなりで変な声だしちゃいました」
その後、高崎先輩は、さっき女の子と距離が近くて会話していたこと、おでこ同士をくっつけていたことに嫉妬したことを話してくれた。
「ほら、これ……」
差し出した手にはお弁当の袋らしきものが握られていて……どいうやら高崎先輩は購買に行って二人分のお弁当と飲み物を買ってきてくれたらしい。
まさか、こんなにも高崎先輩がイケメンで性格まで良かったとは……。
「あ、あの、高崎先輩、告白の返事なんですけど、ぼ、僕なんかでイイんであればお願いします」
「うん、良かった。 |渚《なぎさ》くんに断られるかと思ってたから嬉しい、ずっと渚くんは女の子しか駄目だろって思ってたんだ……」
「ぼ、僕もです! 高崎先輩は女の人としか付き合ったことないから、絶対僕なんか選んで告白してきたのは罰ゲームなんじゃないかって……でも、僕は入学した時から先輩に一目惚れしていて……でも、イケメンにはその、性格悪い人多いの知ってたんでそれもあって直ぐ返事できなくて……」
「ありがとう、実は僕も最初は女の子しか駄目だったんだ、でも、入学式の後、僕より頭一つ分背が低くて、中性的で可愛い顔の渚くんとすれ違った時に、女の子には感じなかったビビビっとくるものがあって、もしかして、これが一目惚れかなって感じたんだ」
こうして、その後な渚くんと高崎先輩はお付き合いすることになった。
「先輩が風邪引いたら次は僕がお世話しますからね! 順先輩!」
イルミネーション
今年もまたクリスマスシーズンがやってきた。
ーー先ず思い出すのは四年前の冬のこと。
外はイルミネーションで彩られ、街がキラキラと輝き華やかになる季節に|昌幸《まさゆき》と|心菜《ここな》は念願叶って結婚した。
ところが二年が過ぎだ冬、二人は離婚することに。
傍から見たら、二人は仲の良いおしどり夫婦だったので、双方の両親も親戚も友人も職場の人も、周りは皆一様に驚いていたけれど、どうして離婚することに至ったのかという経緯について誰も触れることなくそっとして置いてくれたのは優しさからだろう。
離婚したらもう二度とお互いの顔を見たくないという夫婦が多いと聞くけれど、昌幸と心菜の関係は少し違った。
原因は元夫だった昌幸が不倫をしたことでしたが、時々メールで連絡を取り合う仲が続いていたのである。
昌幸の方は素っ気ないメールの返答でしか無かったものの、心菜は心のどこかで「もう一度昌幸とやり直したい」という想いがあった。
もう二年も経過しているというのに、少なからず、心の奥にまだ未練が残っていたのだろう。
ところが、昌幸にはそんな想いは微塵もなかった様子。
ある日のこと、心菜は二人の共通の知人から、昌幸が引越しして、入籍したことを知ることになった。
それも、街がイルミネーションで彩られ、カップルで賑わうシーズンに…………。
心菜の心はイルミネーションとは裏腹にどんどん暗くなり、動揺が隠せず心も落ち着かず、どんどん落ち込んでいった。
そしてとうとう仕事にも手が付かなくなり勤務中だというのにボーッとすることが増えていくようになる。
そんな状態を知った会社の後輩である|涼太《りょうた》は、心菜を心配して声をかけた。
「あの、心菜先輩体調大丈夫ですか、ここ最近昼もちゃんと食べてないの知ってます」
「うん、心配してくれてありがとう、でも大丈夫だから気にしないで!」
そう言われたけど、大丈夫なはずが無い、そう思い、今度は食事に誘うことにした。
「あの、心菜先輩、僕と一緒に今度食事にでも行きませんか!?」
「涼太くんと食事…………」
「はい、えっと、アウトレットで新しくアウターが欲しくて、告白したい人がいるんで、その心菜先輩に選んで貰えたら嬉しいんですけど、で、その後御礼に食事でもと思ってるんですけど」
「そっか、買い物かぁ、いいよ行っても…………涼太くんの恋の応援してあげるよ」
そう言って心菜は涼太の誘いにのる。
ーー買い物当日
予定通りアウトレットで買い物して食事をした後、涼太はもう一箇所行きたい所があると行って心菜先輩を連れ出した。
その場所は時之栖で、イルミネーションの光のトンネルが有名な場所。
冬に開催されるイルミネーションを見ようと、カップル連れが多く見受けられる。
「涼太くん、こういう場所はカップルで来るんだよ! 何も会社の先輩なんかと来るとこじゃないよ」
長いトンネルのイルミネーションは凄く綺麗で、音楽に合わせて光が踊っているかのようにキラキラ光るその光景に見とれながら心菜はそう伝えた。
「あの、その…………僕じゃ駄目ですか?」
「えっ!?」
「心菜先輩のこと、ずっと好きでした。 良かったら彼女になって下さい」
「やだー、だって涼太くん知ってるでしょ、バツ一だってこと…………」
「それでも良いんです。 心菜先輩が好きだから、バツ一なんか気にしてません。 将来結婚も考えてます!」
思いもよらなかった予想外の告白、それも後輩である涼太からの告白なだけに、心菜は我に返る。
心菜は自分が、五つも年上だということも気にしていた。
ところが、好きになるのに年齢なんか関係ないとキッパリ言われた心菜は、イルミネーションのトンネル中、付き合うことに同意する。
すると涼太は遠慮なく心菜の手を握った。
涼太の手の温もりはとても暖かい。
心菜は涼太の温もりを感じながら幸せを噛た。
この後二人で見た噴水ショーも、壮大な音楽にプロジェクトマッピングがあり凄く綺麗だったらしい。
来年からは、イルミネーションの季節にもう昌幸のことは思い出さないだろう。
帰りの車の中で心菜は余韻に浸りながら、これからはイルミネーションで思い出すのは涼太に告白された日のことだけだと誓った…………。
愛を注いで
|恵美《えみ》はいつも人間関係でトラブルを起こす子だった。
わざわざ口に出して言わなくてもよい一言を無意識に言ってしまい、良く相手を怒らせてしまう。
愛想笑いも無意識ですることが多く、自尊心が低いこともあってか、そのせいで普段の生活の中で人間関係が上手に築けなないでいた。
そんな恵美だったが、彼氏は常にいた。
「今度の彼氏はマッチングアプリで出会ったんだよ、年上の大学生で料理が上手なの」
新しい彼氏が出来る度、そう言って友達の|優香《ゆうか》に話しては自慢するのが恵美にとってのルーチン。
他の友達は恵美の話をウザがって聞いてくれないのに、優香だけは最後まで話を聞いてくれたので、恵美にとって優香は特別な存在だった。
ところが、特別な存在だった優香も、年頃になると彼氏が出来て順調な交際の後結婚してしまうことに。
そのせいで、恵美は一人置いてけぼり状態になり、負けた訳でも無いのにそれが悔しくて仕方が無かった。
そして、優香とも何時しか連絡が途絶えてしまう。
優香は赤ちゃんも生まれて生活が忙しくなったものもあるが、恵美の自慢話が本当は嫌で仕方が無かったのだ。
ただ優しい優香には恵美を切り捨てることが出来なかったので、優しさから話を聞いてあげていたらしい。
恵美は結局、優香が優しさから話を聞いてくれていたということを知らない。
その後も、また新しい彼氏ができては、話を聞いてくれる人を見つけて自慢するのを繰り返した。
人は皆子供時代に親からの愛情を充分注いで貰えずに育つと、貰えなかった愛情を他から貰おうとしてしまい、人格に歪みを生じる。
だから恵美も同様、親の愛情不足で育ったので簡単に愛情を注いでくれる異性に懐いてしまう。
恋人がいないと耐えられなくなり、別れても直ぐに見つけ出してしまう…………所謂「恋愛依存症」なのだ。
子供の頃に満たされなかった愛情を、恋愛で満たそうとしている状況なのだろう。
だから、結婚したくても付き合っては別れて…………を繰り返してしまう為、恵美はその後も彼氏はいるけれど結婚出来ずにいる。
恵美が幸せになるためには、寂しさや自信のなさを恋人で満たすのではなく、自分に自信をつけることで満たされるようにしていく必要があるのです。
だから大人の責任として、我が子には愛を注いであげて下さいね。
心と心
彼︰今日会える?
彼女︰うん、大丈夫だよ
彼︰いつも通り夜十九時、家来れる?
彼女︰だから、大丈夫だって
彼︰そっか、待ってる!
仕事終わり、今日も相変わらずそんなやり取りをメールでする。
ーーピンポーン
時間になるといつも通り彼女は家にやってきた。
「お邪魔します」
「うん」
「ふぅ、お風呂気持ち良かった、ありがとう」
「うん」
「あれ、緩くパーマかけたの?」
「うん」
「凄く似合ってるじゃん」
「うん」
しばらくの間、彼女の問いかけに返事だけの会話をすると、いつも通り僕達はベッドで身体を重ねる。
「ねえ、好きだよ」
「うん」
「私のこと好き?」
「うん」
嫌いだとは言えない。
行為の最中、彼女の問いかけに返事だけの会話をすると、身体と身体で繋がりあった僕達は最後まで終える。
心と心で成り立ってはいない二人の関係。
ーーセフレ。
「ねえ、もう少しここにいても良い?」
「うん」
いつもなら行為が終われば帰るはずの彼女が、どういう訳か今日は珍しくまだ帰らない。
「何してんの?」
「うん」
「それスマホのゲーム?」
「うん」
「面白いの?」
「うん」
ずっと話しかけて来るのがちょっとウザイ。
だからと言って彼女のことを邪険には出来ない。
腕枕はしないけど、返事だけはしてあげる。
「最近良いことあった?」
「うん」
「じゃぁ良いことって何?」
「うん」
「何それ、それじゃ全然分かんないよ!」
「うん」
「やっぱり私そろそろ帰ろうかな」
「うん」
やっと帰ると言って貰えた。
正直彼女じゃないから質問攻めは辛い。
ホットした。
彼女はそう言うと、着替えて帰る支度をする。
「帰り遅いから気を付けてね」
まだ着替えていない僕は、玄関先でポンポンと彼女の頭を軽く叩いて見送る。
家まで着いていって送らないし、キスもしない。
何処かで誰かに会ったら困るから。
「またね」
「うん」
二人の関係はこのままが丁度良い。
心と心で成り立っていない関係だからこれが僕達にとって丁度良いのだと思う。
ーー次の日。
彼︰今日会える?
彼女︰うん、大丈夫だよ
いつも通り僕は彼女にメールを入れる。
この関係は、僕達の仲が続く間は変わらない。
進展もしない。
そして終わらない。
今日も明日も僕達はセフレ。
だからこれからも同じ日々を繰り返していく。