vivi

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2/2/2024, 11:08:44 PM

【勿忘草(わすれなぐさ)】

東城会の大幹部である父の威厳を保つため、幼い頃から家は立派な日本家屋だった。庭には鹿威しや飛び石などがあったが、それよりも春になるとぽつんと咲く白色や青色をした小ぶりの花の方が大吾は好きだった。盆栽や大きな木々に囲まれ居心地の悪そうなその花を、母はまるで父の目から隠すように奥まった場所に鉢に植えて大切に大切に愛でていたのを覚えている。春になると咲き始めるその花を愛おしげに撫ぜる母に「このお花の名前はなあに?」と尋ねたが、歳を重ねた今となっては母が答えてくれた名前を忘れてしまった。

大吾は仕事で県外に来ていた。素朴な町だ。この閑静な空間が心地よい。
車窓から町並みをぼうっと眺めていると、小さな花屋が視界に飛び込んできた。思わず大吾は運転手に「停めてくれ」と声をかける。運転手は戸惑いの声をあげるが、もう一度「停めろ」と伝えると静かに車を寄せ停車した。
扉を開けた護衛に「着いてこなくていい」と命令し、困惑する顔たちを無視して花屋へ向かう。
花屋の店員はこちらを警戒と不安を抱えた表情で見ている。それはそうだろう。どう見てもカタギではない人間がこちらへ向かってくるのだから。
大吾はそんな店員に内心苦笑しつつ、大吾はなるべく穏やかに、記憶の中にある花の特徴を店員に伝えその花の名前が知りたいことを伝えた。すると花屋の店員は、「ああ、あれですね」とようやく顔をほころばせた。

「勿忘草だと思いますよ」
「わすれなぐさ?」
「はい。春に咲くお花でピンクや白色の種類もありますが、青色がとても美しいんです。このお花があるだけで花壇が華やかになりますよ」
「そうなのか。確かに家に咲いていたものも綺麗だったな」
「育て方も比較的簡単な方なので、初心者さんにもおすすめのお花です。花言葉は『真実の愛』などもありますが、わすれなぐさという名前にもあるように、『私を忘れないで』という意味もあるんです。あ、ちょうど昨日入荷したんですよ」

花屋の店員が持ってきた花は記憶の中にあったそれで、大吾は青色の小さな花束をひとつ購入して店から出た。

そわそわとしていた護衛たちは、大吾の姿が見えるとほっと息を吐いた。そのまま車に乗り込み、滑らかに走る車内で花を覗く。
母がしていたように触れてみても、ごつごつとした手に可憐な花は不釣り合いで苦笑が溢れる。

「私を忘れないで、か・・・」

母の背中と、それからひとりの男が瞼の裏に浮かぶ。

忘れられるわけねぇだろ、峯。

そう心の中で呟いて、大吾は感傷に浸りそうな自分を振り払うためにシートに身を預けて目を閉じた。

1/3/2024, 5:51:36 AM

【今年の抱負】

遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

今年の抱負は、「自分用同人誌を一冊出すこと」です。
ジャンルごちゃ混ぜでも何でもいいから、とりあえず自分用の同人誌を一冊作る。
そのためにはいろんな本読んだりどんなに短くてもお話を書いてみたりする時間を昨年よりも増やしていけたらいいなと思っております。
ほどほどに、でも実現できるよう頑張っていこう。
趣味で充実した一年になりますように。

12/30/2023, 12:04:03 PM

【1年を振り返る】

今年は一番お話を書いた年になりました。

飽き性なのでなかなか続かず完成させることができていないお話もあったり、ネタだけ浮かんで着手するまでに至らないものもたくさんあります。
ですが、そんななかでもお話を書いたり過去に書いたお話を手直ししたりと、自分にとっては創作に関わった年です。

来年もゆっくりとマイペースに創作活動していきたいと思います。

みなさま、良いお年を!

12/7/2023, 9:06:23 PM

【部屋の片隅で】


大吾さんは酔うと少し面倒なときがある。

今日は大吾さんの仕事も落ち着いたということで、俺の部屋でふたりで酒を飲んでいた。ふとこぼした「大吾さんは可愛いですね」という言葉が気に入らなかったらしく、部屋の片隅であぐらに片肘で頬杖をついてこちらを睨みつけている。その表情もまた愛くるしいのだが。

「なんだよ、可愛いって。お前も俺のこと馬鹿にしてんだろ」
「馬鹿になんてしてませんよ」

大吾さんと向き合うようにして膝をつき、顔を覗き込もうとするとふい、と逸らされた。

「お前はいいよな、貫禄があって。出来る男って感じがしてよ」
「それは大吾さんも同じでしょう」
「俺はお前のその整った顔も頭がいいところもかっけえと思ってんだ。それなのにお前ときたら俺のこと可愛いだと」
「失礼しました」

そんなことを思ってくれていたのかと、胸の内がくすぐったくてつい笑みがこぼれてしまう。

「そういう顔だよ」

大吾さんがおもむろに俺の頬を両手で包んで親指でするっと撫でる。その意図が分からず困惑していると、さっきまでの不貞腐れていた顔はどこへやら、とても穏やかな表情をしていた。

「お前って本当に俺のこと好きだよな」

頬を撫で続ける手はとても優しい。

「好きですよ。それは大吾さんだって同じでしょう」

俺も大吾さんの頬に手をあてると、重みがかかる。頬擦りする様子は甘えているようだ。

「ああ、好きだよ。俺はお前が好きなんだ、峯。だからずっと側にいろよな」
「もちろん。地獄だってどこにだって、あなたについていきますよ」
「約束だぞ」

額を合わせて微笑む。首にまわされた腕に引き寄せられるまま唇を重ねた。


12/1/2023, 7:37:24 AM

【泣かないで】


大吾さんが泣いている。

ベッドの端に力無く腰掛け、俺がいつだったかに置いていったワイシャツを手に静かに涙を流している。
震える大吾さんの肩に触れ、抱きしめる。それでも大吾さんの震えは止まらない。「大吾さん」と呼びかける。それでも大吾さんの涙は止まらない。

俺は自ら病院の屋上から飛び降りたことを後悔することはないと思っていた。
こうして体を持たない「何か」に成り果て、大吾さんが独りで泣いている光景を見ていることしか出来なくなるまでは。

「大吾さん、泣かないでください。俺はここにいます」

この声が届いてほしい。どうか、一度だけでいいから。

そう願いを込めた言葉は、大吾さんに届くことはない。

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