【部屋の片隅で】
大吾さんは酔うと少し面倒なときがある。
今日は大吾さんの仕事も落ち着いたということで、俺の部屋でふたりで酒を飲んでいた。ふとこぼした「大吾さんは可愛いですね」という言葉が気に入らなかったらしく、部屋の片隅であぐらに片肘で頬杖をついてこちらを睨みつけている。その表情もまた愛くるしいのだが。
「なんだよ、可愛いって。お前も俺のこと馬鹿にしてんだろ」
「馬鹿になんてしてませんよ」
大吾さんと向き合うようにして膝をつき、顔を覗き込もうとするとふい、と逸らされた。
「お前はいいよな、貫禄があって。出来る男って感じがしてよ」
「それは大吾さんも同じでしょう」
「俺はお前のその整った顔も頭がいいところもかっけえと思ってんだ。それなのにお前ときたら俺のこと可愛いだと」
「失礼しました」
そんなことを思ってくれていたのかと、胸の内がくすぐったくてつい笑みがこぼれてしまう。
「そういう顔だよ」
大吾さんがおもむろに俺の頬を両手で包んで親指でするっと撫でる。その意図が分からず困惑していると、さっきまでの不貞腐れていた顔はどこへやら、とても穏やかな表情をしていた。
「お前って本当に俺のこと好きだよな」
頬を撫で続ける手はとても優しい。
「好きですよ。それは大吾さんだって同じでしょう」
俺も大吾さんの頬に手をあてると、重みがかかる。頬擦りする様子は甘えているようだ。
「ああ、好きだよ。俺はお前が好きなんだ、峯。だからずっと側にいろよな」
「もちろん。地獄だってどこにだって、あなたについていきますよ」
「約束だぞ」
額を合わせて微笑む。首にまわされた腕に引き寄せられるまま唇を重ねた。
12/7/2023, 9:06:23 PM