ミヤ

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11/12/2025, 6:53:02 AM

"ティーカップ"

薄くツルツルしている高級なものは大体が磁器製。
高温・長時間で焼かれてガラス化しているから、陶器のものよりも薄いけど硬度は高め。
それでも一点に強い力がかかると簡単に欠けてしまう。
破片の上を歩いたことがあるけど、体重をかけると更に細かく割れて刺さるから滅茶苦茶痛いんだよなぁ。
まぁ、磁器だろうが陶器だろうが、高かろうが安かろうが、破片が刺さると痛いのはどれも同じか。

11/11/2025, 5:47:44 AM

"寂しくて"

違う誰かだったら
違うなにかだったら
そばに居てくれましたか


彼女が僕に"あの人"を見たように、
祖父母が僕に"彼女"を重ねたように。
与えられた役割を演じる事で、ようやく存在を認められた気がした。
本来その想いを受け取るべきものを追い出して、代わりにその恩恵を享受する。
僕自身には価値が無いと承知してその幻想に縋っていたくせに、その瞳の中に僕が映っていないことに勝手に傷ついていた自分が、本当、大嫌いだった。

11/10/2025, 6:10:28 AM

"心の境界線"

ゆっくりと丁寧に線を引く。
そうすれば、皆まとめてあちら側。
決して立ち入らないように。
近付き過ぎて、完成された幸福の円環を壊さないように。

11/9/2025, 3:00:42 AM

"透明な羽根"

透かし彫りを施されたランタンに火を灯すと、
光で編まれた羽根が無数に中空を舞った。
重さの無い羽根は軽やかに室内を踊り、
翳した手に光の痕を映し出す。
捕まえられない、羽根の形をした光の影。
それら全てに歪みが無いか、欠けが無いかを確認し、頷きをひとつ。
同時に背後から、上出来だ、と工房主の満足気な声が聞こえた。


"しっかし、お前さんも大概だねぇ。
プレゼントを手作りする為だけに一から弟子入りするとは。あっという間に技術を盗んでいきやがって、羨ましいこった "

いつでもここで雇ってやるんだがなぁ、と残念そうに言う親方に、すみません、と頭を下げる。
働くつもりもないのに技術だけ教えて欲しいだなんて、図々しいと怒って叩き出されても文句は言えない。それを豪快に笑って是としてくれたのだから、本当に頭が下がる思いだ。
たまにはバイトしに来てくれよ、と言って笑う親方に深く礼をして、数ヶ月間通い詰めた工房を後にした。

出来上がったランタンを落とさないように大事に大事に胸の前で抱える。
喜んでくれるといいなぁ、と思いながら、
抑えきれずに、ルン、と一歩分だけ弾むようにステップを踏んだ。

11/8/2025, 7:46:14 AM

"灯火を囲んで"

ぐるぐると、灯火を囲んで人々が踊っている。
まるで百鬼夜行のような光景。
一緒に踊ろうと、せめてもう少し近くに来ないかと、そう誘いに来る人達に苦笑して首を横に振った。

誰もが浮き足立つ祭りの夜に一人にはできない、せめて目の届く位置には居るようにと、祖父母に懇々と言い聞かせられてはいた。
けれど、やはり沢山の音が混ざった空間に長時間留まるのはしんどくて。
ふい、と喧騒に背を向けて歩き出す。
ざわめきが遠くなる方向へ、
揺らめき長く伸びた影さえ及ぶことの無い場所へ。

朱い鳥居の前で一礼し、狛犬の足元にヒョイと腰掛ける。
冷たい石像に身を預けると、頭と目と耳の痛みが僅かに楽になった気がした。
風に乗って聞こえるお囃子と人々の笑い声。
片膝を抱えて、遠くに灯る賑やかなひかりをぼうっと見つめる。
わいわいガヤガヤとした騒々しい場に参加するのは聞こえの関係もあってどうにも厳しいものがあったけど、遠く離れた輪の外側から眺める分には嫌いじゃなかった。

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