"ふとした瞬間"
ふとした瞬間、人間を単なる血と肉と骨の塊として見ている自分に気付いてぞっとする。
薄っぺらい世界に無数の塊が犇き蠢いていると思うと、たまらなく気持ちが悪い。
自分もその中の一つに過ぎないと考えると、ただただ醜悪の一言に尽きる。
枯れることなく後から後から湧いてくる、叫び出したいほどの嫌悪感。
それでも、この肉体という檻からは一生出られない。
"どんなに離れていても"
グラス1杯で上機嫌に酔っ払った貴女は、踊るようにステップを踏んだ。色分けされた敷石をジャンプして、車止めの段差の上をバランスをとりながら渡り歩き、数歩先を行ってはクルリとこちらを振り返る。
外食帰りの夜道を、ふらふらと危なっかしい足取りで歩む貴女に苦笑していた時だった。
綺麗な満月、と歓声を上げた貴女が、歩道橋の階段をトトトッと駆け上がった。
慌てて追いかけ、丁度道路の真ん中に当たる位置で追いつく。鼻歌混じりに月を見上げる貴女に溜め息を吐いて、もう帰ろう、と囁いた。
月から僕へと視線を落とした貴女は、少しの間何事かを考えるように首を傾げて。
ふと、笑った。
そうして、トンッと手摺りに跳び乗り、両手を広げて。
"わたしが何処か遠くに行ったとしても、ちゃんと追いかけて見つけてくれる?"
冴え冴えと光輝く真円の月を背後に紡がれた言葉に、思わず息を呑んだ。
もしも貴女がいなくなったら?
そんなこと、考えたくもなかった。
どんなに離れていてもどんな場所であっても必ず貴女を見つけ出す、なんてヒーローみたいに自信に満ち溢れた格好良い事は言えない。
でもね、探すに決まっている。
追いかけるに決まっているだろう。
置いていかれるのはもうたくさんなんだ。
縋るように手を伸ばす。
月に攫われて何処かに消えてしまいそうな貴女を腕の中に閉じ込め、強く抱き締めた。
仕方無いなあ、と。
本当に君はわたしが好きだねぇ、と貴女は笑った。
瞳を閉じて、暗闇に貴女を感じる。
導のように明るく光るその声だけが、
僕の生きる理由の全てだった。
「こっちに恋」「愛にきて」
同音異義語が沢山あると、誤変換で思いがけない文章が誕生することがある。最後の見直しは大事だよね。
ということで、お目汚しですが誤変換をどうぞ。
こっちに来い
会いに来て
深い恋情を持ったあなたの傍に居たい
↓
こっちに恋
愛にきて
不快憐情を持ったあなたの傍に遺体
家族や身内は好きですか
式には皆様を招待しましょう
事前に仕事の連絡・調整を済ませておきますので、どうぞお気軽にお越しください
お帰りは夜道に気をつけてくださいね
↓
家族闇討ちは好きですか
死期には皆様を招待し抹消
事前に死後との連絡・調整を済ませておきますので、どうぞお気軽にお越しください
お帰りは黄泉路に気をつけてくださいね
今はPC入力が多くなってきたからなぁ。
やらかさないよう気を付けないとね。
"どこへ行こう"
どこへ行こうか。
目の前を勢いよく通り過ぎていく列車。
視線を上げた先に映る、古ぼけたビルの屋上。
或いは広告写真の中の深い海でもいい。
ずっと、此処では無い何処かに行きたかった。
以前はいつだって、何もかもを置き去りにしてこの身一つでどこまでだって行ける気がしていた。
貴女が隣に居てくれたから何処にも行かずに済んだ。僕は此処までだって思えたんだ。
でも、あぁ、そうか。
もう貴女はどこにも居ないのか。
なんてね。
貴女の言葉は今も鮮明に覚えている。
貴女が居たこの場所で朽ち果てると決めたから。
だから、今日も何処にも行かずに此処で生きている。
"big love!"
上から読んでも下から読んでも同じ言葉を表すものを回文(palindrome(s))という。日本語の"しんぶんし"とか、"たけやぶやけた"とかでお馴染みの言葉遊びだ。
英語版だと、"eye" や "Borrow or rob? "、
"no lemon,no melon." 等がそれに該当する。
それに対して、逆から読むと意味が変わってしまうものをsemordnilapと呼ぶ。
犬(dog)も逆立ちすれば神(god)になるし、
ネズミ(rats)が回れば星(star)に変わる。
生きること(live)は邪悪(evil)だし、
この世を生き抜いたもの(lived)は悪魔(devil)と化す。
loveをひっくり返すと、evol(evolution:進化)だ。
変異と淘汰による生物の進化をひっくり返すと愛へと変わる、というのはなんだかスケールが大きい感じがして面白い。
まぁこじつけだけどね。
実際には意味なんて無い言葉遊びだけど、見つけると何となく得した気がする。