"怖がり"
恐怖というものは、身を守る為に大切な感情なのだそうだ。
だからそれを意図的に無視するお前はポンコツなんだと、よく叱られたっけ。
別に恐怖を感じていないわけではないんだけど、どうにもそれが回避行動と上手く結びついてくれないんだよね。
怖くても、それが必要だったら、それが一番効率的な方法だったら。
それを避けることで生じる不利益の方が大きいのであれば、迷ったり身をすくめたりしている時間が無駄だろう?
それが周囲からは分かっていて地雷を踏みに行くように見えるらしくて、危なっかしくて仕方がないと何度も言われたなぁ。
"安らかな瞳"
亡くなるまでの数年間、祖母の前では瞳の色を偽り続けた。
僕の目を見ると、"違う、お前は誰だ、娘を返せ"と怒って泣くようになってしまったから。
祖母と、祖父と、彼女の三人で完結した世界。
彼女がこの家に居た年数より僕が祖父母と過ごした時間の方が長くなっても、やっぱりこういう状況になった際に思い出されるのは僕じゃなくて彼女の方で。
現在を忘れて過去の記憶を彷徨うようになった祖母は、僕と向き合っていた時よりもずっと幸せそうだった。
だから、無理に現実に引き戻す必要なんて無いと思ったんだ。
あぁ、違うか。
僕自身が、偽りでも祖母に安らかな瞳を向けて欲しかったんだ。
カラーコンタクトレンズの付け外しで鏡を覗き込む度に、自分の醜さに吐き気がした。
祖母の大切な"家族"になりすましてまで関心を得ようとする自分。
そのくせ向けられる感情が僕に対するものでは無いことに勝手に絶望する自分が嫌いで。
せめてこの目が祖父母や彼女と同じ色だったらまた少し違ったんだろうか、とそんな浅ましい事を思ってしまう自分が心底嫌いだった。
"平穏な日々"
水面を隔てたように遠い場所から、ただ動くナニカ達をぼんやり見つめる。
怒りも憎しみも恨みも、いつしか溶けて。
同時に、情も期待も消え去った。
そうして"誰か"を想わなくていいということは、途方もなく健やかで、穏やかで。
けれど、たったひとつだけ。
ようやく手に入れた平穏な日々をどうして貴女は否定するのだろうと、それだけがずっと不思議だった。
"現実逃避"
肉体は逃げられなくても
精神だけでも逃避できるならまだマシだ。
きっといつかは追い付かれる。
だから、逃げられるうちは逃げてもいいんじゃないの。
"君は今"
"今どこにいる"と聞かれても、周囲に目印になるようなものは見当たらないし。
僕はいま何処にいるんだろうね?
気を抜くとすぐこれだ。
オンとオフで差があり過ぎると言われても、自分ではあんまりよく分からないんだよね。
まぁいずれ何処かには辿り着くさ、と歩き出そうとしたら、電話の向こうから"その場を動くな"と一喝された。
ひどい。
でも青筋立てながらも律儀に迎えに来てくれるあたり、良い奴だったんだよなぁ。