"きらめく街並み"
街灯とショーウィンドウの装飾の光を受けた粉雪が、はらはらと降り続けている。
幸せそうな人を見ても辛くなくなったのはいつだったか。
自分と完全に切り離して、良かったね、と思えるようになったのは。
きらめく街並みをのんびり歩きながらつらつらと思い返してみたけれど、考えてみれば以前からそうだったかも。他人の幸も不幸もわりとどうでもいいものだと流していた気がする。
"……君、時々引くくらい周りの人に興味無いよね"と貴女に言われたのは、いつかの祝祭の日だったなぁ。
"贈り物の中身"
否応なく、誰しもそれを手にして生まれてくる。
その箱が偶然開くのか、自分で開けるのか、それとも他人に暴かれることになるのかは分からない。
それを呪いと唾棄する者もいれば、救いと涙する者もいる。
昏く冷たく、明るく暖かで、人によっては空っぽで何も無いと表現するかもしれない。
生と対になるもの。
生涯一度しか体感することの出来ないもの。
贈り物の中身はーー。
"失われた響き"
歌を聞くのは楽しいし、色の波がどこまでも広がっていく様子を見るのは好きだ。
でも自分で思い切り歌うのは難しい。
というか、幼い頃は全く駄目だった。
声を出さないことが癖付いていたから、いざ歌おうとしても空気を吐き出すだけで何の音も生まれないし、無理すると過呼吸を起こしてぶっ倒れる始末。
それでも彼女が紡いでいた歌を頭の中で繰り返し辿り、言葉の意味も分からず口の形をただひたすらになぞった。
全てが過去へと変わり、思い出となって朽ちてゆくとしても、かつて目にした彼女の音が決して失われないように。
記憶の中の響きだけは他の誰のものでもない、僕だけのものだ。
"時を繋ぐ糸"
"過去・未来・現在を繋ぐ糸"と考えれば
血脈や伝統をイメージできるし、
"空白の時間を繋ぐ糸"と書いたら
なんとなく推理小説っぽい……。ぽくない?
"落ち葉の道"
春に遭遇して以来、桜並木の通りを掃除するときは時折、というかほぼ毎回貴女と顔を合わせるようになった。
最初の頃は遠くから僕が箒を操る様子を眺めているだけだったのが、回を重ねるにつれ徐々にじり、じり、と開いていた距離をつめてくるのが面白くて、警戒心の強い野生動物みたいだなー、とこっそり思っていた。
秋口には気が向いた時には手伝ってくれるまでになっていた。
その日は袋一杯になった落ち葉を運んでくれていたのだけれど、袋に穴が空いていたのか引き摺っていく際に少しずつ葉が零れ落ちていた。
ちょっとずつ零して道を作りながら歩く様子が、栗鼠とかハムスターみたいで。
ああいう小動物が巣材を一度に抱え過ぎて、零しながらもよろよろと運んでいく映像とかあるじゃん。
丁度そんな感じで和んでしまって、声をかけずにのんびり見守ってしまった。
今みたいに動画をすぐに撮れる機械が手元にあれば絶対撮ったのに。残念。
途中で気づいて落ち葉の道を駆け戻ってきた貴女には"分かっていたなら早く言え"と怒られたし、袋に僅かに残った葉を投げつけられてしまったんだけどね。