"special day"
一般的に、子供の誕生はおめでたいことで、喜ばしいことだと祝福される。
でも、なぁ。
生きるのって苦しい。しんどいし、辛いじゃないか。
辛い世だからこそスタートラインくらいは寿いであげるべきなんだろうけど。
こんな世界に生まれてしまって可哀想に、と思ってしまうのは、僕がおかしいのだろうか。
"真昼の夢"
目の前には無数の蠢くヒトガタの群れ
その手を取って
その足を取って
その瞳も奪ってしまおうか
うるさい雑音を発する舌はいらない
そばだてる耳も、よく利く鼻も、
意思すらもいらない
ばつん、と断ち切る様は剪定に似ている
ごろりと転がる頭と身体
魂とやらが本当にあるのならば、それは一体どちらに宿っているんだろうね
なんて、ただの白昼夢だよ
夏の暑さが生み出した、真昼の夢だ
ぱちり、と瞬きをひとつ。
現実は悪夢よりよっぽど悪夢らしい。
溜め息をひとつ、ふたつと零して、再び赤く乾いた夢に落ちていく。
"二人だけの。"
繋いだ手にトントン、と合図をして、
指で手のひらに文字を書く。
ちらりとこちらを見た貴女が、
澄ました顔で同じように指を動かし言葉を形作る。
簡単な確認だったり、あるいは単純に暇つぶしだったり。
劇場や図書館なんかの私語を禁止された空間だとか、なんでもない帰り道だとかに、貴女と二人、手のひらの上の文字で会話をした。
繋いだ手の中でそうっと書かれると、擽ったくて笑いを堪えるのに苦労するんだよなぁ。
"夏"
赤煉瓦の高架橋を抜けた先は、図書館に続く緩い坂道になっていた。
坂の途中にはフェンスで囲われた空き地があって。
今頃の時期になると緑が眩しくて、のんびり眺めながら歩いたっけ。
誰かが手入れをしていたのか、たまに草木の顔触れが変わっていたりして見ていて飽きなかった。
向日葵だとか、オニユリだとか、露草だとか。
茱萸はたまに実を失敬していたけど。
中でも、見たことのない蔓がフェンスに巻き付いているなぁと思っていたら、ある日、時計のような花を咲かせたのには驚いた。
時計草。十字架上の花、受難の花とも言われるけど、実物を見るとびっくりするよね。
あの空き地はまだ残っているのだろうか。
フェンスの奥に今も花が咲いていたらいいなぁと思う。
"隠された真実"
真実とやらがどんなものであっても、
舞台裏を手前勝手に暴くのは無粋だよな。
"秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず(風姿花伝)"
手品のタネだって、物語の裏側だって。
隠されてこそ価値がある、そういうものだってあるのだから。