ミヤ

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7/13/2025, 1:34:43 AM

"風鈴の音"

古来は魔除け、厄除けの意味があり、
音が聞こえる範囲を聖域としていたらしい。

その玲瓏たる響きから、ひんやりした感覚を得ることができるのは夏ならでは。
青く澄んだ音は、単純に綺麗だよね。

7/12/2025, 4:48:47 AM

"心だけ、逃避行"

大丈夫、大丈夫と自分に何度も言い聞かせる。

どうせ百年後にはこの視界に映る人達は皆いない。
僕だってとうに消えている。
あとには何も残らず、本の一頁にだって刻まれない。この痛みも苦しみも、何の意味もないものとして消えていく。

だから、大丈夫。
そんな未来に思いを馳せて、
今日もなんとか息をする。

7/11/2025, 4:31:08 AM

"冒険"

開架書庫が本の森なら、閉架書庫は洞窟みたいな空間だと思う。
本の保管の為に一定の気温に保たれていて、光量も落としているから薄暗い。あまり人が出入りしない、しんと静まり返った、外界から隔絶された空間。


学校の司書の先生から紹介してもらった大学図書館には、閉架書庫というものがあった。
通常は一般公開されていない所が多いのだろうが、その図書館では鍵が開いている時は自由に出入りできた。まぁ開館時間に立ち入る人は殆ど居なかったけど。

棚には学術誌や論文、個人文庫、全集等々数え切れないほどの書籍が犇めき合っていて。端がほつれた和装本や、海外文学の原書なんかも置かれていた。

机も椅子もない空間だったから、脚立に腰掛けながら本を読んだ。
目を悪くするし、他の利用者がビックリするから表で読みなさいと何度司書さんに言われたことか。
軽く内容を確認するだけのつもりが、いつの間にか読み耽ってしまうんだよなぁ。


静かで薄暗い洞窟みたいな空間を、面白そうな一冊を探し求めて歩くのはちょっとした冒険のようで楽しかった記憶がある。

7/9/2025, 11:12:29 PM

"あの日の景色"
"届いて……"

噎せ返るような古い藺草の熱せられる匂いと、
それ以上に嗅覚を刺激する血と腐臭の、人が終わっていく臭い。

指を伸ばす。
でも、小さな子供の手では力も背丈も足りなくて。
彼女を下ろしてあげることさえできなかった。

抜けるような青空が広がる窓の外からは、遠く、蝉の鳴く音が聞こえた。
冷房なんて無い室内は茹だるような暑さで。
脱水と飢餓と暑さで朦朧とする意識の中、
蝉が "シネシネシネ……" と、全身全霊で全てを呪って泣き叫んでいるように感じられた。


蝉の声は今でも嫌いだ。
単純に喧しいというのもあるけれど。
あの日の光景と、届かなかった手を思い出すから。

7/8/2025, 7:22:24 AM

"願い事"

差し伸べられた手が、憐れみでも同情でも構わない。
企みがあったとしても、貴女に謀られるのなら本望だ。
だから。
もし騙すのであれば最後まで綺麗に騙し切ってくれと、あの日貴女にそう願った。

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