ミヤ

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"あの日の景色"
"届いて……"

噎せ返るような古い藺草の熱せられる匂いと、
それ以上に嗅覚を刺激する血と腐臭の、人が終わっていく臭い。

指を伸ばす。
でも、小さな子供の手では力も背丈も足りなくて。
彼女を下ろしてあげることさえできなかった。

抜けるような青空が広がる窓の外からは、遠く、蝉の鳴く音が聞こえた。
冷房なんて無い室内は茹だるような暑さで。
脱水と飢餓と暑さで朦朧とする意識の中、
蝉が "シネシネシネ……" と、全身全霊で全てを呪って泣き叫んでいるように感じられた。


蝉の声は今でも嫌いだ。
単純に喧しいというのもあるけれど。
あの日の光景と、届かなかった手を思い出すから。

7/9/2025, 11:12:29 PM