ミヤ

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10/9/2025, 9:56:57 AM

"愛する、それ故に"

一番幸せなときに全てを終わらせたかったんです、と彼は言った。
変わっていく姿を、離れていく姿を見たくなかったから。耐えられないから。
だから、壊れてしまう前に自分から壊したのだと。

自分を消す。これは分かる。
相手と自分、その両方を消す。
これも分からないでもない。
相手を殺して自分だけ生きている状態……ってなに?

透明な仕切りの向こう側で満足気に微笑む彼を見て、自分だったらその選択はしないだろうな、と思った。
大事な人を失って、自分だけ残るのは嫌じゃんか。
それこそ耐え難い苦痛だと思う。
その思いは今も昔も変わらない。
なのに。


死を選ぶ理由にわたしを使わないで、と。
貴女はそう言い残した。
馬鹿だなぁと自分でも思うけど。
僕はね、貴女との約束は破ったことがないんだよ。
それがどれほど苦痛を伴うものであったとしてもね。

10/8/2025, 8:40:01 AM

"静寂の中心で"

静寂の中心で、
祈ることを諦めた永訣の朝。

10/7/2025, 4:25:38 AM

"燃える葉"

燃える葉……。

よもぎの葉裏の繊毛を精製したものをもぐさといい、お灸に使用されるんだけど、
一説では"よく燃える草"から"善燃草(よもぎ)"、
"燃え草"から"もぐさ"と呼ばれるようになったらしい。
もぐさのことを"指燃草(さしもぐさ)"とも言い、これは有名な和歌にも詠まれているから知っている人は多いんじゃないかなぁ。
『かくとだに えやは伊吹の さしもぐさ 
さしも知らじな 燃ゆるおもひを』てやつね。

他には、『契りおきし させもが露を 命にて
あはれ今年の 秋も去ぬめり』とか。
"させもが露"で"よもぎの露みたいなありがたい言葉"と訳しているものが多いのかな。
維摩講の名誉ある講師役としてどうぞ息子を選んで下さいとお願いして、その際に貰った言葉が
"しめぢが原"。
これは、『なほ頼め しめぢが原の さしも草 
われ世の中に あらむ限りは』という歌を下敷きにした言葉で、"大丈夫、任せておけ"と言われた感じ。
でも実際には選ばれてなくて、それを恨みに思って詠まれたのがこの歌。
親馬鹿というか、息子おもいというか。
憖っか歌が良かったばかりに根回ししようとした事実が後世に残ってしまったんだから、なんだかなぁと思ってしまう。


ちなみに、よもぎと聞くとよもぎ餅のイメージで春って感じがするけど、花は秋に咲くし、環境によっては紅葉もするらしいね。

10/4/2025, 3:25:57 PM

"今日だけ許して"

今日に限った話じゃないだろう?

色を失ったその顔に、薄く笑いかける。

鬼?悪魔?
どうぞ、お好きなように。
何と言われようが許さないよ?

10/4/2025, 4:27:32 AM

"誰か"

溺れるような苦しみに、手を伸ばす。
誰か、誰か。
伸ばした指先がカツンと硝子に当たった。
あ、そっか。
誰か、なんて、いないのか。


そこで、目を覚ました。
明けても醒めても薄青く染まった悪夢の中で、
どこにも行けずにひとりきり。
ただじっと息を殺して。
苦しみが、悲しみが、やがては諦念へと変わっていくまで、ぼんやり天井を眺めていた。

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