"愛する、それ故に"
一番幸せなときに全てを終わらせたかったんです、と彼は言った。
変わっていく姿を、離れていく姿を見たくなかったから。耐えられないから。
だから、壊れてしまう前に自分から壊したのだと。
自分を消す。これは分かる。
相手と自分、その両方を消す。
これも分からないでもない。
相手を殺して自分だけ生きている状態……ってなに?
透明な仕切りの向こう側で満足気に微笑む彼を見て、自分だったらその選択はしないだろうな、と思った。
大事な人を失って、自分だけ残るのは嫌じゃんか。
それこそ耐え難い苦痛だと思う。
その思いは今も昔も変わらない。
なのに。
死を選ぶ理由にわたしを使わないで、と。
貴女はそう言い残した。
馬鹿だなぁと自分でも思うけど。
僕はね、貴女との約束は破ったことがないんだよ。
それがどれほど苦痛を伴うものであったとしてもね。
10/9/2025, 9:56:57 AM