皆、席に着け。今から席替えするぞ。
私はこのクラスのざわめきに便乗せず、ずっと窓の外を見ていた。それじゃあクジ引けー。いっせいに教卓の前へとクラスメイトが集まっている。
何がそんなに楽しいんだか。私には全く理解が出来なかった。なんだかんだで私もクジを引き移動の時間だ。
窓際が良かった私にとっては最悪の席、真ん中の列の中央。やっぱり席替えであんなに楽しめる意味が分からない。少し憂鬱になりながらふと、隣を見た。凄く物静かな男子だった。周りに人を寄せ付けないオーラを放っていた彼が、読んでいる小説のページをめくる。私には何故かその仕草がとても美しく見えてしまった。なんなんだこの気持ちは、小説をめくる時だけふと魅せる彼の流し目や、指の仕草。時折口角を上げて少し笑う顔。私にとって彼の行動全てが美しく見えた。
鼓動が早くなる。彼に釘付けになってしまう。今日の私は変だ。こんなに持ち初めてだ。今までなったことの無い気持ちに戸惑いながらも、また、彼がページをめくるとその美しさに私は、何もかも忘れてうっとりと眺めてしまうのだった。
あー疲れた。私は仕事を終わらせ家に帰ってきた。
午前だけの仕事とはいえ、休日出勤はメンタルにくる。
2時かぁ〜。ふと、カレンダーに目をやる。そこには31日と書いてあった。8月31日......その言葉に私はずっと囚われている。正確に言えば、8月31日午後5時。今日でちょうど13年になるね。君が笑顔で私の前から居なくなったのは。ずっと脳裏に焼き付いているあの光景を、思い出すだけで過呼吸になりそうだよ。
あの日なんで私を家に呼んだの?なんで君は階段にいたの?
なんであんなに笑顔だったの?なんで私の目の前で飛び降りたの?私の目に映った最後の君はなんでそんなにも無邪気な顔で笑ってたの?ねぇ、答えてよ。写真の中に問いかけても答えは返ってこない。
ねぇ、なんで、なんでなんでなんでなんでなんで!私を置いていったの?
私はそれ以降、人の目を見れなくなった。君のあの顔が思い浮かぶのもあるけどそれよりも、君の親御さんから向けられるあの憎いと、恨みと、強い負の感情が混じったあの目。あの目がどうしても私のトラウマを蘇らせてしまう。そして言われた人殺しという言葉も。今なら分かるなぜ人殺しと、何故あの目を向けられたのか。でも幼い私は分からなかった。いや、分かりたくなかったのかもしれない。だって私はあの状況下でどうしようも出来なかった、どうしようもしなかった、人殺しと言われても言い返せない。ごめんなさいと、ただただ下を向いて涙を流しながら必死に謝るしかできなかった。
そんな懐かしい昔話を思い出していると、もう時刻は夕方の5時。私は仏壇の前に正座し鈴を鳴らして、ゆっくりと手を合わせた。
ずっと一緒にいてね。
いいなぁ。羨ましいなぁ。
いつも私が思うこと。私が勝手に嫉妬してること。
あの子は頭がいい。あの子は顔がいい。あの子は運動神経がいい。あの子はコミュ力が高い。皆それぞれ違ういい個性があって、いいなぁ。皆人と関われて羨ましいなぁ。
そんな私に誰からも愛される子が話しかけてくれた。
いいなぁ。この子はこんな私にも話しかけてくれるんだ。完璧だなぁ。その子は毎日私に話しかけてくれた。そのうち私の周りに、沢山の人が集まるようになった。
あーあ、まただ。
皆私を裏切るんだ。最初は私と話してたのに、なんであの子のとこに行くの?なんで私が1人になってるの?なんで私がクラスで浮いてるの?
あの子はいいなぁ。羨ましいなぁ。最初から努力していないくせに。私から奪った癖に。いいなぁ。なんで人に囲まれてるの?羨ましいなぁ。
何度も傷つけられた人生だ。何度も傷つけた身体だ。
なのになんでまだ私はここに居る?
自分の気持ちを押し殺して、感情をださず、只々人に合わせるだけ。なんて言われようと何をされようと夏草のように私は無駄に強く生きてしまう。
あの人がいる限り私は強く醜く生きる。
また来るからね。そう言って帰ってこないけど、きっといつか来てくれる。そう信じてる。周りの目なんて気にしない。
あなたが帰ってくるまで、私はしぶとく生き続ける。
僕の初恋の話をしたい。
初恋したのはちょうど小学生に上がる前日の日だった。
僕は母と公園に出かけていた。その時トントンと肩を数回叩かれたのだ。誰だろう?と思い振り向くと全く知らない女の子だった。その女の子は、ねぇ…ひとり?あそぼ!と話しかけてきた。僕ひとりじゃないよ。後ろをパッと振り向いたあとまたその子に視線を戻し言った、ほら!ママがいるでしょ?女の子は不思議そうな顔をしながら言った、君には誰か見えてるの?そして続けてこう訪ねた。なんで靴履いてないの?と。僕は自分の足に視線を向けた、そこには素足のまま何かが付いてる僕の足があった…あ、そうだった、僕ひとりだ。
女の子はまだこちらを不思議そうに見ている、僕はこう言った。君は僕が見えるんだね、じゃあこっちにおいでよ、
僕は初めて興奮した。一目惚れした子が、僕と同じ。車に轢かれ足がぐしゃぐしゃになっているのだから。
…君も素足のままじゃないか。僕は君の血だらけになった足を見ながらニコッと笑いかけた。