紫雨

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皆、席に着け。今から席替えするぞ。
私はこのクラスのざわめきに便乗せず、ずっと窓の外を見ていた。それじゃあクジ引けー。いっせいに教卓の前へとクラスメイトが集まっている。
何がそんなに楽しいんだか。私には全く理解が出来なかった。なんだかんだで私もクジを引き移動の時間だ。
窓際が良かった私にとっては最悪の席、真ん中の列の中央。やっぱり席替えであんなに楽しめる意味が分からない。少し憂鬱になりながらふと、隣を見た。凄く物静かな男子だった。周りに人を寄せ付けないオーラを放っていた彼が、読んでいる小説のページをめくる。私には何故かその仕草がとても美しく見えてしまった。なんなんだこの気持ちは、小説をめくる時だけふと魅せる彼の流し目や、指の仕草。時折口角を上げて少し笑う顔。私にとって彼の行動全てが美しく見えた。
鼓動が早くなる。彼に釘付けになってしまう。今日の私は変だ。こんなに持ち初めてだ。今までなったことの無い気持ちに戸惑いながらも、また、彼がページをめくるとその美しさに私は、何もかも忘れてうっとりと眺めてしまうのだった。

9/2/2025, 4:27:38 PM