おかーさん!だぁーいすき!
そう言って私は母の胸に勢いよく飛び込む。優しい声、暖かい体温。全てが伝わってきて、思わずぎゅーっと抱きしめたくなるような。そんな母の愛情が大好きだった。
あれから何十年と経った。
私ももうすっかりおばさんと呼ばれるくらいの歳になってしまった。
「お母さん。おはよう。」私が、母の部屋に入ると
「どこなのここは!貴方だぁれ?私、自分の家に戻らなくちゃ!」そう言いながら部屋中を散らかしている母の姿があった。そう、母は重度の認知症になっていた。お父さんは母がまだ軽症の時に他界しているので、今お母さんを助けられるのは私しかいない。「あら?貴方どこかで見たことがあるわぁ。綺麗なお顔ねぇ…まぁ、なんで泣いているの?ほら、こっちに来なさい。私が拭ってあげるわ」
その言葉はまるで、小さい時好きだった母の愛情にとても似ており、私はまた、涙を流した。
"さぁ、皆さんで世界を変えてみせましょう!"
きっかけはこの一言。誰もが言ってる、この一言をある男が言った。するとどうだろうか。世界は一気に変わってしまったのだ。ある民は男を崇め、ある民は男を憎んだ。
そこから男の時代が始まった。民衆の意見を取り入れ、金に屈さず、人々を笑顔にする為だけに必死に努力したが、男は"完璧"を求め過ぎたのだ。その"完璧"を実現するのに果たして世界中の民が協力するのだろうか。否。しなかった。
こうして、世界中に名を響かせた男は"完璧"を求め過ぎ世界を悪化させてしまったのでした…おしまい。
今日から私も社会の一員として仕事をするんだ。私は心を踊らせていた。何故か?それは大手企業に入社できたからだ。
田舎で育った私は、とにかく必死に勉強をした。そして、高校を成績トップで卒業し、上京、大学も首席で卒業。こんな"完璧"な人間がどこにいるのだろうか。ここでもどんどん仕事をして、楽しい人生を送るんだ、そう思っていた。
実際は、仕事が出来ず上司に怒られ日報には自分の無能さを書き記さなければならない。こんなの、私が描いていた"完璧"とは何もかもがかけ離れていた。次第に私は食事もまともにとれなくなり、倒れ、運ばれることも増えてしまった。
あれ、私は、何が楽しくて今生きてるんだろう、?
僕の思いは変わらないずっと。昔から変わらない。僕はお医者さんになって、人々を助けるんだ。そしたらパパもママも僕を認めてくれる。褒めてくれる。今はまだダメでも、いつかは絶対、会って凄いねって言われてみせる…
そんなことを思っていた自分を懐かしく思いながら今日もデリバリーした牛丼を口に頬張る。流石に、この歳にもなれば自分に親が居ないことも知っている。誰も褒めてくれない。みんな俺の存在価値、俺を否定する。PCにYoulooseの文字が見える。チッ。舌をならす。そのまま布団に横になりながら考える。
俺ってこの世に必要か?
コップなんてどれでもいいでしょう?
いや、ダメなの。絶対。このコップじゃなきゃダメなのッ、!
…そんなに怒鳴らなくても良くない、?
緊迫した空気の中、君がそう呟いた。「あ、ごめッ」僕がそう言おうとする前に、君が続けて言葉を並べた。
「そんなに大切なの?もうボロボロじゃん。また、新しいの買ってあげるよ?」
その言葉には、なんの感情もこもってなかった。
僕はギュッとコップを抱きしめる。
"大好き"
そう呟いて、ティーカップの中に紅茶を注ぐ。
匂いには、記憶を呼び起こす力があるのだと、噂程度に聞いた事がある。
この、ティーカップで、この紅茶。まるで君が生きているみたいに感じられる。
このコップじゃなきゃダメ。君の、生きていた形を残して置かなきゃ行けないから。
愛して、私を、こんなに焼けて、もう原型のない私でも