紫雨

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「希望ってさ、ただの空想なんだよ。現実で起こり得る確率がちょー低くい物事のことを言うじゃん?だから、俺はあんまりすきじゃないんだ。希望って言葉。」

高二の夏だった。
私の幼馴染は、いつも明るくてその場にいるだけで人を笑顔にするような人間だったのに、その日は元気がなかったんだ。目にハイライトが入ってないというか、何かを、真剣に考えているようだった。そんな彼をじっと見ていたら急にその、まるで死んだ魚のような目がこちらを見た。私は一瞬ドキッとした。そんな視線を送られたことがなかった。
「ど、どうしたの、?」ぎこちなく彼に聞いた。なるべく自分の感情を表に出さぬようにと、必死だった。
彼は少し間を置いて、はぁ…とため息をした後、ゆっくり話し始めた。
「俺さ、入院すんだよ。あと、1週間後にさ。実はちーっと肺の方に悪性の腫瘍ができてるっぽくて?まぁ、早期発見だったから、きっと治るでしょ!って感じで、クラスの奴と会えんくなるんよね。せっかくの体育祭とか?できないかなぁ〜って考えてたわ笑」
その場の時が止まった。あぁ、私はなんてデリカシーのない発言をしてしまったんだろう。少し考えればわかった事だった。彼に元気がない時点で察せていれば。そんな悪循環な思考ばかりを巡らせる私の肩にそっと手を置く君。
「まぁ、心配すんなって!!」

……何が心配すんな?ねぇ、答えてよ。
あれから彼の容態はどんどん悪くなる一方だった。
抗がん剤で髪の毛は抜け落ち、肺に悪性腫瘍があるせいで、吐血をした後がゴミ箱に残っている。あんなに健康的だった身体は、骨と皮膚だけのようで筋肉なんて見る影もない。
君の手をそっと触る。
「あー、なんかごめん?俺もしかして無理っぽい?」
そんな言葉を口にする余裕もないほどに、彼は自分の身体に絶望したという目をしている。余命宣告を受けたらしい。
「…大丈夫。きっと治るよ。奇跡は起こるよ。大丈夫。」
私はこのたった1つの奇跡に全てを託すしかなかった。

お線香の香りと、おりんの音、そしてお坊さんの声が鳴り響く。皆黒い布を纏い、目を閉じている。泣き声を必死に抑えようとする声も、鼻をすする音も聞こえるこの空間で、私は君の言葉を思い出した。

3/2/2026, 2:33:19 PM