星空の下で
君が踊る
星の瞬きが
音楽なのだと君は云う
星空の下
音の無い世界
暗闇の中
僕らだけの世界
世界がどうだとか
未来がどうだとか
そんな事今はどうでも良い
僕らの明日がどんなものか
宿題がどうとか
進路がどうとか
ちっぽけに思える悩みで
押し潰されそうになる毎日も
長い人生の中で見たら
きっとほんの小さなカケラでしかない
この夜空に輝く小さな星の様に
視認できるかもわからないカケラみたいな星
でもそれぞれが輝いているから
照らしている
きっとそうなんだろう
僕らにとっての大きな悩みは
いつか大きな世界の小さな悩みに変わっていく
でも今はまだそんな風に考えられないから
こうして踊るんだろう
月のスポットライトに照らされて
星が奏でる音の下で
今だけは僕らは自由だ
全てがいつかあの星の様に輝ける様にと
そう願いながら
祈りながら
#星空の下で
好きじゃない。本当は全然好きじゃない。だからすぐにやめられるし、今だってこれを吸い終わったら残りをゴミ箱に捨てることだって出来る。だって好きじゃないから。なんなら嫌いな位だ。
嫌いだよ。タバコなんて。大嫌いだ。
臭くて、煙くて、喫煙者に人権は無い。百害あって一利なしとはよく言ったものだ。身体に毒で、吸ってる本人より周りの方が害を被る。最悪な嗜好品だ。
嫌いだ。そう。嫌いだ。好きじゃないなんてもんじゃない。嫌い。嫌い。大嫌い。タバコなんて大嫌いだ。
何度も辞めようと思った。何度もゴミ箱に捨てた。
虚しくなって、嫌になって、空っぽになったタバコの箱を見る度に、君がもう居ない事を思い出すから。
コンビニに走って、18番を頼む。君の吸っていた銘柄。私にはちょっとキツイ。タバコが苦手だから、口に煙を含んでも、肺まで入れない。口に含むだけでも臭くって、苦くって。
むせ返るタバコの匂いに、それでも安心感を得てしまう。ダメな女。恥ずかしい女。未練がましいったらありゃしない。
君が他の女と寝ているのを見てしまった。
腹が立って、近くにあった目覚まし時計を投げたら、君の頭に当たって怒鳴られた。怖かったけど、怒鳴り返して、脱いでた服を外に放り投げてやった。女のハイヒールも、ブラも全部。
窓の外じゃなく、廊下にしてあげたのは優しさだ。夜中だったし、誰も見てないだろう。わかんない。私たちの喧嘩する叫び声でお隣さんは起きてたかな。今となってはどうでも良い事だ。
クズ男だった。ヒモで、私が居ないとダメで、私が支えていた。そう思っていた。
浮気だって知ってた。見ないフリをしていただけ。現場を見ちゃうと許せなかった。溜まっていた怒りが爆発して、とめられなかった。
あれから君は帰ってこない。当たり前だ。別れたんだから。
連絡一つ寄越さない。当たり前か。私は金ヅルだったんだから。
虚しさしか残らなかったのに。別れて正解だったのに。君の残したタバコの匂いに縋っている私は惨めだ。
最後の一本に火をつけた。今度こそ、本当にこれで辞めるんだ。
タバコは好きじゃなかった。でも、君が吸っているのを見るのは好きだった。タバコを吸う君の横顔が、タバコ臭い君の体臭が、タバコを吸う仕草が、指が、口元が。タバコで苦いキスの味が。全部好きだった。好きだったんだよ。
もう全部無いけれど。このタバコの煙のように白いモヤでかき消される。思い出だったのだと消えていく。
タバコが燃えて残るのは、燃えカスと吸い殻だけ。
でも、私は吸い殻になんてなりたくないから。このタバコと一緒に君との思い出も燃やしてしまうんだ。燃えカスになった思い出に興味は無いし、
吸い殻はキチンとゴミ箱に捨ててしまえる女だから。
タバコが燃え尽きる。長く息を吐き出す。苦くて臭い白い煙を吐き出した。灰皿に押し付けて、思い出も一緒に消火して。
ゴミ箱へ捨てた。灰皿と一緒に。
もう君も、君の思い出も要らないから。
#好きじゃないのに
大人になって出来なくなった事。子供だからできた事。沢山ある。
思い返した時に子供だから出来たことは
意外と少なくて、大人になって出来ない事って案外ないんよ。やらなくなってしまっただけでさ。
そう溢した君の横顔に、なんの意味があるのか戸惑いながら「そうかもな」と答えた。
君はまたニヒッ。と笑った。
***
君はいつも、歯を見せて、目を細めて、何か企むような笑顔を見せる。実際何か企んでいて、それはロクでもない事だ。
今日もその笑顔に僕はため息を吐く。
また振り回されるのだと。わかっていながらも、内心では楽しんでいる自分も居て。君に振り回されるのも悪くない。だって、僕の知らない僕の一面を見せてくれるから。
深夜の住宅街。酒缶片手にコンビニのビニール袋下げた君に連れ出されて歩く道のり。
街灯が照らす暗闇は、まだ肌寒い春風に揺れる桜の木。
君は前を歩き続ける。現れた公園の入り口から中に入ると、袋から何かを取り出した。小さい何か。
街灯の下へと向かう。袋から出した丸く黒い塊を僕に見せニヤリと笑うと、ポケットから取り出したライターで火をつけ地面に置いた。
次第にムクムクと大きく伸び始める黒い何か。しばらくするとそのまま止まった。
「なにこれ」
「知らない?」
「知らない」
「ヘビ花火」
「花火?これが?」
「うん」
「うんこじゃん」
「ヘビだよ。ウケるべ?」
「ウケねぇよ」
何処が楽しいかわからない僕に「わかってないなぁ」とボヤく。
まだ何か入っているらしいポリ袋から今度はメントスを取り出した。ブドウ味だ。
外がカリッとしているチューイングキャンディ。昔店の端にあるゲーム機で取ったのを良く食べていた。止めた数字の数だけ出てくるやつだ。懐かしい。
そんな事を考えている僕の横で封を開けると、君は僕に突き出してきた。
「食う?」
「貰う」
一粒貰い口に入れる。舐めると甘ったるいブドウの味が口全体に広がった。
君も一粒口に入れるとバリバリと噛み砕く。食べ方は人それぞれだが、そういえば君は飴もよく噛んでいたと思い出した。飴を共に食べるなんて事、もう無くなったから。
次に袋からコーラを取り出す。それを見て嫌な予感を覚えた。
キャップを開けると案の定そこに大量のメントスを入れ、急いでキャップを締める。
そして思いっきり振ると、キャップを開けるが早いか、赤いキャップを吹っ飛ばし、黒い液体が空高く吹き出す。
慌てて避けたが間に合わず被ったコーラのせいで、身体はベタベタ。手にペットボトルを持っていた君は盛大に浴び、頬を黒い液体が滴っていた。
「フッ………ハッハ……アハハハ!!!!」
腹を抱えて堪える事もなく大声で笑う君に釣られて僕も笑う。不意打ちを喰らい、身体がベタついた事も、服が汚れた事も今はどうでも良かった。
ただ、こんなしょうもない事が、バカみたいな行為が、楽しかった。
「はぁ〜あ。笑った。笑った。じゃ、お前んちで風呂貸して。今日泊まるから」
「は?泊まるって荷物……あ」
「そういう事」
うちに呼びに来た際置いていった大きなリュックは泊まり道具だったんだろう。なんとも準備が良い。最初からそのつもりで家に来たというのか。終電はもうないが、歩いて帰れない距離でもないだろう。
「一緒に風呂入ろうぜ」
「嫌だよ。大体家の風呂そんなにデカくないって」
「水鉄砲も買ってきたからさ」
「尚更無理だろ!男2人で入れる訳ないだろ!」
「やってみなきゃわかんないだろ〜。ほら行くぞ。文句言ったってお前はやる奴だって知ってっからさ」
君は僕を置いてさっさと公園を後にする。いつの間にかヘビ花火の残骸も片づけていて、残ったのはコーラで濡れた土だけだった。
「うわぁ。身体ベタベタ。しかも濡れてさみぃの」
「バカだろ」
「うるせ、楽しかったべ?」
「……ちょっとな」
「素直じゃないねぇ」
君の吐く息がまだ白かった時期の事を思い出す。僕が仕事で落ち込んで、自暴自棄になってた時だ。
あの日も君は僕を連れ出して、公園に積もった雪で雪合戦をしたんだ。2人きりで。
あの時も深夜だった。終電間近に大きな荷物を持ってやってきて、断る僕を引っ張り出して連れて行った。
雪と汗でびしょ濡れになって、凍えながら帰った後、風呂に入ってカップ麺を食べたんだ。君が買ってきてくれたやつ。
あぁ、そうだ。そうだったな。あの時君はこう言ったんだ。「たまには大人もバカみたいな事して良いんだぜ」って。それでぼくは……。
星空を眺めながら歩く君の横顔を見る。
「上ばっか見て歩いてるとつまづくぞ」
「鼻水垂れそうだから下向けねんだわ」
「……ばか」
「うるせ。大人だってたまにはバカなんだよ」
そう言う君の横顔は笑っていた。僕も釣られて笑って、心の中でありがとうと言った。
直接伝えるのはもう少し待って欲しい。僕もバカにならないと、恥ずかしくて言えないから。
#バカみたい
今日にさよならを言う。
そう決めてからおやすみと同時に、今日という日にありがとうを付け加える事にした。
今日もありがとう。さようなら。また明日ね。おやすみなさい。
それは誰に向けた言葉でもない。自分に向けているというわけでも無い。今日という日そのものに向けた言葉。概念に向けていると言うのが正しいだろうか。
先日仲間内の飲み会があった。
コロナ禍明けで久しぶりに集まった友人達との飲み会は大いに盛り上がり、年甲斐もなく日付を超えて朝まで飲み明かしてしまった。
酒がほんのり残る状態で寄ったラーメン屋で、シメとも朝食ともとれる濃厚な味噌ラーメンを啜り、腹を満たしてから別れた。
始発に乗って最寄駅までの帰り道。程良い揺れと暖かさ。楽しかったという余韻に浸りながら、自然と瞼が重くなる。
うつらうつらとしながら気付けばそのまま眠ってしまい、目が覚めたのは最寄り駅到着直前。
慌てて目を覚まして荷物を確認し、開いたドアから出ると、吹いた冷たい風に身を震わせる。思わず「今日は寒いな」という言葉が口から出ていた。
改札を抜け外に出てふと気付いた事がある。私は既に今日を今日と認識している。いつの間にか今日は昨日になっていた。まだ、今日にさよならを済ませていなかったのに。
先の飲み会。ラーメンを食べていたあの頃はまだ今日で、昨日では無かった。電車に乗って揺られて…それでもまだ今日という1日を噛み締めていて、今居る今日は明日にあったはずなのに。いつから私は″今日″を″昨日″と認識してしまったのか。
家までの道のりを歩きながら思考を巡らせる。いつどのタイミングで今日が昨日に変わったのか。
考えられるのは寝てしまったあの瞬間。
電車の中で、うとうととしていた時。「今日は楽しかった」と確かに感じた。今日が終わりであるかのように、締めくくりをしていたのだ。今日を締めくくり明日を迎える準備があの瞬間に生まれていたのだ。
そして思う。では、あの時私が眠らなければまだ昨日は今日のままだったのではないか。
どうだろうと、考えた。確かにそれはそうなのかもしれない。眠らずに、あのまま電車の中で友人達との会話を思い出し、その日を振り返っているだけだったらきっとまだ今居る今日は明日のままで、昨日という過去の存在になってしまったものと同じ認識下にあった筈だ。
では、その場合今日が昨日になる瞬間は何処だろうか。やはり家に着き布団に入る瞬間だろうか。この時間だがこの後特に予定もない。布団に入ってとりあえず寝ようと思っていた。
電車の中で眠らなければ、私は布団に入るその瞬間に今日という日を終え、いつものように今日にさよならと明日に向けての準備をしていただろう。
そう思うと、なんだか昨日に申し訳ない事をしたような気がした。昨日にはさようならもありがとうも言えていない。眠気という不可抗力とはいえ、なんだかしっかりとお別れを告げたかったと思う。
考えを巡らせているうちに家へと着き、扉を開けて部屋に入る。荷物を置いた途端に身体がどっと重たくなった。
まだ酒の残る身体。家に着いたという安心感からか、眠気が一気に襲ってきた。
一先ず手洗いうがいだけを済ませ、服を脱ぎ捨て布団へと急ぐ。寝巻きに着替える気力もないが、流石に下着一枚というのも寒い。落ちそうな瞼をなんとかこじ開け着替えて布団へと潜った。
今寝て起きたら明日だろうか。その明日は今日にとっての明日なのか、昨日から見た明日なのか。
答えが気になる所だが、思考するよりも眠気が勝っている。
遠くなる意識の中で私は呟いた。昨日になってしまった今日にさよなら。共に過ごしてくれてありがとう。そして……おやすみなさい……。
#今日にさよなら
20年前のバレンタイン
当時好きだった女の子に意を決して告白した。
ずっと私の片想い。想いが通じるなんて思っていなかった。
相手は女の子で、私も女の子で、恋と友愛を勘違いしてたのかもしれない。
それでもその時はその子の事が一番好きで、その子の事しか考えられなかった。
相手の子は驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑って、私の差し出したチョコレートを受け取ろうとし、手を止めた。
「やっぱり受け取れない」
あぁ。フラれたのだと。そう悟った。
少し俯いてから、真っ直ぐ私を見るその目は真剣そのものだった。
冷やかしとか、そういうのではない。だけど、貴方の好意は受け取れないという強い拒否。
「待ってて。これはまだ受け取れない。だから、もう少し……いや、少しじゃ済まないけど………大人になったら、必ず受け取るから。受け取れるようにするから。だから待ってて」
その子はそう言っていた。けれど、当時の私はそれがチョコを受け取れない、気持ちを受け取れない言い訳にしか思えなくて、友達の関係も今全て終わった思ってしまったのだ。
初恋のバレンタイン。苦い思い出。
そんな彼女に、今日メールを送った。
あれから疎遠にはなったものの、それでもたまに連絡を取り合う位の仲ではある。
年に数回の近況報告だけの関係。友人と呼ぶには少し心許ないかもしれないが、長い付き合いの私にとっては特別な相手だ。
そんな特別な相手に、私は今日御礼を伝えたいと思った。
***
20年前の今日。当時好きだった女の子からチョコレートを渡された。
内心では飛び上がる程に嬉しくて、にやける顔を必死に取り繕うのがやっとだった。
今すぐ受け取って、飛び付いて、抱きしめたかった。大好きな大好きな友人で、私にとっては最愛で。友情なんてものじゃない、もっと、それ以上の事を考えてしまうような、本当に恋をしていた相手からのバレンタインというものは、嬉しくて舞い上がってしまう程喜ばしいものだった。
ピンク色の包装紙でラッピングされ、不器用ながらに付けたリボンが愛らしくて、彼女の素直さが全面に出たそれは中身を見ずとも私の為に作ってくれたものだというのがわかったから。
だからこそ、中途半端な気持ちでは受け取れないと思ってしまった。私の中の真面目で芯の強い私が。
子供のバレンタインなのだ。相手は恋愛と友愛を勘違いしているだけかもしれないのに。ただチョコレートを受け取って「ありがとう」と言えば良いだけだったのに。
「待ってて」
口から溢れたのは、ありがとうでも、大好きでもなく。待っててという言葉。
あの時の彼女の悲しそうな顔は今でも忘れられない。
あの時、私が受け取っていれば何か変わっていたのだろうか。
そんな彼女から、今日入籍したという知らせが届いた。
『バレンタインに入籍しました。お相手は同じ大学で出会った2つ上の女性です』
そう書かれたメールに目を通す。
続けて『○○が制度を変えてくれたお陰で、こうして入籍できた事、本当に感謝しています。ありがとう』と。
私はあの日誓った。彼女とこの先付き合っていくのなら、共に歩んでいくのにはこの世の中は辛過ぎると。周りから白い目で見られることはわかっていたし、それを彼女に向けられると思うと耐えられなかった。
気づいた時には同性が好きだった。だから当時そこまで考えていたのも不思議じゃないが、今思えば初恋の相手に一生待たせようなんてなんとも偉そうだ。現に置いてかれているのが私だ。
それでも私が議員になり、あちこち駆け巡った結果、彼女に幸せが訪れたというのなら。彼女が胸を張って幸せを噛み締められる事が出来たのなら良かった。
例えあの時の想いが私に向いていないとしても、待たせただけの価値はあったというものだ。
***
バレンタインの入籍。
偶然か必然か。丁度良い日がここしか無かったというのが本音だが、相手と話し合って決めたのがこの日だった。
20年前のあの日、貴方にチョコを受け取って貰えていたら、私の横に今居るのはあの子だったかもしれない。
今になってはわからない。あの時受け取って貰えていたら、こうして入籍する事は出来なかったかもしれないから。
待っていてあげられなくてごめんなさい。私の為にありがとうという自惚れ位は許されるだろうか。
何にしろ、貴方のおかげで私は幸せになります。
苦い想い出は幸せの味に変わりました。
貴方にも幸在らん事を。
#待ってて