徒然

Open App


20年前のバレンタイン
当時好きだった女の子に意を決して告白した。
ずっと私の片想い。想いが通じるなんて思っていなかった。
相手は女の子で、私も女の子で、恋と友愛を勘違いしてたのかもしれない。
それでもその時はその子の事が一番好きで、その子の事しか考えられなかった。
相手の子は驚いた顔をしてから、嬉しそうに笑って、私の差し出したチョコレートを受け取ろうとし、手を止めた。

「やっぱり受け取れない」

あぁ。フラれたのだと。そう悟った。
少し俯いてから、真っ直ぐ私を見るその目は真剣そのものだった。
冷やかしとか、そういうのではない。だけど、貴方の好意は受け取れないという強い拒否。

「待ってて。これはまだ受け取れない。だから、もう少し……いや、少しじゃ済まないけど………大人になったら、必ず受け取るから。受け取れるようにするから。だから待ってて」

その子はそう言っていた。けれど、当時の私はそれがチョコを受け取れない、気持ちを受け取れない言い訳にしか思えなくて、友達の関係も今全て終わった思ってしまったのだ。

初恋のバレンタイン。苦い思い出。


そんな彼女に、今日メールを送った。
あれから疎遠にはなったものの、それでもたまに連絡を取り合う位の仲ではある。
年に数回の近況報告だけの関係。友人と呼ぶには少し心許ないかもしれないが、長い付き合いの私にとっては特別な相手だ。
そんな特別な相手に、私は今日御礼を伝えたいと思った。

***


20年前の今日。当時好きだった女の子からチョコレートを渡された。
内心では飛び上がる程に嬉しくて、にやける顔を必死に取り繕うのがやっとだった。
今すぐ受け取って、飛び付いて、抱きしめたかった。大好きな大好きな友人で、私にとっては最愛で。友情なんてものじゃない、もっと、それ以上の事を考えてしまうような、本当に恋をしていた相手からのバレンタインというものは、嬉しくて舞い上がってしまう程喜ばしいものだった。
ピンク色の包装紙でラッピングされ、不器用ながらに付けたリボンが愛らしくて、彼女の素直さが全面に出たそれは中身を見ずとも私の為に作ってくれたものだというのがわかったから。
だからこそ、中途半端な気持ちでは受け取れないと思ってしまった。私の中の真面目で芯の強い私が。
子供のバレンタインなのだ。相手は恋愛と友愛を勘違いしているだけかもしれないのに。ただチョコレートを受け取って「ありがとう」と言えば良いだけだったのに。

「待ってて」

口から溢れたのは、ありがとうでも、大好きでもなく。待っててという言葉。
あの時の彼女の悲しそうな顔は今でも忘れられない。
あの時、私が受け取っていれば何か変わっていたのだろうか。


そんな彼女から、今日入籍したという知らせが届いた。
『バレンタインに入籍しました。お相手は同じ大学で出会った2つ上の女性です』
そう書かれたメールに目を通す。
続けて『○○が制度を変えてくれたお陰で、こうして入籍できた事、本当に感謝しています。ありがとう』と。

私はあの日誓った。彼女とこの先付き合っていくのなら、共に歩んでいくのにはこの世の中は辛過ぎると。周りから白い目で見られることはわかっていたし、それを彼女に向けられると思うと耐えられなかった。

気づいた時には同性が好きだった。だから当時そこまで考えていたのも不思議じゃないが、今思えば初恋の相手に一生待たせようなんてなんとも偉そうだ。現に置いてかれているのが私だ。

それでも私が議員になり、あちこち駆け巡った結果、彼女に幸せが訪れたというのなら。彼女が胸を張って幸せを噛み締められる事が出来たのなら良かった。
例えあの時の想いが私に向いていないとしても、待たせただけの価値はあったというものだ。


***


バレンタインの入籍。
偶然か必然か。丁度良い日がここしか無かったというのが本音だが、相手と話し合って決めたのがこの日だった。
20年前のあの日、貴方にチョコを受け取って貰えていたら、私の横に今居るのはあの子だったかもしれない。
今になってはわからない。あの時受け取って貰えていたら、こうして入籍する事は出来なかったかもしれないから。

待っていてあげられなくてごめんなさい。私の為にありがとうという自惚れ位は許されるだろうか。
何にしろ、貴方のおかげで私は幸せになります。

苦い想い出は幸せの味に変わりました。
貴方にも幸在らん事を。


#待ってて

2/14/2024, 5:37:25 AM