またやってしまった。
恋人と大喧嘩(多分僕が一方的に怒ってただけだから喧嘩とは言い難いかも知れない)してしまった。
意見がぶつかるのは当たり前だ、その者によって考え方が違うのだから。
いつもなら、友達ならお互いの一番近くて心地よい所まで下がって後はその線引きしたラインを越えなければ良いだけだ。
喧嘩なぞしたくはない。
でもなぜだろう、君に限ってはそのラインを越えたい。
線引きなんてしたくない。
僕を全部知って欲しい、全部解って欲しい。
君を知りたい。
全くもってちぐはぐで、まるで天邪鬼だ。
心なんてなければ良かったのに。
裏返し
庭のグミの木目当てに集まった可愛い小鳥は狐の気配を感じてだろうか一斉に飛び立った。
羽を羽ばたかせ空に舞い上がる様を見て僕は自分も鳥のように自由に飛んでみたいと強く思った。
調べてみると一番大きい鳥の種類で約15Kg程の重さでもでも必要な翼開長が3メートルは必要になるらしい。また胸筋や重力に逆らう為の羽ばたく力も必要だ。
ならば僕の翼は十数メートル程は必要になってくるのだろうか。
羽が生えた人形といえば西洋の天使の姿を思い出す。
背中……肩甲骨から生えてる様に見えるが、腰から生えてる方が飛ぶ時のバランスが取れるのでは無いかとぼくは考える。
まあ幾ら考えた所で僕に翼は生えないし生える予定もない。凄く残念だ。
飛ぶ、ではないが風の吹く日に傘で空から登場する物語があったなと思い出した。
これなら今すぐに試せるのではないかと部屋を飛び出そうとした所で実は隣でずっと僕の行動を静観していた恋人に抱き締められた。
「これ以上自由なのは困る」
腕の中にすっぽり収まった僕はまるで鳥籠に入れられた鳥のようだった。
鳥のように
僕たちがいつ折れてしまうかなんて誰も分からない。
もしかしたら今日が最期かもしれない、だから毎日を大切に心残りのないように過ごすようにと心がけてる。
が、最近ぼんやりと思うのだ、もし僕が居なくなった後の君のこと。
もっと厳しい戦況になったら、きちんとさよならの言葉をかけあって心を軽くしておきたい気持ちもある。
僕としてはさ、ずっとじめじめしてるのは好かないけどやっぱり僕のこと引きずって欲しいって気持ちもあるんだ。
君はどう思う?と聞いてみるとそれは直接本人に話す内容か?と呆れ顔だ。
そして君は「あんたが折れても俺は最期まで戦う、俺が終わったらあんたの元へ行くから待ってろ」と、永遠を約束してくれた。
さよならを言う前に
ぽたぽたと頭や肩に雫を感じてすぐに滝のような雨が降りだした。
「夕立だ」
畑仕事で空の様子に気付かなかった僕は慌てて物置小屋へ飛び込んだ。
先程まで晴れていたのに、あーあ、トウモロコシの収穫ついでに皮を剥ぐまでしたかった。
薄皮を残して茹でる方が僕としては美味しいと感じるし、そうしたいけど人数の多さにそんなこと言ってられない。
とにかく効率重視なのだ。
慌てて小屋に飛び込んでしまった僕は完全に手持ち無沙汰で、雨で濡れた袖口を絞りながらぼんやりと景色を眺める。
ざあざあと降る雨は昼前に干した洗濯物を色が変わる程ぐっしょり濡らしている。
洗濯からやりなおしだ、ああこの空模様からすると雨はしばらくやまないだろう。
ため息をつき視線をスライドすれば庭に片付け忘れられたのか転がったままの憐れなバケツが激しい雨に打たればちんばちんと音を立てており、その姿は僕の哀愁を誘う。
「まるで楽器だな」
いつの間にか僕のお気に入りの傘を片手に迎えに来てくれた普段無口で無愛想な君がバケツに視線を向けながら真剣に言うものだから、「君って可愛い事を言うよね」なんて言ってしまった僕は悪くは無いと思う。
空模様
鏡に写る自分を見る。
そこには眉を潜めどこか自信の無い顔をしてる自分の姿が写っている。
自分は多くの人に大切に愛されてきた、その記憶は自信に繋がる。
決して容姿に自信がない訳ではない。
ただ、君は僕の容姿をどう思う?
君の好みの顔立ちだろうか。
パチンと頬を叩き自分に活を居れる。
恋は戦。
例え僕の容姿が今は好みでなくても、塗り替えればいいのだ。
折角想いが重なりあったんだ、どうせなら身も心もめろめろにしてやろうではないか。
鏡