レンズを睨むように、鋭い眼差しを向けてと指示が入った。
俺は従い、眼に力を込める。いつもは柔和で知的だと褒められる表情をぐっと引き締め、まるで蹴落としたい相手でもいるように、レンズを敵だと捉えるように、強い視線を送る。
その上でポージングを決め、いくつかフラッシュがたかれ、OKと明るい声がかかるまで意識を集中させた。
「良いね。すごくかっこいいよ。いつもの優しい君とはまったく違う、新しい一面を引き出せた」
カメラマンはとても満足した顔で俺を褒めてくれた。ニコッと笑みを浮かべて、頭を下げる。
「ありがとうございます」
その後も撮影は続き、いつもの爽やか然としたスマイル、切なげな横顔という風にコンセプトを決めて被写体に徹し、スケジュールは少し早めに切り上がった。
インタビューに入る。雑誌記者が登場し、これまでの活躍と、これからの仕事を答えた。
「スターになる人だと思います」
記者は好意に満ちた視線を送ってくれた。お世辞ではなく、俺に期待してくれているのだとわかる、熱い視線だった。
俺は礼を言い、現場スタッフ全員に丁寧な挨拶をして仕事を終えた。
スターになる人。当たり前じゃないか。
俺は、ずっとその道を目指して生きているのだから。
憧れは、憧れのままでは終われない。胸の内に灯る炎をうまく操りながら、俺はスターダムの階段を上っていくのだ。
鋭い眼差しは、俺の本質。この世界で生き残ってやるという、飽くなき野心。
幼い頃に夢見たあの場所に、今、立っている。
#鋭い眼差し
幼い頃、水たまりに映った空の灰色の感じや、自分の姿を不思議に思ったことがある。
特に晴れた日だと、水色の世界が水たまりに広がり、きれいだと感じたものだった。
大人になれば、小さな物事に感動しなくなると世間では言われていたけれど、自分は大人になっても絶対そうはならないと信じていた。
けれど大人になってみて、世間の定説がいくらか正しいことがわかるようになった。大人になるということは、つまらないことなのだ。
誰しも子どものままではいられない。人は成長して、歳をとって、人生という役目をいつかは終えていくのだから。
だから、子どもの頃の思い出は、大人になればなるほど、それが当時どんなにつらいものでも、宝の日々だと感じるようになるのだろう。
大人になる楽しみは、子どもの頃を懐かしがられる、その人生の長さなのかもしれない。
#子供のように #エッセイ
カーテンの隙間から漏れる朝日は、木漏れ日のようにも思えて好きだ。
休日。目覚ましを鳴らさずに寝れる日だが、私はいつもと同じ時間帯に目が覚めた。
新しく買い替えたカーテンは思うよりずっと部屋に映えていて、それだけで気分がよかった。
前のやつは、彼が買ってきてくれたものだったから。
彼がいい男だったかどうかは、正直、判断が難しい。一人暮らしの女の家に転がり込んで、しばらく住んでいたから、てっきりずっと一緒にいるつもりなのかと思い込んでいた。私もあの頃は、若くて何も知らない無邪気さがあった。
彼が「新しい家が決まった」と出て行く時、せめてカーテンだけは持って行ってと私は告げた。彼からの贈り物はすべて捨ててしまいたかったのだ。
「うん、わかった。君の言う通りにするよ」
一世代前の言葉で言うなら、彼は甲斐性無しだったのだと思う。おそらく私のことを好きでいてくれたけれど、寄り添う覚悟を持てなかった。
新しくなったカーテンを見る。彼の匂いはもうこの部屋にはない。
それほど憎んだわけでも恨んだわけでもないが、やはり心のどこかはチクリと痛む。あくまでも優しい男だったから。
窓を開ける。秋の入り口の風が涼しい空気を運んでくれる。
これからは、歩く。急ぎ過ぎもせず、走りもせず、ただ着実に、一つ一つの物事をきちんとして、ゆっくりと人生を進む。
私の物語は私のものだ。
このカーテンも、私のものだ。
風がふわりと私の鼻腔をくすぐる。今日は晴れてるから散歩にでも行こうと、その日の予定を楽しく考え始める。
#カーテン
もうずいぶん前のことですが、推しが急逝しました。
傷は時間とともにいくらか癒えたけど、今でも思い出すと涙があふれてしまいます。
そのグループは活動を再開して元気に過ごしてくれています。
私にとって推しは、赤の他人ではなく、でも友人というわけでもなく、とても不思議な居場所でした。
人生の彩りを与えてくれてありがとう。
思い出はずっとずっと美しい。
KPOPガールズグループに幸多からんことを。
#涙の理由
そんなに見ないで、と彼女は頬を赤らめた。
いつもより丁寧に、華やかに施されたメイクは彼女のもともと整った顔立ちをさらに美しく際立たせていた。髪も気合いを入れて巻いてくれたのだろう。波打つウェーブは明るい茶色のカラーにコーティングされ、この日のために心血を注いで見繕いしてくれたことを物語っている。
ドキドキはやる心臓を気取られないために、さりげない感じを装って腰に手を回す。下心などないよというように、自然なエスコートができるタイプだと宣言するように。
伝えたかった。
綺麗だよと。
周りにはまだ人だかりがいた。恥ずかしがり屋な彼女は、みんなが見ている前で恋人同士の触れ合いをするのが苦手だから、触れたくなる唇をグッと我慢して、紳士に徹した。
怖いことなど何もない。
これは祝福だ。
世界の中心は自分たちではなく、大勢の価値観に染まれるような感覚は持っていなかった。世界との違和。彼女を愛した、ただ一つの理由。
同じだった、と。
惹かれ合うようになるまでに、時間はかからなかった。出会うまでの孤独が、この日のためにこれほど長かったのなら、神様は人を作り上げるたびに失敗してばかりだ。
それでも今、集まってくれている仲間たちの、祝福の言葉を受け、自分たちは生まれてよかったとこの年になって知る。
天から授かったギフト。
彼女を愛している。
まだ恥ずかしそうに潤んだ瞳でこちらを見上げる彼女の、しとやかな色香に当てられ、吸い寄せられるように私は唇にキスを落とした。
世界結婚デー。