私は貴方とずっと一緒に遊んだり、話したりする上でふと思い出すことがある。
私と貴方はあくまで『友達』という事に。
画面越しでのあの親密な関係ではなくって、一からやり直したみたいに。
でも、その親密な関係すら『親友』という関係である事。
…私は貴方の恋人になりたい。昔からそう思っている。だけど現実はそう上手くはいかない。
私はそれを分かっているけれど、どこか悲しかった。
明日は早くて、泊まれない。となって自宅に帰ろうとして
「じゃあ、また今度ね」と笑顔で言ってそこから去ろうとした時
不意に口から本音が零れ落ちた。
「私、貴方の特別になりたい。」なんて。
私はそれを言った後、すぐに自宅に戻った。
なんて事を別れ際に言ったんだ。私。
何年か前の事。
まだ涼しい朝方に、人気のない公園で二人はブランコを漕いでいた。
特に用事があったわけじゃない。ただ行きたくなったから。
こんなワガママに付き合ってくれるなんて、貴方は優しかった。
二人は特に何か言う訳でも無く、ただブランコを漕いでいたから、
キイィ、キイィと鉄が軋む音だけがして。それがどこか寂しかった。
そして私がなにか話そうとして、口を開こうとした瞬間だった。
貴方がこっちを少し悲しそうな顔で見て
「俺ね、もう海暗と一緒にいるの疲れちゃった。もう別れよう?」
冷たい声だった。だけどいつもの温かさも少し残っていて私はそんな声で言われた突然の発言に
驚愕する。
別れよう、この言葉が私の頭の中で狂ったメリーゴーランドの様ぐるぐる回る。
別れたくない!嫌だ!なんで!
という言葉が頭に浮かぶ。だけどそんな言葉は口に出来ない。
私は貴方と違う気持ちを持つことが嫌だったから。
僅かな沈黙の後私は震えた声で
「…うん、分かったよ。今までありがとう。」
と言う。本当はこんなこと言いたくない。なのにこんなことを言ってしまって
私は溢れる涙を堪えられずにいた。
私の言葉を聞いて、この公園から去っていく『君』。
私はそんな『君』をみて、必死に行かないで、って言おうとした。
だけどそんな言葉、出なかった。
私の口から出るのは、『君』との別れに強い喪失感を抱いたが為の呻き声だけだった。
そして今。
私は相変わらず独りだ
やっぱり『君』が戻ってくることをずっと待っている
あの時から抱いてる喪失感は一向に消えない。あの時のことは今でも忘れられない。
「貴方しかいないの…この想いを、晴らしてくれるのは…」
と、独りの哀しい部屋で呟いていた。
窓から見える、藍や紫のグラデーションの空に不規則に輝く星、それを隠すように空に佇む雲
それを見つつ私は貴方と何気ない話をしていた。
いつもと何ら変わらないけど、それがどこか嬉しかった
そしてふと私は思った
私達、会ってとても年月が過ぎてるなって。そして、貴方への想いのことを。
これを貴方に話す
「そういやさ、私達って会ってすごい年過ぎてるよねぇ」
絵の描き方とかの動画をスマホで見ていた貴方は画面から私に目線をずらして少しはにかみつつ
「あぁ、そうだね。でも、会った時の事と俺に想いを伝えてくれた時の事が
まるで昨日の事みたいに思えてくるんだ。
衝撃的だったからなのかもね。」
「うん、それで少し考えたの」
「何を?」
「貴方への、想いについて。私はもう何年も貴方へずっと変わらない想いを抱いてるじゃない?
それが出来るのって、世界に一つ、いや一人。貴方だけなのかなって」
私は恥ずかしくなって少し俯きがちになりつつ、そう言う
「そうなの?嬉しいな。俺もそうだよ、昔からずっと俺の隣に居てくれてさ、これからもずっと一緒でいれるのは海暗だけだ。」
私は予想外の言葉に驚いた。そう思ってくれてるんだな、って。
その言葉に私はとっても嬉しくなって自然と口角が上がって
「えへへ、そうだね。私はずっと貴方と一緒だ。」
なんて言葉にする
「うん。ずっと一緒だ。」
指にはめられた、部屋の明かりに照らされキラキラ光る宝石があしらわれた指輪を見て
2人だけのここで、そう誓いあった。
世界に一つ
日が落ちかけた夕方頃。まだ少し蒸し暑くて、歩いてるだけでも少し汗ばんでくる
元々暑がりだからこの位の暑さでも溶けてしまいそうになる私は一刻も早く涼しい家に戻ろうと
暑いのを我慢して家に帰る
家の鍵を開けると、涼しい空気がぶわっと私を包み込む。
さっきまでの暑さを一瞬で忘れてしまうくらいだった。
さっきまで着ていた服を洗濯機に入れて私は貴方が買ってくれたルームウェアを着る
すると後ろからギュッと抱きつかれて
「ひゃう?!」なんて言う声が出る
こんな事されるの全然無かったから。
猫耳のついたフードに頭をうずくめてくぐもった声で独り言くらいの小ささで
「遅いよ、海暗…待ってたんだよ?」なんて言ってきた。
私は貴方の腕に挟まれてた手を引っ張り出して頭を撫でる
「ごめんね、遅くなっちゃって」
宥めるような感じで言う
あとから話を聞くに、いつもならもう少し早く帰ってくるのだけど、今日はかなり遅くなったから心配してくれていたそうだ。
LINEでも送ってくれればよかったのに……とは思ったけど、待っててくれた貴方に失礼だ
そして、貴方は
「海暗がどっかに行っていないか怖かった。海暗は俺のなのに」
なんて、急に言ってくる
胸の鼓動がどんどん早くなっていくのが分かった
私は貴方の頭から手を離し、そのまま顔を覆った
「そ、そうだね…、ご飯食べよっか…」
照れ隠しも兼ねてご飯のことを話題に出す
すると食い気味にうんと返事をするから、お腹すいてたんだなって分かった
私はそう言いつつ、収まりそうにないこのドキドキに少し呆れながらも笑っていた。
月と星のよく見える夜道を私は貴方と手を繋いで歩いてた。
星々と月の明かりに照らされながら私達は話してたんだ。
私は何年も前からずっと一緒なのに、慣れない恋人繋ぎに照れ、私は俯くんだ。
そして、貴方の顔を見ようと少し上を向いて、貴方を見た。
貴方のあまりにも美しい姿に目を見張る。
月光と星の光の煌めきを纏い、普段の美しさをさらに惹き立ててる。
月下美人とは、この事を言うんだね。
そんな優美さに圧巻され、私はまた俯く。
これを見ていたのかな、貴方は私の顔を見て
「どうしたの、俺の顔になんか付いてる?」
なんて言ってくる、私の態度から大体察しているくせに。とは言わず、顔を火照らせて
「……ただ、綺麗だなって、その、貴方が…星とか月より…」
あぁ、自分で言っていてすごく恥ずかしい、恥ずかしさで死にそうになるよ。
それを聞いて、すごく嬉しそうな顔をしながら貴方は繋いでいない方の顔で私の頬を撫で、笑いつつ
「そういう海暗もすっごく綺麗だと思うよ。」と言った。
そんな、見てるだけで蕩けてしまいそうな顔で言われると何にも言えなくなるよ。
私、貴方のその表情、立ち振る舞い、言動とか全てがまるで星のように煌めいて見えるよ。
そんな貴方とずっといれる事、とても嬉しく思うよ、私は。
私は自分のシャツをキュッと掴んで、今までに無いくらいの笑みを浮かべ、
いつもこうやって私の事褒めてくれたりしてくれてありがとう。
という想いとかを込めて言う
「ありがと!!」って。
その時の私はこれまで以上に煌めいていたと思うな。
だって、私のその顔が大好きって貴方が言ってくれたから。