灰色の雲が赤く染まっていく
渇いた思考の繰り返し
今日も駅の階段を昇って雑踏のひとつとなる
窪んだ眼球が映すこの街の景色は
胸焼けがするほどいつも通りで
階段の手すりに掛けた指先に汗がにじむ
終わりの見えない日々に呼吸も出来ずに
飲み込んだ言葉は吐き出すタイミングを失って
見上げた空は焼けつくほどに赤く遠く
「もういいんだよ」
ふと、天使の声が聴こえた気がした
ホームにノイズ混じりのアナウンスが響く
「間も無く終点、終点になります」
深夜二時半過ぎの
澄んだ硝子ケースの街
鯨の鳴き声で目を覚ませば
トビウオの群れが流れ星に混じって
月明かりを浴びて輝く羽がとても綺麗だった
今この世界は私だけのもので
あの星も 月も ひとりじめ
四肢を投げて 仰向けになって
見上げた先にまんまるお月さま
静寂が青く透き通って
魚たちが吐く 銀の泡が
あの月を目指してぷかぷかと昇っていくのを
ただぼんやりと眺めた
霞む視界 薄紫の灯り
白む空の雲間に気付く頃には
きっとすべて消えてしまうでしょう
痩せ細ったあなたの手を握って
白い鳩が飛んでいくのを見たこの部屋で
今眠るは私
白磁色の天井、肌、におい
辿るあなたの思考、記憶、言葉
濁っていく 真冬の空のように
失われていく光の向こう側
スライドしていく写真は鮮明に覚えていて
此処はあまりにも考える時間があり過ぎて
忘却という暇を与えてくれない
弱々しい呼吸を吐いては繰り返し
焼き付いて離れないあなたの笑顔を夢に見た
他人より不器用に生きて
下手くそに息をして
溺れかけている
繕わなければ『普通』を保てない
陸の魚
深夜二時過ぎの静寂がやさしく背中を撫でる
漸く呼吸が出来たと 深呼吸をして
月へ昇る泡を見つめた
空を映すビー玉のような
海を閉じ込めたガラス鉢のような
当たり前の如く甘えてくる子猫のような
生まれたばかりの魂のように
キラキラした星のヒトカケラを拾い上げ
フゥーッと息を吹き込んで
紺色のビロードが拡がる空へ送り出す
嘘つきな僕には手に余る
軌跡を描きながら彼方へ飛んでゆく
君を眺めながら目を細めた