知らない場所から贈り物が届いた。
何が入っているかわからずゾッとしたが、好奇心の強い俺は恐れず開封することを選んだ。
中には見切り品のシールを貼られた女が入っていた。
顔は青白く、上半身は貧相で、下半身は象のようにぼてっとしていた。服も着ているのか着ていないのかわからないような薄着で、冬も目前のこの時期にはとてもじゃないがみられない格好をしている。正直ギリギリ抱けると思った。顔は美人ではないが悪くない。表情に感情は見られず、ただ口をひとつに結び俺の言葉を待っているように見えた。
どのような経緯で見切り品のシールを貼られ見知らぬ男の家に届けられたのか。謎しかないこの女を、どうするべきか。人の贈り物なんて考えたこともなかったし、ましてや知らない女だなんて、夢の話ではないのかとも思った。しかし何度見ても本物の女である。
まともな男なら通報するのだろうか?
ただ俺はまともな男ではない。
迷わずこの家で過ごさせることを決意した。
うまくいかなければ俺は終わるけど。
まずは女に同意を得ないと。
「君、話せる?君の事情は知らないけど、俺と一緒に過ごしてみない?」
女はその言葉に黙って頷いた。それは本意じゃないように思えたが、女にはその手段しか残されていないように感じた。話せない事情があると察した。
ここから俺と贈り物の見切り品女の、主従関係がはじまった。この時、まさか俺が、この女を手放せなくなるとは思いもしなかった。
あなたも私も屑だってわかっている。
だから惹かれたんです。
何も合わないのに、離れられなかった。
あなたは友達だと言いながら、身体の関係を求める。
私は寂しさを埋めるために、友達の線を超えた距離で関わる。でも、セフレと定義された関係はただ虚しいだけだった。
「恋人じゃだめ?」
重い鎖のようなその言葉は、絶対に口に出せない。
恋人のようなことをするのに、現実的には恋人になるなどあり得ない組み合わせ。だから都合が良い、を選ぶしかなかった。
仮に関係が終わったとしても平気だと思っていたけど、あなたが引き止めようとすると、約束を果たせてないからと罪悪感で戻ってしまう。
結局何度も身体を許して、自分のプライベートもどんどん犯されていった。
私はあなたを知らないから、去れない。あなたを知ってからじゃないと去れないなら、一生私は呪いにかけられたままなのだろうか。
これは一種の洗脳…?などと思いながらもなぜか求めてしまっている。あなたをもっと知ってしまえばどんなに屑だとしても好きになってしまうとわかっているから、知るのが怖い。けど知らないままだと離れられない。
どちらも自称優しい屑。
出会ったのは必然だったのかもしれない。
けど、このままじゃ失うだけ。
いくら惹かれていても、幸せじゃないなら離れなきゃいけないかな。
あなたの呪いだって、皆にかけてるんだろう、
だったらもう離れていいよね。
あの惹かれた瞬間を忘れたくないけれど、どの関係でも私たちは壊れてしまうだろう。
知らないまま去ってごめんね。
とんでもなく痛い爆弾をつけられた。
あなたは苦痛しか与えない。
「あなたのせいでこんなに痛い」
泣きながら訴えたら、
「なぜ泣くの?」ととぼけて聞かれた。
だから、泣き寝入りするしかない。
私はあなたを信用して、身体を許したのに。
あなたにとってはただの駒。
偽りの安心感と包容力に惑わされて、気づいたら依存していた。身体を許す時も心は苦痛しか感じてないのに、都合が良いだけにしては優しすぎるあなたに溺れてしまった。
なんて馬鹿だったんだろう。
ただの興味で飛び込んだ世界は、
やっぱり欲に塗れた闇世界。
まともな人の、ドス黒い裏の顔。
病気の巣窟。
孤独の埋め合わせ。
何か満たされない寂しい者の集まり。
私も、ただ欲に塗れた爆弾魔になっただけ。
結局快楽と引き換えに、苦痛を与え合う関係にしかなれなかった。私だってあなたに苦痛しか与えてないんだろう、私がこんなに痛いのは。
これからこの大きな爆弾を抱えて、私は普通の生活ができるのだろうか。
いっそあなたがもう責任とってくれたらいいのに、なんて。無理なのはわかってるけど笑
あなたは何も痛くないんだろうね。
私にひとつも心が動かないんでしょう?
私を爆弾魔にしたあなたを一生覚えているから
今年の花火は1人。
誰と一緒にみたかったのかななんて考えながら、ベランダから眺めている。
幼い頃は家族と、中高生の頃は友達と、昨年ははじめての恋人と。
夏のじめっとした風を肌に感じながら、潤いのある記憶を思い出す。のんびりとした間隔で派手に音を立ててひかる花火が、断片的に記憶を見せてくれているかのようである。
家族の職場からみた花火。どんな花火だったか覚えていないが、興奮してはしゃぎながら楽しんでみていた覚えがある。職場の人も家族もみんなで、ワイワイと話しながらみていたっけ。
友達とお祭りでみた花火。私が変わっても変わらなくてもずっと忘れないで、思ってくれている友達と。花火よりも友達が綺麗で、横顔をみていた気がする。憧れの存在のように、遠くにいくように思えて、花火すらも切なくみえた。
恋人とベランダから見た花火。場所も花火も今年と同じ。ただ昨年は好きな人が隣にいた。はじめて泊まりに来た日、ぎこちない空気の中花火を眺めていた初々しい甘い記憶。花火は今までで1番輝いてみえた。
そして、今年の花火は1人。
盛大に打ち上がってきらきら輝いて、儚く空に散るひかりに、思わず涙腺がゆるむ。
1人でみるのも悪くない。むしろ大歓迎である。
しかし、今の私は誰とみたかったのかすらもうわからないのだ。それが儚く空に散る光と重なり、切なくなってしまった。
一緒にみたいような、気がする人もいた。でも私と一緒にいてはいけないと、想いは殺している。
花火で思い出す人は、大切な人なんだろうと思う。
自分も、誰かの記憶に花火を通して干渉してないかな、なんて。
そんな願いも儚く消すように、フィナーレの大きな花火がどどーんと鳴り響き、夜闇に消えた。
知らぬ間に 染み込んだ癖 君ゆずり
身に染み渡る 心の泉
言わずとも 互いに気づく 滲む愛
馴染むひとみに 影は映らず
沈黙も あなたとならば 良い余白
君の言葉に 力も宿る