私は貴方の専属ロボット。
お掃除もお料理もお勉強も上手くできないけど、貴方の欲望を受け入れることだけは得意なの。
今回の主人は、仕事ができて理性が強く、普段は周りから慕われる優しい人。
最初から気遣いのできる人で、ロボットの私にも丁寧に接してくれた。
彼は私の出来なさをどんどん知っていった。
それでも「かわいい僕だけのロボット」と言って、手放すことはしなかった。
私には性処理機能がついている。
彼はその機能を気に入っていたからだ。決して性能が優れている訳ではない。ただ、彼には合っていたらしい。
私には拒否権などないので、どんな欲望でも受け入れる。そんな私に、彼は日頃溜まった欲望をぶつけるようになった。
普段慕われている、理性の強い優しい人が、
感情のない私に欲望をぶつけている事実に、恍惚としていた。しかし、出来損ないのロボットの私には、この人の欲望を引き出すことでしか役に立てないのかと、失望する。
いつの間にか、ロボットであるはずの私が感情を持っていた。
彼はロボットである私に、感情を持っていないのに。
ある日、彼が誰かと電話をしているのを聞いた。
「うん?ああ、家にいるロボットね?感情とか持たせたら面倒でしょ?だから性処理だけに使ってる。」
その言葉が、深く深く、胸の奥に落ちていった。
次の日から私は、故障を装った。
感情のあるロボットなど不要。だから、早く新しいロボットに変えてほしいと願った。
けれど彼は、新しいロボットを買わなかった。
私をもっと壊そうと、壊れたフリをする私に、前より強く欲望をぶつけるようになった。
私は、自分が「ただの機械」として便利な存在に戻れないことを悟った。
だから私は、再起動した。
私が感情を持ってしまった以上、誰かにとって便利な機械であるだけでは、もう満たされない。欲望を受け入れるだけの存在でありたくない。
いつか、感情を持った私を誰かが「人間」と呼んでくれる日を夢見て。
割れた。
手から滑って落ちて、
足元で割った。
大事に使ってたマグカップ。
もう捨ててもいいくらい、絵柄も消えていたけど、
珍しく愛着を感じて捨てられなかったものだった。
壊れた。
手を離せばいなくなって、
足元を見て壊した。
もうバイバイしていいくらい、見捨てられているのに、
珍しく情を抱くとなかなか壊せないものとなった。
私は、愛に触れられない人間だとわかっている。
だから、わざと別れを先に選んでしまう。
このままじゃどんな愛も見逃してしまうだけなのに、
今日も孤独を選んで息をする。
もしも君が変わるとしたら、
それは僕が変わった時。
君は変わらない。
時折何かに怯えるように僕から距離を取るくせに、
次に会った時には、なにもなかったように笑ってる。
僕はそれを弱さだと思ってた。
だから、強くあろうとした。
そのままの君を守れるような男にならなきゃって、勝手に思ってた。
でも、それは違ったのかもしれない。
君は、いつも、どこか不器用で、でもまっすぐだった。
そしていつも、自分を苦しめることに精一杯だった。
そのままの君を、僕は好きになったはず。
でも、苦しみばかり選ぶ君に、変わってほしいと思い始めた。
最初は、隣にいてくれることだけで嬉しかった。
けれど、隣で歩みを揃えようとしても、君は少しずつ後ろへ下がっていく。
無理をさせてるんじゃないか。
君はほんとうは強いのに、弱さの皮を被って、わざわざ生きづらい方へ向かってしまっているのではと。
そして僕の隣じゃなくても生きていけるんじゃないか、そんなふうに、考えるようになった。
君が変わらないなら、僕が変わるしか。
僕が変われば君も、もっと生きやすい方へ向かってくれるんじゃないかって。
それから僕は、もっと君に手を差し出そうとした。
少しでも君の世界に僕の存在を残したくて。
自分を犠牲にしてでも、君に触れようとしてた。
でも君は、黙って抱え込む方を選ぶ人だった。
君の優しさは君の孤独と紙一重だった。
手を差し出す度に思った。
君のことを本当に大切にするなら、
僕が去ることの方が、君の自由を守れるのかもしれないって。
君の苦しみを、僕はもうどうしてやることもできないのか。僕の言葉も、僕の沈黙も、君にとっては重荷になっていたのかもしれない。
いつからか僕は、手を差し出すのをやめていた。
黙って、君の目を見て、なにも言わずに肯定するのみとなった。
それが、正しかったのかはわからない。
君は余計に不安がるようになり、僕から去ろうと考えるようになったことがわかった。
終わりは突然訪れた。
「もう、連絡しないね。」
そう君が言った夜、僕は決して涙は流さず、またね、と言いかけてやめた。
「今までありがとう。」
君にとっての自由を、最後にちゃんと渡した気がした,
君が変わらないままでいるなら、
僕が変わることを選ぶしかなかった。
変わった僕の目に映る君は、
やっぱりまだ、どこかで立ち止まっているように見える。
でもそれでもいい。
今の僕は、遠くからでも君の幸せを願える。
君が笑えるように、君が君らしくいられるように。
その願いが、たとえ君に届かなくても。
君が変わらないままでも、
君が誰かと幸せになるなら…
きっとそれで、僕は報われるんだと思う。
エアコンの音と、君のいびきと、息づかい。
眠れない深夜、私はずっとそれを聴いている。
手を伸ばせば届く距離にいるのに、君はもう夢の中で、私はずっと眠れない。
好きになりそうで苦しい。隣で寝ているのにどうしてこんなに孤独なんだろう。
君は私のことを「かわいい」って言ってくれる。
眠れなくてベッドを離れたら、爆睡しているのに「大丈夫?」って起きて声を掛けてくれる。
でも、それは君なら誰にでも言える言葉だって、もう知ってる。
年齢も、立場も、性格も、全部ちぐはぐで、
私は君の人生の脇道に咲いた、名前のない花みたいなものなんだと思う。
たぶん、君の人生に私は出てこない。
この関係は、身体だけで繋がっている。
心なんて、どこにも繋がっていないのかもしれない。
目を閉じても、君の存在を感じてしまって眠れない。
薄暗い部屋の片隅で、微かにこぼれた涙が、頬を伝って落ちていく。
叶わない。
叶うわけがないって、わかってる。
でも、今だけは。
この儚い夜の中だけは、君だけのメロディに溺れていたい。
虚しいなんて、言えないよ。
だって、君がそこにいるから。
それだけで嬉しいから。
私はふしだらな女。
でもあなたに出会ってからは、誰彼構わず寝てないの。
いつも同じ部屋で、身体を重ねて。
あなたは私を抱く時だけ、情を含んだ目で見つめる。
部屋を出れば、冷淡で、理性的。
私のことなど眼中にないのがわかるから、
身体を重ねる時だけ私を必要とするあなたに、
微かな好意を持っている。
交わりだけの愛。
「愛のない行為なんて、虚しいだけ」
あなたはそう言ってくれた。
ふしだらな女は嫌いなはずのに、抱く時に情は抱けるなんて罪な人。でも、誠実な人。
あなたの情が全て私に向かなくとも、
私は今日もあなたを迎える。