幸せそうな人を見ると、とても憎い。
他人の不幸は蜜の味、とはよく言ったものだ。
自分より不幸の人を見ると、自分より下がいるとわかると、何故か安心してしまう。
幸せそうな人は光輝いていて、眩しくて、目が潰れてしまいそうになる。
そんな私は、いつの間にか、そっち側の人になっていた。
トントン拍子で昇格して社長になり、美人なお嫁さんをもらって、元気な健康な子どもも生まれた。
まさに幸せの絶頂期だ。
自分が眩しくて、怖い。
光の反対には闇がある。
その闇がいつ牙を向くのかが、私は怖い。
そして過去の私のように、きっと眩しい私を見て、妬み憎しんでいる人が、きっとどこかにいるだろう。
眩しくて、疲れた。
【眩しくて】
憎くて憎くて仕方がなかった。
何をやっても、お前は無能だ、と何度も言われ続けていた俺。
でも、俺の親は紛れもなくこのクソな両親しかいないのだ。
振り返ってもらいたいから、いい点数をとったり、色んな賞もとった。
親からの言葉は、でも全国一位な訳じゃないんだからもっと高みを目指しなさい、だった。
中学に入学して初めての夏休み。
初めての彼女とお祭りデートをして帰路についた。
門限の20時前に帰ってきたのに、家の鍵は閉まっていた。窓も閉まっている。
ダメ元でインターフォンを押すと母親がドアチェーンを外さずに出てきた。
「こんな夜中まで何してたのよ」
「夜中じゃないよ、門限前でしょ?」
「もううちの子じゃありません」
そう冷たく言い放ち、再び鍵を閉められた。
俺の中の何かが、プツリときれた。
まだやっているホームセンターで、包丁を買った。
熱い鼓動が聞こえる。ドクンドクンと脈打つ感覚がある。
憎くて憎くて仕方がなかった。
いつかヤッてやろうと思っていたのだ。
そのいつかが、今日だっただけの話。
耳鳴りに似た熱い鼓動が、事を起こした後も脈打っていた。
【熱い鼓動】
リズミカルに大縄が回っている。
もう先に、何人かがこの大縄を走りすぎていった。
いざ、次は自分の順番。
タンッ、タンッ、と地面を打つ。
少しでも当たれば死んでしまうのでは、と痛みの恐怖と、なんでひっかかるんだよー、とクレームが飛んできそうな恐怖。
どうしてこんな肉体的にも精神的にも辛い競技があるのだろう?
今っ! 今っ! 分かってはいる、頭では理解できている。
「早くー! がんばれー!」
外野からの声も精神をえぐる。
自分のタイミングでやらせてください……!
【タイミング】
生まれた頃から一緒にいた、飼い犬が死んでしまった。
たくさん泣いて、声も枯れた。
もう17歳だから、寿命だね、と家族に言われたけれど、言われても受け入れられなかった。
本で昔、読んだことがある。
ペットは死んでしまうと、虹の橋を渡る、と。
虹の橋を私も渡りたい、そして、またあの子に会いたい。
虹のはじまりを探して、私は夏休みに旅に出た。
【虹のはじまりを探して】
朝は始発から、夜は終電まで。立派な社会の歯車として働いている俺。
そんな俺にも、オアシスがあった。
週に一回の休みである。
こんな腐りきった社会の中、なんとかやっていけているのは、このオアシスがあるからである。
「え、また退職……?」
「そうなんだよ、もう変わりに出勤できる人もいなくてね?」
「でも、俺、休み週一なので、ここ削られると休みなくなるんですけど……」
「うん、新しい人入るまでだからさ、もう君しか頼めないんだよ」
渇ききった砂漠の中に、唯一あった湖が、オアシスが今、干上がってしまった。
凄まじい陽に焼かれ、俺の体から水分が飛んでいった。
休み……俺のオアシスは、またいつか現れるだろうか。
【オアシス】