喜村

Open App
7/31/2025, 11:28:47 AM

 幸せそうな人を見ると、とても憎い。
他人の不幸は蜜の味、とはよく言ったものだ。
 自分より不幸の人を見ると、自分より下がいるとわかると、何故か安心してしまう。
 幸せそうな人は光輝いていて、眩しくて、目が潰れてしまいそうになる。

 そんな私は、いつの間にか、そっち側の人になっていた。

 トントン拍子で昇格して社長になり、美人なお嫁さんをもらって、元気な健康な子どもも生まれた。
 まさに幸せの絶頂期だ。
 自分が眩しくて、怖い。
 光の反対には闇がある。
その闇がいつ牙を向くのかが、私は怖い。
 そして過去の私のように、きっと眩しい私を見て、妬み憎しんでいる人が、きっとどこかにいるだろう。
 眩しくて、疲れた。


【眩しくて】

7/30/2025, 10:26:02 AM

 憎くて憎くて仕方がなかった。
 何をやっても、お前は無能だ、と何度も言われ続けていた俺。
 でも、俺の親は紛れもなくこのクソな両親しかいないのだ。
 振り返ってもらいたいから、いい点数をとったり、色んな賞もとった。
 親からの言葉は、でも全国一位な訳じゃないんだからもっと高みを目指しなさい、だった。

 中学に入学して初めての夏休み。
 初めての彼女とお祭りデートをして帰路についた。
 門限の20時前に帰ってきたのに、家の鍵は閉まっていた。窓も閉まっている。
 ダメ元でインターフォンを押すと母親がドアチェーンを外さずに出てきた。
「こんな夜中まで何してたのよ」
「夜中じゃないよ、門限前でしょ?」
「もううちの子じゃありません」
 そう冷たく言い放ち、再び鍵を閉められた。

 俺の中の何かが、プツリときれた。

 まだやっているホームセンターで、包丁を買った。
 熱い鼓動が聞こえる。ドクンドクンと脈打つ感覚がある。
 憎くて憎くて仕方がなかった。
 いつかヤッてやろうと思っていたのだ。

 そのいつかが、今日だっただけの話。

 耳鳴りに似た熱い鼓動が、事を起こした後も脈打っていた。


【熱い鼓動】

7/29/2025, 11:17:04 AM

 リズミカルに大縄が回っている。
 もう先に、何人かがこの大縄を走りすぎていった。
 いざ、次は自分の順番。
 タンッ、タンッ、と地面を打つ。
 少しでも当たれば死んでしまうのでは、と痛みの恐怖と、なんでひっかかるんだよー、とクレームが飛んできそうな恐怖。
 どうしてこんな肉体的にも精神的にも辛い競技があるのだろう?
 今っ! 今っ! 分かってはいる、頭では理解できている。

「早くー! がんばれー!」

 外野からの声も精神をえぐる。
 自分のタイミングでやらせてください……!


【タイミング】

7/28/2025, 10:14:38 AM

 生まれた頃から一緒にいた、飼い犬が死んでしまった。
 たくさん泣いて、声も枯れた。
 もう17歳だから、寿命だね、と家族に言われたけれど、言われても受け入れられなかった。

 本で昔、読んだことがある。
 ペットは死んでしまうと、虹の橋を渡る、と。

 虹の橋を私も渡りたい、そして、またあの子に会いたい。
 虹のはじまりを探して、私は夏休みに旅に出た。



【虹のはじまりを探して】

7/27/2025, 10:45:22 AM

 朝は始発から、夜は終電まで。立派な社会の歯車として働いている俺。
 そんな俺にも、オアシスがあった。
 週に一回の休みである。
こんな腐りきった社会の中、なんとかやっていけているのは、このオアシスがあるからである。

「え、また退職……?」
「そうなんだよ、もう変わりに出勤できる人もいなくてね?」
「でも、俺、休み週一なので、ここ削られると休みなくなるんですけど……」
「うん、新しい人入るまでだからさ、もう君しか頼めないんだよ」

 渇ききった砂漠の中に、唯一あった湖が、オアシスが今、干上がってしまった。
 凄まじい陽に焼かれ、俺の体から水分が飛んでいった。
 休み……俺のオアシスは、またいつか現れるだろうか。

【オアシス】

Next