カーテンから差し込む明かりで目が覚めた。目が覚めたのだが……
--目が重くて開かない
仕方がなく親指と人差し指で、無理やりまぶたを開いてやる。
そうだった、私、昨日泣きながら寝たんだった、と、昨夜のことを思い出した。
高校二年生の多感な時期、複雑な感情が入り交じって、毎晩のように泣いていた。
恋愛にバイトに進路に部活に友達関係……泣く要因は様々だったが、最近は泣き疲れて寝るのが普通になっていた。
昨日、目を冷やさずに寝ちゃったんだな、昨日の自分の失敗を悔いる。
涙が乾いた頬は若干痒かった。とりあえず、顔を洗って、通学時間まで目を冷やそう。
ギシリとベッドが軋んだ。枕には涙の跡が、乾いてもなお残っていた。
【涙の跡】
流行り病の時にマスクをしていた時期、給食の時にマスクを外し、初めて素顔を知った衝撃にそれは似ていた。
「……ほっそ!!!」
俺はこの春彼女ができた。
しかし、彼女のことは何も知っていなかったようだ。
本日は初デート。
今日の気温は30度を超えると天気予報で聞いていた。
「いつもは日焼けしたくないから、アームカバーとか上に羽織ったりするけど……日傘あるから暑いし半袖にしてみたんだ」
彼女は黒い日傘をさしたまま、笑いながらそう言った。
半袖から見える二の腕は、程よくぷにっとしているようだが、肘から指先にかけては、俺の手で掴めそうな程に細い。
こんなに細くて生きていけるのかと心配する程の衝撃であった。
「それよりデート、ちゃんとエスコートしてよね?」
半袖姿の彼女は、はにかみながら俺の横にピタリとくっついてきた。
彼女が近付いてきたからか、はたまた気温が高いからなのか、俺もなんだか暑くなってきた。
「俺も半袖なのに……あちぃなぁ、今日!」
「そうだねー。ほら、私の日傘に入って、相合傘しよう?」
「いや日傘で相合傘は狭いよ!」
「あはは、そっかー」
初々しいデートのスタートである。
【半袖】
飼い猫が、どこの馬の骨かも分からない猫との子を作ってしまったらしい。
部屋の隅で、明らかに飼い猫とは違う泣き声が、みゃーみゃーと鳴いている。
「いやいや……まじかよ……」
可愛いだけじゃ、複数猫は飼えない。
俺は段ボールに、いらないタオルケットとともに、生まれてすぐの目が開いていない子猫を詰め込んだ。
電柱の横に、封をしていないとカラスにつつかれてしまう。鳴き声で誰か気付いてくれるだろう。
子猫を入れた段ボールを俺は置いていった。
翌日、雨が降っていた。
気になってしまい、俺は置いていった場所へと、ふらっと立ち寄る。
段ボールはなくなっていた。
誰かが拾ってくれたのだろうか、それともゴミとして捨てられたのだろうか。
胸の奥が、少しズキンとする。
でも、情だけでは命を繋げることはできない……もしも過去へと行けるなら、捨てる以外の選択肢を見つけることができただろうか。
傘に叩きつける雨が、俺を責めるかのように強く降り続いていた。
【もしも過去へと行けるなら】
【またいつか】の前のお話
この指輪をはめてしまったら、私はもう後戻りができなくなってしまう。
別にあなたが嫌いな訳ではない、むしろ好きな部類なのだが。
こう考えてしまっている時点で、何かが私の中で引っ掛かっているのだと思う。
離婚するのも今の時代、当たり前のようになっているけれども。
True Love……真実の、真の愛は、どんどん失われていっているんだろうな。
私は純白のドレスに身を包み、あなたからの指輪を薬指にはめた。
【True Love】
手を引かれて家路を辿った夕暮れ時。
漫画とかでよく描かれるような、段ボールに入った子猫が電柱の横においてあった。
「あ! 猫だ!」
私が母親の手を払いのけて、可愛い可愛いと子猫を見ていたが、だめ、とまた手を繋がれる。
「猫飼おうよ! この子!」
「だめよ、またいつかね」
またいつか……いつかは飼ってくれるのだろうか?
私はその言葉を信じて、その場を後にした。
次の日は雨だった。
昨日いたはずの電柱の側には、もう何もなかった。段ボールも跡形もなかった。
またいつか……会えるかな?
【またいつか】