喜村

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7/27/2025, 6:39:34 AM

 カーテンから差し込む明かりで目が覚めた。目が覚めたのだが……
 
--目が重くて開かない

 仕方がなく親指と人差し指で、無理やりまぶたを開いてやる。
 そうだった、私、昨日泣きながら寝たんだった、と、昨夜のことを思い出した。

 高校二年生の多感な時期、複雑な感情が入り交じって、毎晩のように泣いていた。
恋愛にバイトに進路に部活に友達関係……泣く要因は様々だったが、最近は泣き疲れて寝るのが普通になっていた。
 昨日、目を冷やさずに寝ちゃったんだな、昨日の自分の失敗を悔いる。

 涙が乾いた頬は若干痒かった。とりあえず、顔を洗って、通学時間まで目を冷やそう。
 ギシリとベッドが軋んだ。枕には涙の跡が、乾いてもなお残っていた。



【涙の跡】

7/25/2025, 11:23:29 AM

 流行り病の時にマスクをしていた時期、給食の時にマスクを外し、初めて素顔を知った衝撃にそれは似ていた。
「……ほっそ!!!」
 俺はこの春彼女ができた。
しかし、彼女のことは何も知っていなかったようだ。
 本日は初デート。
 今日の気温は30度を超えると天気予報で聞いていた。
「いつもは日焼けしたくないから、アームカバーとか上に羽織ったりするけど……日傘あるから暑いし半袖にしてみたんだ」
 彼女は黒い日傘をさしたまま、笑いながらそう言った。
 半袖から見える二の腕は、程よくぷにっとしているようだが、肘から指先にかけては、俺の手で掴めそうな程に細い。
こんなに細くて生きていけるのかと心配する程の衝撃であった。
「それよりデート、ちゃんとエスコートしてよね?」
 半袖姿の彼女は、はにかみながら俺の横にピタリとくっついてきた。
 彼女が近付いてきたからか、はたまた気温が高いからなのか、俺もなんだか暑くなってきた。
「俺も半袖なのに……あちぃなぁ、今日!」
「そうだねー。ほら、私の日傘に入って、相合傘しよう?」
「いや日傘で相合傘は狭いよ!」
「あはは、そっかー」
 初々しいデートのスタートである。


【半袖】

7/24/2025, 10:15:44 AM

 飼い猫が、どこの馬の骨かも分からない猫との子を作ってしまったらしい。
 部屋の隅で、明らかに飼い猫とは違う泣き声が、みゃーみゃーと鳴いている。
「いやいや……まじかよ……」
 可愛いだけじゃ、複数猫は飼えない。
 俺は段ボールに、いらないタオルケットとともに、生まれてすぐの目が開いていない子猫を詰め込んだ。
 電柱の横に、封をしていないとカラスにつつかれてしまう。鳴き声で誰か気付いてくれるだろう。

 子猫を入れた段ボールを俺は置いていった。

 翌日、雨が降っていた。
 気になってしまい、俺は置いていった場所へと、ふらっと立ち寄る。
 段ボールはなくなっていた。
 誰かが拾ってくれたのだろうか、それともゴミとして捨てられたのだろうか。
 胸の奥が、少しズキンとする。
 でも、情だけでは命を繋げることはできない……もしも過去へと行けるなら、捨てる以外の選択肢を見つけることができただろうか。
 傘に叩きつける雨が、俺を責めるかのように強く降り続いていた。


【もしも過去へと行けるなら】

【またいつか】の前のお話

7/23/2025, 10:12:44 PM

 この指輪をはめてしまったら、私はもう後戻りができなくなってしまう。
 別にあなたが嫌いな訳ではない、むしろ好きな部類なのだが。
 こう考えてしまっている時点で、何かが私の中で引っ掛かっているのだと思う。
 離婚するのも今の時代、当たり前のようになっているけれども。
 True Love……真実の、真の愛は、どんどん失われていっているんだろうな。
 私は純白のドレスに身を包み、あなたからの指輪を薬指にはめた。



【True Love】

7/22/2025, 11:13:36 AM

 手を引かれて家路を辿った夕暮れ時。
 漫画とかでよく描かれるような、段ボールに入った子猫が電柱の横においてあった。
「あ! 猫だ!」
 私が母親の手を払いのけて、可愛い可愛いと子猫を見ていたが、だめ、とまた手を繋がれる。
「猫飼おうよ! この子!」
「だめよ、またいつかね」
 またいつか……いつかは飼ってくれるのだろうか?
 私はその言葉を信じて、その場を後にした。

 次の日は雨だった。
 昨日いたはずの電柱の側には、もう何もなかった。段ボールも跡形もなかった。
 またいつか……会えるかな?



【またいつか】

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