喜村

Open App

 飼い猫が、どこの馬の骨かも分からない猫との子を作ってしまったらしい。
 部屋の隅で、明らかに飼い猫とは違う泣き声が、みゃーみゃーと鳴いている。
「いやいや……まじかよ……」
 可愛いだけじゃ、複数猫は飼えない。
 俺は段ボールに、いらないタオルケットとともに、生まれてすぐの目が開いていない子猫を詰め込んだ。
 電柱の横に、封をしていないとカラスにつつかれてしまう。鳴き声で誰か気付いてくれるだろう。

 子猫を入れた段ボールを俺は置いていった。

 翌日、雨が降っていた。
 気になってしまい、俺は置いていった場所へと、ふらっと立ち寄る。
 段ボールはなくなっていた。
 誰かが拾ってくれたのだろうか、それともゴミとして捨てられたのだろうか。
 胸の奥が、少しズキンとする。
 でも、情だけでは命を繋げることはできない……もしも過去へと行けるなら、捨てる以外の選択肢を見つけることができただろうか。
 傘に叩きつける雨が、俺を責めるかのように強く降り続いていた。


【もしも過去へと行けるなら】

【またいつか】の前のお話

7/24/2025, 10:15:44 AM