喜村

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 憎くて憎くて仕方がなかった。
 何をやっても、お前は無能だ、と何度も言われ続けていた俺。
 でも、俺の親は紛れもなくこのクソな両親しかいないのだ。
 振り返ってもらいたいから、いい点数をとったり、色んな賞もとった。
 親からの言葉は、でも全国一位な訳じゃないんだからもっと高みを目指しなさい、だった。

 中学に入学して初めての夏休み。
 初めての彼女とお祭りデートをして帰路についた。
 門限の20時前に帰ってきたのに、家の鍵は閉まっていた。窓も閉まっている。
 ダメ元でインターフォンを押すと母親がドアチェーンを外さずに出てきた。
「こんな夜中まで何してたのよ」
「夜中じゃないよ、門限前でしょ?」
「もううちの子じゃありません」
 そう冷たく言い放ち、再び鍵を閉められた。

 俺の中の何かが、プツリときれた。

 まだやっているホームセンターで、包丁を買った。
 熱い鼓動が聞こえる。ドクンドクンと脈打つ感覚がある。
 憎くて憎くて仕方がなかった。
 いつかヤッてやろうと思っていたのだ。

 そのいつかが、今日だっただけの話。

 耳鳴りに似た熱い鼓動が、事を起こした後も脈打っていた。


【熱い鼓動】

7/30/2025, 10:26:02 AM