何を悩んでいるの。
悩むより行動したほうが楽でしょう?
そんな言葉を思い出して、俺は新たな人生をスタートさせようと決断した。
早朝5時の始発電車に乗り込む。
何度かの乗り換えの後、10時くらいに君の前に立つ。
梅雨時期の息苦しさがある空気だ。
「あれ、ハラダじゃん、どうしたの?」
あなたは俺の姿に気付いた。
上京した先輩、スーツ姿で会社の受付嬢をしている、優しくて美人な俺の先輩。
「来年、俺、学校卒業するから、結婚してください!」
間髪入れずに頭を下げる
「結婚の予約! 離れたくない!」
「え、仕事中にそれ言われてもなんだけど」
俺は頭を下げたままなので、あなたの表情はわからないが、声色だけは呆れたものだった。
しばらくの沈黙の後、下げた頭をあなたはポンポンと撫でる。
「悩んでたから行動してくれたのかな? 分かったよ」
それから俺の人生は、彩りのあるものとなったのは、言うまでもない。
あなたがいたから、今の幸せな俺があるのだ。
雨が上がった空気は、汚れがなく綺麗だった。
【あなたがいたから】
@ma_su0v0
雨の気配を感じて、ボクは家から出た。
ゆっくりゆっくりと、緑の大きな傘をさしたまま進む。
緑の大きな傘の中に、君は飛び込んできた。
君はケロケロとノドを鳴らす。
「こんにちは、カタツムリさん。少しだけ一緒に、この傘の中に入っていいかな?」
君はボクにそう問うた。
ボクは目をきょろきょろして答える。
「こんにちは、かえるさん。もちろんですよ、今日の雨は強いですからね。さぁ、もう少し中まで入ってください」
ボクは、緑の大きな傘の端へと移る。
梅雨だというのに強く降りしきる雨。
ボクと君は、しばらく緑の大きな傘で共にいた。
@ma_su0v0
【相合傘】
息苦しさで目が覚めた。
何やら身体は、じっとりと湿っている。そんなに私は汗をかいたのだろうか。
しかし、その異様なまでの暑さと呼吸のしづらさで、それではないと理解した。
アラームではない、けたたましい音も聞こえる。
--これは、火事ではないか!?
働かない頭でも、本能でそう理解できるくらいに、状況がいつもと違っていた。
ここは高層マンション。私の部屋は12階。
火元がどこかもわからないが、窓からは赤とオレンジと黄色の炎の色と真っ黒な煙が目視できた。
意を決して窓を開ける。窓ガラスは素手で触れたものではなく、カーテンと共にあけた。
熱い。ただただ、熱い。
息を吸うだけで肺が焼かれているのではないかと思う程に。
このままでは、すぐにこの部屋も燃えてしまうだろう。
--逃げなければ……!!
そう考えてからは早かった。
何も考えてはいなかった。
ここは、12階だが、死ぬ高さではないと錯覚していた。
涼しい。
熱さからの解放は、これほどまでも清々しいのか。
助かった、これで焼け死ぬことはないだろう。
私は、ただただ下へと落下した。
下へと辿り着く前に、私はまた意識を失った。
@ma_su0v0
【落下】
笑ってやがる、なんで、笑ってるんだ。
目の前には、大きな姿見が一つ。
同じ服装で同じ体勢のをしている自分がいる。
しかし、一つだけ違うこと。
鏡の中の自分は、皮肉そうに笑っている。
嘲笑っているかのように。
そんな顔でみるんじゃねぇ。
俺は、思い切り鏡を殴ったが、割れることもなく、同じように拳を突き出している、笑った自分がいるだけだった。
いや、自分が笑っている自覚がないだけで、他の人には、俺が笑っているように見えているのか……?
俺は、ゆっくりと拳を戻す。
自分にはわからない自分。鏡の中の自分。
これが他人に見られている俺なのか。
俺は、鏡の中の自分のように、自分自身を嘲笑ってやった。
【鏡の中の自分】
眠りにつく前に、母は私に本を読み聞かせてくれた。
時には昔話、時には世界の童話、時には今話題の新作の本。
でも、いつしか、小学生になる前くらいに、その日課の眠りにつく前の読み聞かせがなくなった。
あれから、20年。
秋の夜は長い。
眠れないなぁ……
私は、いつもは携帯電話を手に、ベッドの中に入るが、読書の秋とも言うし、と、紙の本を持ち出し、ベッドに入る。
本には色んな世界がある。
小さい頃、眠りにつく前にやっていたことを久々にやってみる。
さすがに声に出して読み上げるのは恥ずかしいが、それ以外はあの時と同じ。
秋の夜は、静かに更けていった。
【眠りにつく前に】