喜村

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6/21/2024, 12:48:00 AM

 何を悩んでいるの。
悩むより行動したほうが楽でしょう?

 そんな言葉を思い出して、俺は新たな人生をスタートさせようと決断した。

 早朝5時の始発電車に乗り込む。
 何度かの乗り換えの後、10時くらいに君の前に立つ。
 梅雨時期の息苦しさがある空気だ。

「あれ、ハラダじゃん、どうしたの?」

 あなたは俺の姿に気付いた。
 上京した先輩、スーツ姿で会社の受付嬢をしている、優しくて美人な俺の先輩。

「来年、俺、学校卒業するから、結婚してください!」
間髪入れずに頭を下げる
「結婚の予約! 離れたくない!」
「え、仕事中にそれ言われてもなんだけど」

 俺は頭を下げたままなので、あなたの表情はわからないが、声色だけは呆れたものだった。
 しばらくの沈黙の後、下げた頭をあなたはポンポンと撫でる。

「悩んでたから行動してくれたのかな? 分かったよ」

 それから俺の人生は、彩りのあるものとなったのは、言うまでもない。
 あなたがいたから、今の幸せな俺があるのだ。
 雨が上がった空気は、汚れがなく綺麗だった。



【あなたがいたから】

@ma_su0v0

6/19/2024, 11:56:21 AM

 雨の気配を感じて、ボクは家から出た。
 ゆっくりゆっくりと、緑の大きな傘をさしたまま進む。
 緑の大きな傘の中に、君は飛び込んできた。
 君はケロケロとノドを鳴らす。

「こんにちは、カタツムリさん。少しだけ一緒に、この傘の中に入っていいかな?」

 君はボクにそう問うた。
 ボクは目をきょろきょろして答える。

「こんにちは、かえるさん。もちろんですよ、今日の雨は強いですからね。さぁ、もう少し中まで入ってください」

 ボクは、緑の大きな傘の端へと移る。
 梅雨だというのに強く降りしきる雨。
 ボクと君は、しばらく緑の大きな傘で共にいた。

@ma_su0v0


【相合傘】

6/19/2024, 9:00:49 AM

 息苦しさで目が覚めた。
 何やら身体は、じっとりと湿っている。そんなに私は汗をかいたのだろうか。
 しかし、その異様なまでの暑さと呼吸のしづらさで、それではないと理解した。
 アラームではない、けたたましい音も聞こえる。

--これは、火事ではないか!?

 働かない頭でも、本能でそう理解できるくらいに、状況がいつもと違っていた。
 ここは高層マンション。私の部屋は12階。
 火元がどこかもわからないが、窓からは赤とオレンジと黄色の炎の色と真っ黒な煙が目視できた。
 意を決して窓を開ける。窓ガラスは素手で触れたものではなく、カーテンと共にあけた。

 熱い。ただただ、熱い。
 息を吸うだけで肺が焼かれているのではないかと思う程に。
 このままでは、すぐにこの部屋も燃えてしまうだろう。

--逃げなければ……!!

 そう考えてからは早かった。
 何も考えてはいなかった。
 ここは、12階だが、死ぬ高さではないと錯覚していた。

 涼しい。
 熱さからの解放は、これほどまでも清々しいのか。
 助かった、これで焼け死ぬことはないだろう。
 私は、ただただ下へと落下した。
 下へと辿り着く前に、私はまた意識を失った。

@ma_su0v0





【落下】

11/4/2023, 3:51:02 AM

 笑ってやがる、なんで、笑ってるんだ。

 目の前には、大きな姿見が一つ。
同じ服装で同じ体勢のをしている自分がいる。
 しかし、一つだけ違うこと。
 鏡の中の自分は、皮肉そうに笑っている。
嘲笑っているかのように。

 そんな顔でみるんじゃねぇ。

 俺は、思い切り鏡を殴ったが、割れることもなく、同じように拳を突き出している、笑った自分がいるだけだった。

 いや、自分が笑っている自覚がないだけで、他の人には、俺が笑っているように見えているのか……?

 俺は、ゆっくりと拳を戻す。
 自分にはわからない自分。鏡の中の自分。
 これが他人に見られている俺なのか。
 俺は、鏡の中の自分のように、自分自身を嘲笑ってやった。

【鏡の中の自分】

11/2/2023, 6:42:27 PM

 眠りにつく前に、母は私に本を読み聞かせてくれた。
時には昔話、時には世界の童話、時には今話題の新作の本。
 でも、いつしか、小学生になる前くらいに、その日課の眠りにつく前の読み聞かせがなくなった。

 あれから、20年。
 秋の夜は長い。

 眠れないなぁ……

 私は、いつもは携帯電話を手に、ベッドの中に入るが、読書の秋とも言うし、と、紙の本を持ち出し、ベッドに入る。
 本には色んな世界がある。
 小さい頃、眠りにつく前にやっていたことを久々にやってみる。
さすがに声に出して読み上げるのは恥ずかしいが、それ以外はあの時と同じ。

 秋の夜は、静かに更けていった。

【眠りにつく前に】

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