『時刻は深夜0時をまわりました。ミッドナイトラジオのお時間です』
どうやら俺は寝落ちしていたようだ。
寝落ち、というよりも、職場から自宅に帰る道中に、猛烈に眠くなり、コンビニの端の駐車場に車を停めて、現在にいたる。
仕事は22時に終わったから--
「やべ、2時間くらい寝てた!?」
車のラジオから聞こえた時間にハッとする。
いつもなら家でご飯やお風呂を済ませる時間なので、このラジオ番組は初見である。
ラジオでは雑談や音楽を流す程度のものだったので、聞きながら俺は車を走らせた。
『そういえば、そろそろ七夕ですね、おり姫様と彦星様は、今年は無事に会えますかね』
俺は車を運転しながら、夜空を見る。
そこには、満点の星空が広がっていた。
こういう時、田舎に住んでて得したなぁ、と、思う。
『まだ梅雨はあけてませんが、年に一度会える行事、会えてるといいですね』
うんうん、と相づちをうちながら運転している俺。いつの間にか放送に相づちを打つおじさんになってしまったようだ。
それに、この星空も、若い時はただ綺麗だなぁ、と思っただけだったが、なんだか感傷に浸るくらいに年を取ってしまっていた。
大きな天の川と共に、俺は帰路に着いた。
【星空】
※【真夜中】や【ミッドナイト】のお題の時系列
辺りは木が鬱蒼と繁っている。足元の地面はぬかるんでいる。
困った、完全に遭難した。
こう行けば正規ルートに戻れるだろう、と、勘で行動していたら、もう元には戻れない場所に来てしまった。
引き返そうにも、数分前にどこを歩いていたか思い出せない。なんといっても、みる限り似たり寄ったりの木しかないのだ。
諦めて、斜面が下に向かっている場所を選び、ずっとあるか続けていると、ようやく人工物を見つけた。
吊り橋である。それも、かなりぼろぼろの漫画やアニメで出てくるような、木と縄で作られた壊れそうな吊り橋である。
吊り橋の下は、もちろん崖。それもかなりの高さである。
この吊り橋のその先にある道は、果たして人がいるのだろうか。
人がいるという保証があるなら、勇気を出して進もうと思えるものだが……。
他に道はないかと見るも、また獣道を探るしかない。
この道の先に、幸あれ--!
俺は突き進んだ。
【この道の先に】
春の日差しは穏やかで、夏の日差しは狂気に満ち溢れていて、秋の日差しは彩ってくれて、冬の日差しは温もりをより感じた。
四季折々の日差しで、でも日差し自体はなんら変わっていないはずなのに。
その時の感情や、気温や、風景で、人は日差しを感じ取っていた。
あなたの場所には、日差しは届いていますか?
それは温かいですか? それは痛いですか?
私に取って、日差しは恐怖でしかありません。
私はアルビノ。元より色が白いのです。
少しの日差しで、私の皮膚はただれてしまいます。日焼けではありません、重度の火傷になるのです。
みんなの言う、穏やかで温かな日差しを私も拝んでみたいものです。
【日差し】
蒸された空気で窓ガラスは結露していた。
今日も雨かとうんざりする。
素手で雑にその水滴を拭いてみる。
見慣れたいつものうちの庭。
……ではなかった。
「なに……!?」
思わず濡れることも構わず、服の袖でゴシゴシと窓を拭いてみる。
違う、うちの庭がそこにはなかった。
窓越しに見えるものは、炎。
雨のはずなのに、火の手が見えた。
火災? 近所で? いや、そういう炎ではない。
炎だけではなかったのだ、窓からみえたものは。
--ドラゴンがいたのだ。
「……うそ」
【窓越しに見えるものは】
私はあなたが大好き、見つけるとすぐに食いついちゃう。
目の前にいなくても、微かな音であなたの居場所もわかっちゃうんだ。
あ、今、その草陰に隠れたでしょう?
私はあなたが隠れた草陰に飛び付く。
ほーら、捕まえた。
羽をバタバタさせて、必死に私から逃げようとする。
そんなに暴れて、可愛いわね。
逃げられないのが分からないのかしら?
私とあなたは、赤い糸で繋がれているのよ。
羽をむしって、喉元に歯を食い込ませる。
赤い糸が赤い水溜まりに変わる。
やっと大人しくなったわね。
私は棲みかに持ち帰る。
ごめんなさい、赤い糸で結ばれていたのは、あなただけじゃなかったみたい。
私は電線に並んでいるあなたのお仲間を見て、にやりとした。
私には、電線から赤い糸が何本も垂れ下がってみえた。
【赤い糸】