人は俺の姿を見るとこういう。
「夏の空だねぇ」
と。
そんな悠長なことを言っていていいのかな?
今からこの場に、俺は大嵐をもたらそう。
大人達は、しみじみと夏の空とは言うものの、俺の正体を知っているので、そそくさと洗濯物を取り込んだり、建物の中へと入っていく。
子ども達は、俺のことを知らないらしく、そのまま外遊びを続けていた。
今までからっと晴れていて、夏空が広がっていたと思いきや、突然辺りが薄暗くなる。
そして、大雨と雷を轟かせた。
子どもが泣きながら家へと散り散りとなる。
今の大人達は、子ども達に伝えていないのだろうか?
俺の姿を、入道雲を見つけたら、雷を伴った雨が降る、ということを。
【入道雲】
まだ梅雨は明けていないが、そろそろ夏がやってくる。しかし、その夏の前には、梅雨の他にも試練があるものであって。
「こら、ちゃんとテスト勉強やってるの? シュウト」
雨が降ってる中、どこにもでかけられず、俺は彼女のモモカと勉強をしていた。
ペン先でプツリと頬をつつかれる。痛い。その反動で、頬杖をつきながら窓の外を見ていた俺は、姿勢を正した。
「テスト良い点数とって、なんの役に将来たつんだよー」
俺はやる気なさげに、教科書やノート、プリントに目をやる。
「将来役にたたなくても、雑学として覚えておいて損はないでしょ、テレビ見る時楽しくなるよ?」
「えー、そんなの良いことでもないよー」
「良いことがあれば、頑張れるの?」
モモカはペンを走らせながら俺に問う。
「見返りがあれば皆がんばるでしょ! だから俺は働いたらお金が貰える就活組なのだ!」
俺はガッツポーズをしてみせる。その姿にモモカは苦笑いをした。そして、彼女はこう提案をする。
「じゃあ、テスト一つにつき80点以上とったら、夏休み中に一回デートしようよ、で、全部の平均点数90点以上とれたら、夏休みにお泊まりデート!」
「お泊まり!?」
俺の声が静かな図書室に響く。恥ずかしい。
「でも、一個も80点とれなかったら、夏休みの間デート禁止」
「えぇぇぇ」
高校三年の最後の夏。せっかく彼女がいるのに、デート禁止は辛い。友達と過ごす夏もいいが、海に祭りにプールに彼女と過ごすと充実するイベントが盛りだくさんなのに……!!
「俺、頑張る」
彼女は、チラッとみて俺に笑みを浮かべる。
「まぁ、天才の私もこの勝負に参加するから、お泊まりデート一回は確約だね? これは対戦じゃなくて協力戦だから、がんばってよ?」
「おぉぉぉ!」
図書室の窓際の席で、俺は一人震えていた。
楽しいものの前には試練がある。夏の前には梅雨があって、夏休みの前にはテストがある。
俺の夏は明るいものだと信じ、テストに挑むのであった。
【夏】
まだ梅雨が明けていなく、湿度が高い夜のことだった。
君と最後にあった日も、こんな時期で、雨は降っていないけれども、じとじとした湿気の高い中を歩いていた。
寒くもないけど手を繋いで、今日が本当に最後だなんて思わずに、二人仲良く歩いていた。
「1ヶ月だけ研修に行くだけなんだから、そんな心配しないでよ」
君は、はにかみながらそう言う。
専門学校の研修で、1ヶ月程違う県に行ってしまうらしい。
たかが1ヶ月、されど1ヶ月である。
「……明日から会えないの寂しい」
「こういう時にツンデレなんだから」
君は手を繋いだまま、優しく頭を撫でてくれた。背伸びしてとても撫でづらそうだった。
「だから行く前に夜だけどお散歩デートしたいって言ったのねー」
君は小さく、まったくもう、と呟いた。
「とりあえず、手紙は書くから」
「うん」
湿気のせいもあるが、手がじとっとしているにも限らずに、君は強く手を握りしめてくれた。
あれから20年、まだ君は帰って来ない。
君と最後にあった日から、20年である。
湿気の高いこの梅雨の時期に夜の散歩をすると、君と最後にあった日を、最後のデートを俺は思い出す。
蛙が嘲笑うかのように、げこげことないていた。
【君と最後にあった日】
花を育てる時、みんなはどうしてる?
時間帯関係なく水をあげている?
逆に常に水をあげている?
日差しの強い日光に常にあててる?
逆に室内でカーテンも閉めっぱなしにしてる?
花だって生き物で、ただ声があげれないだけ。
本当は今は水はいらない、って根腐れしてない?
本当はもっと水がほしい、って萎れてない?
実は花だって訴えているんだよ。
僕の好きな花は、去年咲かなかった。
こんなに愛を注いでいたのに、なんでだろう。
与えすぎるのもよくないらしい。
僕の好きな花は、今年は綺麗に咲いた。
色んな情報を見て、駆使してみた成果だろう。
繊細な花は、適当では咲かないらしい。
僕の好きな花は、来年も咲いてくれるかな。
【繊細な花】
好きなものをレジに持っていって買い物をする大人達。
子どもの頃は、それが羨ましくて仕方がなかった。
親がだめだと言えば、自分の好きなものが買えなくて。
早く大人になって、好きなものを買いたいと思った。
漫画におもちゃにお菓子にゲーム。ほしいしやりたいことはたくさんあったのに、お金がないから、すぐ使わなくなるから、と、全然買ってもらえなかったあの頃。
それに引き換え、お母さんは使いもしないダイエットの機械とか買ってるじゃん、お父さんはめちゃくちゃ高い車を数年おきに買い換えてるじゃん。
子どもの頃は、とにかく大人達だけずるいと思った。
今、自分が大人になってみると、物価が高くなって、カップラーメンや自動販売機が段々と高価になってきた。
毎日の生活のための電気代だって値上がりしていく一方だし、あの頃と同じで、やっぱり大人になっても、好きなものを買うことなんてできない毎日。
逆に、子どもの頃は気にしていなかった家賃や携帯料金まで気になるようになって。
あの時は娯楽の好きなものを我慢するだけでよかったのに、今ではそれにプラスして食費まで我慢しなくちゃいけなくなっている。
子どもの頃は何も考えないで暮らしていたのに、大人になると大変なんだなぁ、と、家計簿を見つめて私は思った。
【子供の頃は】