喜村

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 まだ梅雨が明けていなく、湿度が高い夜のことだった。
 君と最後にあった日も、こんな時期で、雨は降っていないけれども、じとじとした湿気の高い中を歩いていた。
 寒くもないけど手を繋いで、今日が本当に最後だなんて思わずに、二人仲良く歩いていた。
「1ヶ月だけ研修に行くだけなんだから、そんな心配しないでよ」
 君は、はにかみながらそう言う。
専門学校の研修で、1ヶ月程違う県に行ってしまうらしい。
 たかが1ヶ月、されど1ヶ月である。
「……明日から会えないの寂しい」
「こういう時にツンデレなんだから」
 君は手を繋いだまま、優しく頭を撫でてくれた。背伸びしてとても撫でづらそうだった。
「だから行く前に夜だけどお散歩デートしたいって言ったのねー」
 君は小さく、まったくもう、と呟いた。
「とりあえず、手紙は書くから」
「うん」
 湿気のせいもあるが、手がじとっとしているにも限らずに、君は強く手を握りしめてくれた。

 あれから20年、まだ君は帰って来ない。
君と最後にあった日から、20年である。
 湿気の高いこの梅雨の時期に夜の散歩をすると、君と最後にあった日を、最後のデートを俺は思い出す。
 蛙が嘲笑うかのように、げこげことないていた。


【君と最後にあった日】

6/26/2023, 11:09:45 AM