まだ梅雨は明けていないが、そろそろ夏がやってくる。しかし、その夏の前には、梅雨の他にも試練があるものであって。
「こら、ちゃんとテスト勉強やってるの? シュウト」
雨が降ってる中、どこにもでかけられず、俺は彼女のモモカと勉強をしていた。
ペン先でプツリと頬をつつかれる。痛い。その反動で、頬杖をつきながら窓の外を見ていた俺は、姿勢を正した。
「テスト良い点数とって、なんの役に将来たつんだよー」
俺はやる気なさげに、教科書やノート、プリントに目をやる。
「将来役にたたなくても、雑学として覚えておいて損はないでしょ、テレビ見る時楽しくなるよ?」
「えー、そんなの良いことでもないよー」
「良いことがあれば、頑張れるの?」
モモカはペンを走らせながら俺に問う。
「見返りがあれば皆がんばるでしょ! だから俺は働いたらお金が貰える就活組なのだ!」
俺はガッツポーズをしてみせる。その姿にモモカは苦笑いをした。そして、彼女はこう提案をする。
「じゃあ、テスト一つにつき80点以上とったら、夏休み中に一回デートしようよ、で、全部の平均点数90点以上とれたら、夏休みにお泊まりデート!」
「お泊まり!?」
俺の声が静かな図書室に響く。恥ずかしい。
「でも、一個も80点とれなかったら、夏休みの間デート禁止」
「えぇぇぇ」
高校三年の最後の夏。せっかく彼女がいるのに、デート禁止は辛い。友達と過ごす夏もいいが、海に祭りにプールに彼女と過ごすと充実するイベントが盛りだくさんなのに……!!
「俺、頑張る」
彼女は、チラッとみて俺に笑みを浮かべる。
「まぁ、天才の私もこの勝負に参加するから、お泊まりデート一回は確約だね? これは対戦じゃなくて協力戦だから、がんばってよ?」
「おぉぉぉ!」
図書室の窓際の席で、俺は一人震えていた。
楽しいものの前には試練がある。夏の前には梅雨があって、夏休みの前にはテストがある。
俺の夏は明るいものだと信じ、テストに挑むのであった。
【夏】
6/28/2023, 10:25:39 AM