喜村

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5/31/2023, 11:12:51 AM

 カフェで二人きり、50歳も半ばになり、初めてマッチングアプリなるものを始めた。
 今日はそこで知り合った女性と初めて対面出会うことに。
 ダメ元で行ったら、カフェの前にプロフィール画像と同じ人物がいた。本当にいた。
何がそんなに驚きかというと、年齢が30個も違うからだ。
 短くかった茶髪の髪型はスポーティーさがある。しかし服装はパステルカラーで女の子らしさがあった。
 軽く挨拶をし、カフェへと入る。
 アプリで何度かやり取りをしているはずだが、やはり対面だと物腰柔らかとはいかない。
 何か話題を、と考えても、出てきたものは
「今日は暑いですね~」
 違う、そうじゃない。
「もう明日から六月ですからね、台風も近づいてますし」
 彼女から返答はあるが、違うのだ。
「そろそろ梅雨にも入りますね~湿気多いの嫌だなぁ」
 だから、そうじゃない。天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、
「あの、オオキさん、どうして、私と会ってくれたんですか?」
 まさか、彼女の方から先陣を切ってくれた。笑えてしまった。
 そう、天気の話じゃなくて、僕の思っていたことはそれなのだ。若いのに、きちんと意見も言える子らしい。
 なんだか緊張がとけ、僕は彼女の問いに答えるのであった。



【天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、】

5/30/2023, 11:23:30 AM

 目が覚めると、辺りは真っ暗だった。
真っ暗、というより、真っ黒だった。
自分の手を顔の前に当ててみても、手がそこにあると感じるだけで、見えはしない程の暗さ、黒さ。
 ここはどこで、自分が何をしていたのかを思い出そうとするが、すっぽり記憶が抜け落ちている。

 とりあえず、光を探したい。
障害物はないか、と、しゃがんだ格好で、床に手をあてて進もうとするが……
--指先に、何やらヌルリとした感覚がある。
温かさは微かに感じる程度で、粘度的に水ではないのもわかる。
 一体これは何か、と、考えるのも束の間、人ならざる者の咆哮が辺りに轟く。
とても近い。腹に響く太鼓のような衝撃波があった。

 しゃがんだまま辺りを気にして逃げていては、ひとたまりもないことくらいはわかる。
 私は立ち上がった。そして、走る。
目的地はわからない、そもそも真っ直ぐ進めているかもわからない。
 咆哮の主に襲われんと、ただ、必死に走る私。
きっと先程のヌメリ気のある液体は食われた物の体液だろう。襲った物も襲われた物も何かかはわからない。でも、本能が逃げろと、走れと命じている。
 何かから逃げるように、と。



【ただ、必死に走る私。何かから逃げるように】

5/29/2023, 10:18:45 AM

 初めて会った時は「可愛い」と言って、すぐに僕を拾ってくれたね。
汚い身体なのに、躊躇いなく拾い上げてくれた。
 目やにがついていて、よく見えないけれど、震える身体に温かな温もりを感じた。

 家に着いたらしいけれど、とんでもなく怒られているのはわかる。
「汚い!」「戻してきなさい!」「うちでは飼えないわよ!」
 拾い上げてくれたその腕は、小さく震えていた。

 しばらくすると、たぶん、さっきまでいた場所に戻ってきたらしい。
「……ごめんね」
 温もりが離れていった。
置いていかないで、と必死に鳴いた。
「ごめんね……!」
 優しく頭を撫でてくれる。
ずっと撫でてほしいよ。いかないでよ。
『みゃー……』
 元気な声が出ない、これが精一杯のお願い。
「ごめんね、ごめんね……」
 声の主はそれだけ何度も呟いて、頭を撫でることをやめた。
 かわりに、温かい雨が数滴ポタポタとふってきた。温かいと感じたのは、自分の身体が冷えていたからだろうか。
 数滴で雨は止み、ごめんねも止まった。
 もう鳴く力もなくなった。声の主はどんな人だったんだろうな。
 しばらくすると、冷たい雨がザアザアと降って、身体を更に冷たくした。


【ごめんね】

5/28/2023, 10:08:22 AM

 私は彼氏に隠していることがある。
学生時代から自傷癖があるのだ。
 だから、夏は嫌いだ。
冬は萌え袖とかにして隠せるが、半袖にならざるを得ない時期は、本当に嫌いだ。

 本日は大好きな彼氏とのデート。
しかし最高気温が今日は三十度を越えるらしい。
まだ五月だというのに。
 私は気温よりも傷を隠すことを優先し、下半身は露出度高めだが、上は長袖である。
「暑くない?」
 彼氏は問う。
「ううん、私、寒がりだからちょうどいいの」
 嘘。本当はめちゃくちゃ暑い。
これがどこまで隠し通せるかわからないけれども。
 いつか半袖を来て、傷を見せても、それを全て受け入れてくれる人が現れてくれるといいな。
 付き合ってすぐには、さすがに見せられないよ。知ってほしいけど、嫌われたくないよ。
 汗で傷口が痒くなった。


【半袖】

5/27/2023, 10:42:07 AM

 暑い。ここは灼熱地獄だろうか。
汗が吹き出る。いち早くこの場所から出たい所だが、まだその時ではない。
 しばらくすると、どこからともなく熱風が吹き荒れる。
痛い。暑い。何故熱風が。どんどん息もしにくくなってきた。
 死ぬかもしれない、いや、死んでしまってここは地獄なのかもしれない。

 もうだめだ。

 俺は部屋から出た。
すぐさま頭から水をかぶりたいのを我慢し、一度掛け湯をして汗を流し、水風呂に浸かる。
 まだ天国には程遠い。
 それから野外のイスに座り、目をつむる。
ようやく、天国にたどり着いたようだ。

 そう、ここはサウナ。
何度もの天国と地獄を繰り返し、見えてくるのがこのととのいである。
こんな手軽に天国と地獄両方を味わえるのは、サウナだけではなかろうか。


【天国と地獄】

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