喜村

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 目が覚めると、辺りは真っ暗だった。
真っ暗、というより、真っ黒だった。
自分の手を顔の前に当ててみても、手がそこにあると感じるだけで、見えはしない程の暗さ、黒さ。
 ここはどこで、自分が何をしていたのかを思い出そうとするが、すっぽり記憶が抜け落ちている。

 とりあえず、光を探したい。
障害物はないか、と、しゃがんだ格好で、床に手をあてて進もうとするが……
--指先に、何やらヌルリとした感覚がある。
温かさは微かに感じる程度で、粘度的に水ではないのもわかる。
 一体これは何か、と、考えるのも束の間、人ならざる者の咆哮が辺りに轟く。
とても近い。腹に響く太鼓のような衝撃波があった。

 しゃがんだまま辺りを気にして逃げていては、ひとたまりもないことくらいはわかる。
 私は立ち上がった。そして、走る。
目的地はわからない、そもそも真っ直ぐ進めているかもわからない。
 咆哮の主に襲われんと、ただ、必死に走る私。
きっと先程のヌメリ気のある液体は食われた物の体液だろう。襲った物も襲われた物も何かかはわからない。でも、本能が逃げろと、走れと命じている。
 何かから逃げるように、と。



【ただ、必死に走る私。何かから逃げるように】

5/30/2023, 11:23:30 AM