満点の星空の中、俺は田舎道を徘徊していた。
五月下旬、寒くも暑くもないこの気候、夜の散歩にはうってつけだ。
強いていえば、田舎すぎる故の、蛙の大合唱が少々鬱陶しいくらいだが、まぁ、それも風情と捉えておこう。
スマホはいじらず、目的地もなく、ただなんとなくの夜の散歩。
たまに夜空を見上げると、小さな星々が瞬いている。
街灯は少なく、街灯よりも自販機の方が多くて明るい。
小さい星も霞んで見えるのは、大きな月の周り。
星に願いをと人はいうけど、こっちの方が願い叶いそうじゃね?、と俺は思う。
流れ星を探すより、こっちのエネルギッシュの月に願いをしようか。
女の人は月からパワーを奪われるというけど、俺は足を止める。
「明日のアルバイトの面接、合格しますように」
さて、そろそろ帰るか。
俺はまた歩を進めた。
蛙はまだゲコゲコと大合唱をして、俺を見送ってくれた。
【月に願いを】
私の主は、創作家である。
特に、恋愛小説を書いている。
私は、今、主の書いている小説のヒロイン。
ようやく、主人公の男の子との喧嘩は、私から謝って仲直りをしたのだが、今、新たな章へと突入した。
辺りは大雨で、息がしにくいくらいだ。圧迫感のある雨。
私は自室でその雨を眺めていた。雨を眺めて早二週間となる。
そう、作者の主は、また私達をおいて小説を書く手を止めたのである。
どうせなら、仲直りした段階でハッピーエンドでよかったじゃないか。
雨が降っていて、しかもどしゃ降りで、これは絶対に、また新たな試練が始まるやつではないか。その書き始めだけ記して、消えてしまった主。
主がまたこの物語を書き続けなければ、私はこの雨を永遠と眺めていなければいけない。
いつまでも降り止まない、雨。
この物語が進んだ時、雨は止むのか、雷がなり始めるか。
物語の続きを私はここで待ってます。
【いつまでも降り止まない、雨】
※【終わらせないで】の続き(11/29のお題の続き)
冷たい雨が降る昼下がり、私はお母さんとはぐれた。兄弟ともはぐれた。
生まれてまだ一月くらい。まだ乳離れもしていないのに、私はひとりぼっちになってしまった。
絶望しかない。絶望でしかない。
出る限りの声でお母さんを呼んだけれども、返事はない。雨音にかき消されてしまう。
だんだん雨に濡れて身体も冷えてきた。ぶるぶるがたがた震えてくる。
気づいた時は昼下がりだったはずなのに、辺りがどんどん薄暗くなってきた。
あぁ、しぬんだ。
寒さに暗さにひもじさに。不安しかなかった。
人生終わったと悟った。
もう起きてられなくなった、声もでなくなった、歩く力なんてとうになかった。
あの不安だった私へ、寝たらしぬと思っていたよね。
でも、大丈夫。私は今生きてるよ。
可愛い首輪をつけてもらって、鈴の音色も聞こえるんだ。
寝ても大丈夫、お母さんはいないけど、新しいお母さんができた。優しいお母さんなんだよ。
「にゃーお」
私は大きな声でないた。
あの頃かき消された雨音よりも、強くお母さんを呼べるようになった。
【あの頃の不安だった私へ】
ここは空気の綺麗な片田舎。
都会の雑踏、騒音、汚いスモック、ばかでかい建物、明るすぎる電気の光る街、そんな呪縛から解放されたく、仕事も家族も捨てて、ここにきた。
見上げるほど高い建物はなく、燃費の悪そうな車がたまに通るくらいでうるささは皆無。夜空なんかは辺りが暗いからか、星の輝きの方が家の明かりよりも多く眩しかった。
ずいぶんと遠くまできてしまったが、友達や親との連絡のためにも、スマホ所持していた。
田舎の娯楽は少ない。カラオケもゲーセンもコンビニさえもない。そのため、早く寝るかスマホをいじるしかないのだ。
ネットを開くと、新しい映画情報やら、話題のスイーツやら、新作メニューなんかが飛び交っている。
都会に住んでいたら、全部見たり買ったり網羅できていたけれど、ここに住んでからというもの、全部スルー案件である。
SNSを開けば、その新作やブームに乗った投稿を目にする……自分が惨めになってきた。
田舎にきての利点は、都会の呪縛から逃れたかったから、なのに……
翌年、都会に出てきた俺。
田舎も都会も経験したが、一度楽を覚えてしまった人間はだめだな。
都会の呪縛からは逃れられないようだ。
【逃れられない呪縛】
明日なんてこなければいいのに。
隣ですやすや眠っている彼女を見て、俺は思った。
明日になれば、彼女は家へと帰ってしまう。
長く伸びた前髪を掻き分けて、可愛い寝顔を拝ませてもらった。
昨日はいろんな所にデートに行ったね。
やっぱり、動物園からの映画館のレイトショーはハードだったね。
でも、予定を詰め込まなければいけない理由がある。
遠距離恋愛なのだ。だから、会っている今日にたくさんの予定を詰め込まなければならなかった。
彼女は楽しくすごせただろうか。
今日が昨日になって、明日が今日になった。
まだ今日は始まったばかりなので、今すぐ帰る訳ではないけれど。
「もっと一緒にいたいなぁ……」
ぽつりと呟く。
「次はいつ会えるかな」
いつもは強気の俺だが、今日はやけに弱気になっていた。
楽しかった昨日へのさよなら、新しい日との出会い。でも、明日がずっと続けば、また彼女とデートできる。
ずーっと見ていたいけれど、俺も目を閉じた。
【昨日へのさよなら、明日との出会い】