喜村

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 冷たい雨が降る昼下がり、私はお母さんとはぐれた。兄弟ともはぐれた。
 生まれてまだ一月くらい。まだ乳離れもしていないのに、私はひとりぼっちになってしまった。
 絶望しかない。絶望でしかない。
 出る限りの声でお母さんを呼んだけれども、返事はない。雨音にかき消されてしまう。
 だんだん雨に濡れて身体も冷えてきた。ぶるぶるがたがた震えてくる。
 気づいた時は昼下がりだったはずなのに、辺りがどんどん薄暗くなってきた。

 あぁ、しぬんだ。

 寒さに暗さにひもじさに。不安しかなかった。
人生終わったと悟った。
 もう起きてられなくなった、声もでなくなった、歩く力なんてとうになかった。

 あの不安だった私へ、寝たらしぬと思っていたよね。
 でも、大丈夫。私は今生きてるよ。
 可愛い首輪をつけてもらって、鈴の音色も聞こえるんだ。
 寝ても大丈夫、お母さんはいないけど、新しいお母さんができた。優しいお母さんなんだよ。
「にゃーお」
 私は大きな声でないた。
あの頃かき消された雨音よりも、強くお母さんを呼べるようになった。


【あの頃の不安だった私へ】

5/24/2023, 10:51:13 AM