喜村

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 初めて会った時は「可愛い」と言って、すぐに僕を拾ってくれたね。
汚い身体なのに、躊躇いなく拾い上げてくれた。
 目やにがついていて、よく見えないけれど、震える身体に温かな温もりを感じた。

 家に着いたらしいけれど、とんでもなく怒られているのはわかる。
「汚い!」「戻してきなさい!」「うちでは飼えないわよ!」
 拾い上げてくれたその腕は、小さく震えていた。

 しばらくすると、たぶん、さっきまでいた場所に戻ってきたらしい。
「……ごめんね」
 温もりが離れていった。
置いていかないで、と必死に鳴いた。
「ごめんね……!」
 優しく頭を撫でてくれる。
ずっと撫でてほしいよ。いかないでよ。
『みゃー……』
 元気な声が出ない、これが精一杯のお願い。
「ごめんね、ごめんね……」
 声の主はそれだけ何度も呟いて、頭を撫でることをやめた。
 かわりに、温かい雨が数滴ポタポタとふってきた。温かいと感じたのは、自分の身体が冷えていたからだろうか。
 数滴で雨は止み、ごめんねも止まった。
 もう鳴く力もなくなった。声の主はどんな人だったんだろうな。
 しばらくすると、冷たい雨がザアザアと降って、身体を更に冷たくした。


【ごめんね】

5/29/2023, 10:18:45 AM