私には、ユウカちゃんだけいればそれでいい。
暗い夜道、街灯もぽつぽつしかない暗闇を、手を繋いで歩く。
あたりには誰もいない。田舎とまではいかないが、都会でもない中途半端な町だ。
「辛くなったら連絡いれてよ~」
ユウカちゃんは困ったように声をかける。
「付き合ってすぐの人にそんなことしたらめいわ……」
「迷惑なんかじゃない!」
私の言葉を遮り、手を強く握る。
「私達、付き合ってるんだから、楽しいことだけじゃなくて、辛い時も一緒に乗り越えなきゃ! 恋人同士でしょ?」
ユウカちゃんの熱弁に私は面食らった。
「それとも……やっぱり、恋人、じゃ、やだ……?」
恐る恐る伺う私の大切な恋人。
私は首を横に降った。
親が親としてあり得ない扱いをしてきても、友達にいじめられていても、この人がいれば無敵な気がする。
私とユウカちゃんの二人ぼっちの世界でいいのに。他の人なんて、誰もいらない。
手を繋ぎながら、私は月を見上げた。
【二人ぼっち】
※【泣かないよ】の続き
春の穏やかな日差しが降り注いでいたが、私は少し高級なレストランの中にいた。
失礼致します、と声掛けがあったあと、大きなお皿にこじんまりとした何かのお肉がのっている。絵のようになにかのタレがスーッとおいてあった。
一口食べると頬っぺたが落ちるという感覚を初めて体験した。
目の前の数々の料理の奥に、男性がいる。顔はよく見えないが、確か、彼氏だったと思う。
「ランチのフルコース、すごいね」
こそこそと私に声をかけた。
本当だね、と私が笑顔で答えると、彼氏は次のステージに移るかのように、なにやらポケットをごそごそさせる。
そうして、一つの小さな箱を取り出した。
この箱は、よくドラマとかで見る、あの……!
ここまで生きてて、こんなドラマの主人公みたいなことがおきるなんて……
そこでようやく気付いた。これは夢だと。
私は今、病室の中で、生きるか死ぬかの瀬戸際だった。
こんな豪華なご飯なんて食べれない、随分と固形物なんか食べてないし点滴生活だった。
素敵なレストランなんか行けない、寝たきり生活になって外出さえ何ヶ月もしていなたい。
そして、こんな私にプロポーズをするような彼氏なんていない。
これは夢なんだ、だったら夢が醒める前に、この夢を楽しもう。夢ならなんでもできるのだから、醒める前にやりたいことをやってやろう。
春風が強く吹いていたのが、窓から見える木々の揺れ方でわかった。
【夢が醒める前に】
小さい頃に、強い子はなかないんだよ、とお父さんに言われた。
泣かない方がお母さん嬉しいなぁ、とも言われた。
泣かない子は偉いし可愛いよ、とおじいちゃんとおばあちゃんに言われた。
だから私はどんなことがあっても泣かなかった。
おじいちゃんとおばあちゃんが死んでしまった時も泣かなかった。悲しくないはずはない。とっても可愛がってくれていたのだから。
お父さんに初めて襲われた時も泣かなかった。すごく痛いし信じられなくて絶望的になったけれども。
お母さんに無視されすれ違いだらけになっても泣かなかった。本当は助けを求めたいのに、辛くて旨が張り裂けそうになった。
クラスメイトからいじめられても泣かなかった。もう自暴自棄になって、目の前で死んでやろうかとは思った。
「こんな夜中に寒いでしょ、どうしたの?」
私の彼氏兼彼女、またの続柄を恋人のユウカちゃんが、自販機横で腰かける私に心配そうに歩み寄ってきた。
--見ないで
こんな惨めな姿、愛すべき人に見られたくない。
「……泣かない、泣かないよ」
私は自分に言い聞かせるように唱える。
泣いたら今までの人生が崩れるような気がしたから。
とても綺麗な満月が、雲に陰って濁って見えた。
【泣かないよ】
※【お気に入り】の続き
暗いのが怖い。
何も見えず、何も把握できないのが怖い。
痛いのが怖い。
痛いのが好きな人は中々いないだろう、恐怖でしかない。
狭いのが怖い。
圧迫されて、そのまま押し潰されたらどうしようかと思う。
逆に明るいのが怖い。
全てを照らし出されて、見られたくないところまで見られるのが怖い。
優しいのが怖い。
いつ手のひら返しをされてしまうか、恐怖でしかない。
広いのが怖い。
自分がいかにちっぽけなものかがわかってしまうから。
生きるのが怖い。
これから先の見えない未来には、ワクワクよりも恐怖感が勝る。
死ぬのが怖い。
その先に何がおきるのか、知っている人は本当に稀で怖さしかない。
私は結局怖がりで、何が楽しくて生きているのかもわからない。何もするにもとにかく怖くて。
こんな怖がりな私でも、現実は突きつけられている訳で。
だから少しでも怖くならないように、もう何も考えないで、何も感じない、無になろうと思ったんだ。
【怖がり】
冬の空は綺麗だ。空気は澄んでいるし、なにより手に届きそうな程に星が近くにある。
秋の空は遠いと授業で習った。遠ければ遠いで、より多くの星を大画面でみている気持ちになる。
夏の空は暑苦しくてあまり出たくないけれど、夕涼みで点々と見える星空もまた良いもので。
春の空はそれでいうと、気温もばっちりで長く見ていてしまう。
それになにより、四季によって見える星は違ってくる。
絶対習うオリオン座は冬の星座だし、夏の三角形と呼ばれる夏に見える星もある。
地球はあたりに星が溢れている。毎日ずっと同じではないのだ。
今日はどんな星が見えるかな?
【星が溢れる】