喜村

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 春の穏やかな日差しが降り注いでいたが、私は少し高級なレストランの中にいた。
 失礼致します、と声掛けがあったあと、大きなお皿にこじんまりとした何かのお肉がのっている。絵のようになにかのタレがスーッとおいてあった。
一口食べると頬っぺたが落ちるという感覚を初めて体験した。
 目の前の数々の料理の奥に、男性がいる。顔はよく見えないが、確か、彼氏だったと思う。
「ランチのフルコース、すごいね」
 こそこそと私に声をかけた。
本当だね、と私が笑顔で答えると、彼氏は次のステージに移るかのように、なにやらポケットをごそごそさせる。
そうして、一つの小さな箱を取り出した。
 この箱は、よくドラマとかで見る、あの……!
ここまで生きてて、こんなドラマの主人公みたいなことがおきるなんて……

 そこでようやく気付いた。これは夢だと。
私は今、病室の中で、生きるか死ぬかの瀬戸際だった。
こんな豪華なご飯なんて食べれない、随分と固形物なんか食べてないし点滴生活だった。
素敵なレストランなんか行けない、寝たきり生活になって外出さえ何ヶ月もしていなたい。
そして、こんな私にプロポーズをするような彼氏なんていない。

 これは夢なんだ、だったら夢が醒める前に、この夢を楽しもう。夢ならなんでもできるのだから、醒める前にやりたいことをやってやろう。
 春風が強く吹いていたのが、窓から見える木々の揺れ方でわかった。

【夢が醒める前に】

3/20/2023, 1:38:49 PM