喜村

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 小さい頃に、強い子はなかないんだよ、とお父さんに言われた。
泣かない方がお母さん嬉しいなぁ、とも言われた。
泣かない子は偉いし可愛いよ、とおじいちゃんとおばあちゃんに言われた。
 だから私はどんなことがあっても泣かなかった。

 おじいちゃんとおばあちゃんが死んでしまった時も泣かなかった。悲しくないはずはない。とっても可愛がってくれていたのだから。
 お父さんに初めて襲われた時も泣かなかった。すごく痛いし信じられなくて絶望的になったけれども。
 お母さんに無視されすれ違いだらけになっても泣かなかった。本当は助けを求めたいのに、辛くて旨が張り裂けそうになった。
 クラスメイトからいじめられても泣かなかった。もう自暴自棄になって、目の前で死んでやろうかとは思った。

「こんな夜中に寒いでしょ、どうしたの?」
 私の彼氏兼彼女、またの続柄を恋人のユウカちゃんが、自販機横で腰かける私に心配そうに歩み寄ってきた。
--見ないで
 こんな惨めな姿、愛すべき人に見られたくない。
「……泣かない、泣かないよ」
 私は自分に言い聞かせるように唱える。
泣いたら今までの人生が崩れるような気がしたから。
 とても綺麗な満月が、雲に陰って濁って見えた。




【泣かないよ】
※【お気に入り】の続き

3/17/2023, 11:01:45 AM