喜村

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2/18/2023, 12:21:55 PM

 今日は私の誕生日。
今日だけは、私が主役。
何をやっても言い訳ではないけれども、ちょっとくらいのわがままなら、誕生日だから、と、罪悪感なく済ませることができる。

 誕生日だから、ノー残業デーとしてもいいよね?
 誕生日だから、ご褒美デザート食べていいよね?
 誕生日だから、誕生日アピールして祝ってもらってもいいよね?

 あっという間に夜の十一時。
もうすぐ私の誕生日が終わる。
私が主役タイムも終わる。
 明日は明日の主役がいらっしゃる。
明日誕生日の人はおめでとうございます。
 今日にさよなら、また私の主役の日は来年に。


【今日にさよなら】

2/17/2023, 10:52:31 AM

 時間は夜の十時すぎ。
あたりは真っ暗で、二月ということもあって、若干、いや、結構寒い。
 学校の時はクラスメイトにいじめられ、家にいれば父親から性的暴力を受ける。母親は、父親が私にそんなのだから、邪魔者扱いをする始末だ。
 はぁ、と、ため息のような息を吐くと、白い息が確認できた。
なんのために生きてるんだろう、謎でしかない。

 どこにいても辛い目にあうので、私は両親が寝静まるまで、こうして徘徊を続けている。
そして疲れたら、自動販売機の横に決まって腰かける。
 この自動販売機の横は私のお気に入りの場所である。
風避けにもなるし、死角になるため人との干渉もほぼない。
 そしてここで、イヤフォンで好きな音楽を聴くのだ。
お気に入りの場所でお気に入りの音楽を聴く。これが束の間の休息であり、至福のひと時。

 寒すぎて、じっとしていられるのも一時間くらいが限界なもので。
そろそろ寝ただろうか、私は重い腰を浮かせる。
「あれ? ワタナベさん?」
 私の名前を誰かが呼んだ。
それは一番見られたくなかった私のお気に入りの人だった。

【お気に入り】
※【この場所で】の続き

2/16/2023, 1:11:08 PM

 人一倍努力してきたはずなのに。
 自分のことを放り投げてでもやってきたはずなのに。
 誰よりも頑張ってきたはずなのに。

 結局は自分の中での思い込みの「はず」だけであって、周りからは、貴方からは、なんの評価もなかった。

 人一倍、貴方にみてもらえるように、料理やメイクなどを努力してきたはずなのに。
 自分の時間を自分磨きとして、ダイエットをして貴方に見合うようにしてきたはずなのに。
 誰よりも貴方を思って頑張ってきたはずなのに。

 貴方に評価されなくても、誰よりも貴方を思って、これからも振り向いてもらえるように頑張ります。


【誰よりも】

2/15/2023, 12:15:07 PM

 高校三年生の卒業前、10年後の私へ手紙を書け、という授業があった。
 10年後というと、28歳。そろそろ結婚しているだろうか、仕事ももちろんしているだろう。
高校生だった私は、とりあえず、私生活も仕事も頑張って、と書いた。

 そんな手紙を、離婚をして実家に戻った私は読んだ。
古びた学習机の引き出しに、封筒に入ったままの状態で。
 仕事も辞め、所謂、ニートとなったので、お金もないから、実家に住む。部屋は昔使っていた自室。
フリマアプリで売れるものはないか、もしくはお金はないかと部屋を片付けていた時に、茶封筒をみつけ、思わずお金かと思ったが、そんなものではない、過去の私からの手紙だった。

 くだらない。
一気に冷め、私は椅子に腰かける。ギィっと音がなった。
 その時、茶封筒の隣にもう一つ嫌いな便箋が置いてあった。まだ封には入っておらず、書きかけのようだ。
 誰かに宛てた手紙を書きかけで止めるようなことはした記憶はないのだが……
手には取らず、目線だけを便箋に落とす。

【28歳の私へ。38歳の私からのアドバイスをここに記す。読むか読まないか、信じる信じないかは、28歳の私が決めて。信じて続きのアドバイスを読む場合は、一番下の引き出しを開けて。】

 何これ……
 私は生唾を飲み込んだ。
 10年後の私から届いた手紙……?
 止まっていたはずの自室の時計の秒針が、何故かやけに大きく聞こえた。


【10年後の私から届いた手紙】

2/14/2023, 12:27:55 PM

 俺の彼女は料理が苦手らしい。
昔、手作り料理がんばる!、と意気込んでご馳走してもらったけど、調味料の味と焦げのジャリジャリ感しかなかった。
 世間がバレンタインデーだと受かれているが、彼女は明らかにどんより模様。

 そして本日、当日の二月十四日、バレンタインデーである。平日であるため、仕事終わりに駅で待ち合わせ、という話であった。
 駅を出て、ロータリーまで行くと、大きな花束を持った彼女がいた。
「ど、どうしたの、その花!」
 咄嗟にそう口走ると、彼女は花束に隠れながら一言。
「ハッピーバレンタイン」
 そして花束を俺に押し当てるように渡す。
ピンクや赤やオレンジといった、温かみのある色合いで、花束の真ん中にはメッセージカードと、お気持ち程度の小さなチョコレートらしきものがあった。
「えー! ありがとう! 食べていい?」
 無言で頷く彼女。

--ガリッ

 歯が欠けた。血の味のチョコレートだ。
でも、ハッピーにかわりはない。
岩より固いチョコレートと温かい花束。
「あ、ありがとう……!」


【バレンタイン】
※【花束】の続き

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