喜村

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 時間は夜の十時すぎ。
あたりは真っ暗で、二月ということもあって、若干、いや、結構寒い。
 学校の時はクラスメイトにいじめられ、家にいれば父親から性的暴力を受ける。母親は、父親が私にそんなのだから、邪魔者扱いをする始末だ。
 はぁ、と、ため息のような息を吐くと、白い息が確認できた。
なんのために生きてるんだろう、謎でしかない。

 どこにいても辛い目にあうので、私は両親が寝静まるまで、こうして徘徊を続けている。
そして疲れたら、自動販売機の横に決まって腰かける。
 この自動販売機の横は私のお気に入りの場所である。
風避けにもなるし、死角になるため人との干渉もほぼない。
 そしてここで、イヤフォンで好きな音楽を聴くのだ。
お気に入りの場所でお気に入りの音楽を聴く。これが束の間の休息であり、至福のひと時。

 寒すぎて、じっとしていられるのも一時間くらいが限界なもので。
そろそろ寝ただろうか、私は重い腰を浮かせる。
「あれ? ワタナベさん?」
 私の名前を誰かが呼んだ。
それは一番見られたくなかった私のお気に入りの人だった。

【お気に入り】
※【この場所で】の続き

2/17/2023, 10:52:31 AM