喜村

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 高校三年生の卒業前、10年後の私へ手紙を書け、という授業があった。
 10年後というと、28歳。そろそろ結婚しているだろうか、仕事ももちろんしているだろう。
高校生だった私は、とりあえず、私生活も仕事も頑張って、と書いた。

 そんな手紙を、離婚をして実家に戻った私は読んだ。
古びた学習机の引き出しに、封筒に入ったままの状態で。
 仕事も辞め、所謂、ニートとなったので、お金もないから、実家に住む。部屋は昔使っていた自室。
フリマアプリで売れるものはないか、もしくはお金はないかと部屋を片付けていた時に、茶封筒をみつけ、思わずお金かと思ったが、そんなものではない、過去の私からの手紙だった。

 くだらない。
一気に冷め、私は椅子に腰かける。ギィっと音がなった。
 その時、茶封筒の隣にもう一つ嫌いな便箋が置いてあった。まだ封には入っておらず、書きかけのようだ。
 誰かに宛てた手紙を書きかけで止めるようなことはした記憶はないのだが……
手には取らず、目線だけを便箋に落とす。

【28歳の私へ。38歳の私からのアドバイスをここに記す。読むか読まないか、信じる信じないかは、28歳の私が決めて。信じて続きのアドバイスを読む場合は、一番下の引き出しを開けて。】

 何これ……
 私は生唾を飲み込んだ。
 10年後の私から届いた手紙……?
 止まっていたはずの自室の時計の秒針が、何故かやけに大きく聞こえた。


【10年後の私から届いた手紙】

2/15/2023, 12:15:07 PM