喜村

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 俺の彼女は料理が苦手らしい。
昔、手作り料理がんばる!、と意気込んでご馳走してもらったけど、調味料の味と焦げのジャリジャリ感しかなかった。
 世間がバレンタインデーだと受かれているが、彼女は明らかにどんより模様。

 そして本日、当日の二月十四日、バレンタインデーである。平日であるため、仕事終わりに駅で待ち合わせ、という話であった。
 駅を出て、ロータリーまで行くと、大きな花束を持った彼女がいた。
「ど、どうしたの、その花!」
 咄嗟にそう口走ると、彼女は花束に隠れながら一言。
「ハッピーバレンタイン」
 そして花束を俺に押し当てるように渡す。
ピンクや赤やオレンジといった、温かみのある色合いで、花束の真ん中にはメッセージカードと、お気持ち程度の小さなチョコレートらしきものがあった。
「えー! ありがとう! 食べていい?」
 無言で頷く彼女。

--ガリッ

 歯が欠けた。血の味のチョコレートだ。
でも、ハッピーにかわりはない。
岩より固いチョコレートと温かい花束。
「あ、ありがとう……!」


【バレンタイン】
※【花束】の続き

2/14/2023, 12:27:55 PM