喜村

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12/30/2022, 2:17:35 PM

 今年はいろんなことがあった。
私は厄年だから、期待していない年だった。

 新年に学生以来、あなたに再開して、次の月には付き合うようになった。
3月には同棲を始めて、4月には新しい仕事を始めたんだった。6月までは新しい仕事に慣れるまで必死で、すれ違うことも結構あったね。
 もうここまで上半期だけでも、怒涛な年だったよね。
 7月にはまさかの妊娠発覚で、8月に帰省と一緒にご両親に挨拶。すっごく緊張したよ。あなたも凄い緊張してたの伝わったわ。
9月まではつわりが酷くて仕事も結構休んじゃって、あなたにはかなり迷惑かけたよね。
10月に安定期目前で流産しちゃって、11月にはあなたが浮気してたことが分かって、入籍目前だったのに酷いなぁ、とか思ったけど、まぁ、バツが付かなかったからよかったか、と思うことにしたよ。

 そして今、12月。私は無機質な天井を仰いでいる。
「聞こえますかー?」
 看護師さんか先生か私に声をかけてくれている。
 忘年会の後、酔っ払って道路に飛び出てしまった記憶まではあるんだけど……。
 ここは病室。私のこの一年間、ほんと、なんだったんだろう。さすが厄年だったな、と思った。

【一年間を振り返る】

追記、このお話はフィクションです。

12/29/2022, 10:43:45 AM

 僕はあまりたくさんのご飯を食べることができない。体質的にご飯をあまり食べられないのだ。

 冬のある日、部屋のコタツの上に、みかんがあった。
 でも、もちろん、みかん一個を食べきるのも容易ではない。嫌いなわけではなく、本当に喉を通らなくなるのだ。
 そんな僕の体質を知らない人は、どうぞどうぞと食べ物を差し出す。遠慮ではなく、本当に食べきれないから食べないだけなのに。
「お兄ちゃん、みかん半分こしよ?」
 年の離れた弟が、僕にみかんを差し出す。
弟はまだ4歳で、体質ではなく胃袋の大きさ的に、みかん一つでお腹がいっぱいになるようだ。
「そうだね、食べよっか」
「むーいーてー!」
「はいはい」
 まだ上手くみかんの皮を剥けないので、僕が剥いて半分こにしてあげる。
 いつか弟の方が、みかん一つを余裕で食べきれるようになるだろうけれど、それまでは、僕と一緒に仲良くみかんを半分こして食べようね。


【みかん】

12/28/2022, 11:05:18 AM

「いらっしゃいませ~」
 私·中田は、接客業をして早20年。高校を卒業してから、接客業でしか働いたことはない。
 ロッカーで着替え中、隣の子がちらりとこちらを見た。
「中田さん、年末年始休みとらないんですか?」
 去年入ってきた後輩が私に問う。
「私が休んだらお店が回らないでしょ」
「でも、クリスマスも休みとらなかったじゃないですか」
「そりゃぁ一人でクリスマスすごすより、仕事してた方気が楽だからね」
 そっかー!、と後輩は納得していた。
「それに連休あっても、やることないし暇だし」
「それじゃぁ、学生時代はどうしてたんですか?」
「え?」
「夏休みとか冬休みとかあったはずですよね? 暇してたんですか?」
「部活したり、バイトしたり……」
「お年玉もらったり親の実家行ったりとかは?」
 どうしよう、20年前の記憶がない。
私は着替えの途中でフリーズした。
 冬休み、20年前の、人生最後の冬休み、私は何をしていた……?
「あ、気にしないでください、気にしないでください!」
 後輩はあまりの真剣な私をみて苦笑いをする。
 そして私は今年も冬休み、もとい、年末年始も仕事三昧なのであった。


【冬休み】

12/27/2022, 1:04:32 PM

「ワタナベ、それ一年生の頃から使ってない?」
 高校三年生の冬、私はクラスの一部からいわゆる『いじめ』を受けていた。
 ボスである女からなにかと、からかわれたり、突っかかってこられる毎日。
「一年生の頃からじゃないよ、中3から」
 にっこり笑顔で私はそう切り返す。
「はぁ!? 中3!?」
「ワタナベ家はそんなに貧乏なのかよ!」
 どっと爆笑の渦である。
「大切な彼氏からもらったものなの♪ 使えるうちは大人になっても使うよ?」笑顔のまま使える「それとも、みんなはコロコロ彼氏が変わるから、その都度プレゼント捨ててるの? あ、それとも、プレゼントもらったことない、とか? かわいそ……」
 私が全部言いきる前に、ボスの女が持っていた水筒の飲み物を私にかける。
「あ、ごめん、水筒の蓋しまってなかったみたい~」
 あはは、と笑ってそのグループは撤退していった。

 冬の下校時間は、陽が昇っているのにもう寒い。更に飲み物を頭からかぶっているので尚更だ。
「ごめんごめん、待った?」
 短く刈った茶髪の私の彼氏が、駅のホームから駆けてきた。
「ううん、大丈夫!」
「あ! 今年もその手袋使ってくれてるんだね!」
「うん! だから温かかったよ~」
 彼氏は、へへへ、と笑ってくれた。
どんなに嫌がらせを受けても、私は大丈夫だからね。
 私は手袋越しに彼氏と手を繋いだ。


【手ぶくろ】

追記、ゆずの香り、の数年後

12/26/2022, 11:23:24 AM

 私は数年前に故郷を捨てた。
 とても田舎で、街灯は少ないし、娯楽施設もない。
雪はたくさん降るし、公共交通機関もあってないようなものだ。
 もうこんな場所嫌だ!
どこかでそんな歌を聴いたことがあるが、まさにその通りで、故郷を捨てた。

 今は大都会·東京へと上京し、何年か経ったある日。流行り病も落ち着き始めた頃合いを見計らって、久々の帰省である。
 新幹線を使い、電車に乗り継ぎ、本数の少ないバスに揺られてついた。

 変わらないものはない。
それは、進化、だけではない。

 故郷は変わっていた。
悪い意味で変わっていた。
 電車は廃線になり、唯一のコンビニも潰れ、廃屋が増えている。

 私は故郷を捨てて、果たしてよかったのだろうか。
 しかし、私一人がいたことで、何か良い意味での変わることはできただろうか。

 何もないこの場所で、変わらず残っていたのは、実家だけ。
 私は自室で、しばらく呆けた。



【変わらないものはない】

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